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82 痛み分け


 ――《プロメテウスエクスキューション》。



 それはヒヒイロカネを生成する際にも用いられた灼熱の牢獄である。


 これに閉じ込められた者は超金属であるヒヒイロカネを除き、その全てが灰燼へと帰す――そのはずだったのだが、



「はあ、はあ……」



 まさか例外が生まれるとは思わなかった。


 さすがは聖者たちのリーダー格と言ったところだろうか。


 途中で身体を肥大化させ、俺の拘束を無理矢理解いたかと思うと、空間を斬り裂いて外へと脱出したのである。


 今はもう元の姿へと戻っているが、恐らくはあれが先ほどシャンガルラとの会話に出ていた〝獣化〟というやつであろう。


 たぶんスザクフォームのように己の力を最大限発揮出来る形態へと進化するんだと思う。



「そういえば貴様は〝不死〟であったな……。なるほど、確かに今のは私のミスだ……」



 肩で大きく息をするエリュシオンに、俺も意外だとばかりに言う。



「まさかあの技から抜け出すとはな。でもおかげであんたは満身創痍だ。悪いがこのまま終わらせてもらうぞ」



 すっと弓を構え、俺はエリュシオンに狙いをつける。


 だがやつはこの状況でも慌てる素振りを一切見せず、むしろ顔に余裕を戻して言った。



「それは些か早計というものだぞ、小僧……っ」



「……何?」



 俺が眉根を寄せる中、エリュシオンの神器から先ほどと同様の黒いオーラが伸び、その身体へと絡みついていく。



 ――しゅううううううううううう。



 そしてそれはやつの傷を瞬く間に再生させ、数秒も経たないうちにほぼ全快と言っても過言ではない状態にまで回復させた。



「なん、だと……っ!?」



「だから早計だと言っただろう? よもや貴様だけが不死級の再生力を持っているとでも思っていたのか?」



「くっ……」



 こうなってしまっては仕方がない。


 俺は今一度やつに大ダメージを与えるため、弓から斧へと切り替える。


 だが。



「貴様の力量は十分に理解した。――今日はここまでだ」



 やつは太刀を鞘に収めると、そう言って踵を返し始めた。


 どうやらこれ以上戦うつもりはないらしい。


 ならばと俺も斧を消失させ、悠然と去っていくエリュシオンの背中を見据える。


 今ここでやつを叩いてもいいが、さっきの黒いオーラのようにまだ分からない点も多いからな。


 一度冷静になって、こちらも万全の態勢で臨んだ方がいいだろう。

 

 つまり今回は〝痛み分け〟ということになるのだろうか。


 まあでもわりかしぼこった感があるんだけどな。



      ◇



 聖者たちの襲撃を凌ぎ、俺たちは再び里へと戻ってくる。


 俺たちが無事帰還したことで、ドワーフたちもほっと胸を撫で下ろしているようだった。



「おお、戻ったか。して、どうじゃった?」



 工房へと戻ってきた俺たちに、ナザリィさんがいつも通りの様子で尋ねてくる。


 どうやら彼女は俺たちが無事に戻ってくると確信していたらしい。


 ありがたい期待だ。



「ええ、なんとか追い返しました。これもアマテラスオーブのおかげです。本当にありがとうございます、ナザリィさん」



 俺が深く頭を下げると、ナザリィさんは少々恥ずかしそうに言った。



「う、うむ、まあ役に立ったようで何よりじゃわい。おぬしらの防具ももう少しで出来るゆえ、しばし待つがよいぞ」



「「「「「はい(ええ・ああ)」」」」」



 揃って頷く女子たちに、ナザリィさんも満足そうだ。



「それでじゃ、来訪者どもはどうであった?」



 ナザリィさんの問いに、俺たちは先ほど起こった全ての情報を伝える。


 すると、彼女は腕を組み、「亜人種のみの新世界、か……」と神妙な顔をしていた。



「つーか、人類の抹殺なんて本当に出来んのか? そんなの女神たちが黙っちゃいねえだろ?」



「そうね。とても現実的とは思えないわ」



「うん。わたしとお母さんも含めて、人魚たちも皆には凄く感謝してる。たぶんドワーフにしてもそう。だから亜人種たちが皆人類の滅亡を望んでいるわけじゃないと思う」



「ええ。むしろ彼らのような一部の強硬派だけでしょうね。あのシャンガルラという者にいたっては、ただの暇潰しだと言ってましたし」



「やれやれ、暇潰しで殺されては堪ったものではないな……」



 そう肩を竦めるアルカに、俺も同意する。



「そうだな。だからなんとしても彼らを止めないと。そのためにも装備の新調が終わり次第、雷の女神――フルガさまのもとに行こう。終焉の女神とやらが何者かも、彼女に聞けば分かるかもしれないからな」



「「「「「――」」」」」



 こくり、と頷く女子たちに、俺も大きく頷き返していたのだった。


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