85 女神はアルカがお気に入り
彼女は強気な笑みを浮かべながら俺たちを見下ろしていた。
ばちばちと全身に蒼雷を纏わせる金色の髪の美女。
〝雷〟と〝破壊〟を司る女神――〝フルガ〟さまである。
雰囲気的にはオフィールに近いかもしれない。
恰好も彼女同様やたらと薄着だし。
「で、わざわざこのオレを呼び出したのは女の自慢をするためか? ええ?」
「あ、いえ、別にそういうわけではなく……」
まさか皆が俺にくっついてる時に現れようとは……。
美女でご機嫌を取ろう作戦大失敗である。
なので俺はこれ以上フルガさまを刺激しないよう、女子たちよりも一歩前に出て言った。
「俺たちは世界に安寧をもたらすために旅をしている者たちです。今日はフルガさまにお話があって足を運ばせていただきました」
「なるほど。で、手土産がそこの女たちってわけか」
にやり、と舐め回すような視線を女子たちに向けるフルガさまに、俺は首を横に振る。
「いえ、彼女たちは――」
と。
「――ええ、そのとおりです。あなたさまが美女を好むと聞き、選りすぐりの者たちを集めました」
「えっ?」
突如マグメルがそんなことを言い出し、俺は目を丸くする。
だがほかの女子たちはまったく驚く素振りを見せず、マグメルの言葉に無言で耳を傾け続けていた。
どうやら頓挫しかけていた美女作戦を続行するつもりらしい。
大丈夫なのだろうかと心配する中、フルガさまが地上に降り立ち、こちらへと近づいてくる。
「――うっ!?」
そしてマグメルの顎をくいっと持ち上げ、その顔を覗き込んだ。
「ああ、確かに悪くないな」
それはマグメルだけに留まらず、残りの女子たち全員も同じように値踏みする。
最中、フルガさまはアルカの前で立ち止まって言った。
「とくにお前はいい。オレはお前みたいに芯の強そうな女が大好物でな」
「それはお褒めに預かり光栄だ、雷の女神よ」
そう余裕の笑みを見せるアルカに、フルガさまもまた口元を大きく歪ませる。
しかし彼女はすっとアルカの顎から手を放すと、不敵な笑みを浮かべて言った。
「だがな、お前たちからはこの男の匂いがぷんぷんしやがる。それどころか身体の中からもこの男の気配を感じる。元はイグニフェルの力だったんだろうが、途中で変質しやがったんだろうよ。そんな女なんざ抱けやしねえな」
「ですって。残念だったわね、アルカディア」
そう肩を竦めるザナに、アルカは「いや、お前もだろ」と半眼を向けて言った。
「少なくとも、私たちは全員フルガさまのお眼鏡には適わなかったというわけだ」
と。
「――いや、そうでもないぞ」
「「「「「「!」」」」」」
ふいにフルガさまがそう首を横に振り、
「――むっ!?」
ぐいっとアルカの腰を抱き寄せて言った。
「確かに男臭いが、オレはお前が気に入った。だからお前がオレの女になるのなら話ぐらいは聞いてやる」
「いや、さすがにそれは……」
「何、心配するな。オレは飽きっぽい性格だからな。一年も楽しんだら返してやる。もちろん記憶も消しといてやるから安心しろ。まあ多少は身体が敏感になってるかもしれんが、それはそれで楽しめるだろ?」
そういやらしい笑みを浮かべるフルガさまを、しかしアルカは鼻で笑う。
「ふ、期待させて申し訳ないが、私にはイグザの〝フェニックスシール〟があるのでな。籠絡などされんぞ」
「ああ、その下腹部の印のことか。確かにそいつで深く繋がっている以上、お前の心をどうこうすることは難しいだろうよ。だがな、オレのはそういう類のものじゃねえんだよ」
「……何?」
訝しげに眉根を寄せるアルカの身体を、ばちっと一瞬だけ雷撃が襲う。
「――がっ!?」
「「「「「――っ!?」」」」」
揃って驚愕に目を見開く俺たちだったが、それよりも気になったのは、荒く呼吸し、赤い顔で自身の身体を抱いているアルカの姿だった。
まるではじめてヘスペリオスに魅了された時と同じだったのである。
「き、貴様、私の身体に何をした……!?」
「何、少し気持ちよくさせてやっただけだ。快楽ってのは電気信号だからな。雷の神であるオレにかかればこんなもんだ。心はイジれねえ――が、身体はどうとでも出来る。さぁて、お前がいつまで耐えられるか見物だな」
「くっ……」
「で、どうする? 女を差し出すか?」
フルガさまの問いに、俺は即答した。
「いえ、その条件は受けられません。アルカは俺の女です。いや、アルカだけじゃない。マグメルも、オフィールも、ザナも、ティルナも、皆俺の大事な嫁です。あなたに差し出すわけにはいかない」
「クックックッ、そうだろうな。だがいいのか? お前たちはオレに用があってわざわざこんなところまで来たんだろ? なのにこのまますごすご帰るってのか?」
「まさか。フルガさまにはきちんと俺たちの話を聞いてもらいます」
「へえ? どうやって?」
そう挑発的な視線を向けてくるフルガさまに、俺はスザクフォームへと変身して言ったのだった。
「もちろん力尽くでです。あなたもそっちの方がお好きなのでは?」
「クックックッ、そうだな。お前はなかなか分かってる男だ。――いいぜ。ならかかってこいよ、人間! てめえに神の力ってものを存分に味わわせてやるぜ!」




