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転生家庭教師のやり直し授業◆目指せ!教え子断罪回避◆  作者: ナユタ
◆第四章◆

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★17★ 金の分銅、銀の分銅。


「あー、それじゃあさっき一瞬向こうから聞こえたざわめきの原因は、ベルタ先生のせいだったわけか」


「その言い分だと語弊があるぞ、エリオット。あの場で彼女がマキシム様の誘いを断ることはできなかった」


 曲線を描くドーム型の天井に大舞踏会場の楽団が奏でる曲が、目に見えない音の滝となって降り注ぐここは、小舞踏会場だ。


 名前の通り上級貴族しかいない静かな大舞踏会場とは違い、あちらの余り物貴族で構成された小規模なこちらは、舞踏会というよりもサロンの延長といった気安いものである。


 成り行きとはいえ第一王子と踊ってしまったことで、会場内の貴族達からの視線が集中して居心地の悪そうだったベルタ嬢を誘いこちらに移ったが、広さ故に割とすぐに目立つこの二人と合流できたのは良かった。


 木を隠すなら森の中というが、隠すほどの木がない場合は、かえって目立つものの近くに置いておく方が安全なこともあるからだ。


「いえ、まぁ……私もその場ですぐ上手く言い逃れる言葉を探せれば良かったのですけれど。生憎と何も思い浮かばなくて」


「あら、でも貴重な体験だったのではないかしら~? 子爵家の令嬢が王子様と踊るだなんて、物語の中だけのことかと思っておりましたもの~」


 曲に合わせて彼女をターンさせると、燕尾服に良く似たドレスの裾が風をはらんで翻る。日に焼けたクリーム色の花嫁衣装の裾から、白と黒の配色に赤いリボンをあしらった紳士靴が彩りを添えた。


 隣で同じくエリオットにリードされたアグネス嬢がターンを決め、春を先取りした鮮やかなミモザ色のドレスが翻った。こちらは若草色の少女めいた靴だ。

 

「そんな風に考えられるだなんて……アグネス様は大物ですわ」


「事実は小説より奇なりと言いますけど、これで本当にまったくあり得ないとも限らなくなりましたわね~。少なくとも夢は持ってみるものだって証明できました。妹さんの新しい作品の題材にも使えるかもしれませんわよ~」


 俺と向かい合ったままの姿勢で虚ろな笑みを浮かべるベルタ嬢と、生気に満ちた笑みを浮かべるアグネス嬢は対照的で面白い。


「確かにそうかもなー。アグネス嬢ってば良いこと言うね。オレはてっきりベルタ先生が着てるそのドレスが、前に観た男装の麗人の舞台広告なんだと思ってた」


「エリオット……流石に王家の式典でそんなことをしようとしたら、俺も止める。このドレスは偶然そうなっただけだ」


 ベルタ嬢もだが、アグネス嬢も相当ダンスが上手い。エリオットのリードに動きを合わせているものの、補助をしなくとも重心がぶれたりすることはないに違いない。見た目が奇抜でなくなった彼女は、これまで目立たなかった所作の美しさや洗練ぶりが人目を惹く。


 逆にエリオットが面白がってデタラメなステップを踏もうとすれば、さりげなく自身の爪先でエリオットの爪先の着地場所を誘導していた。


「でも本当に子供の悪戯は予測不可能で驚かされますわ。それに、成長にも。お二人のおかげで今夜のアウローラ様はとても堂々としていて……本当に見違えてしまいました。ありがとうございます。それにマリアンナ様の改造もお見事でした」


「いえいえ。あれはお姫様のベルタ先生に会いたさ故の頑張りってやつ。師妹愛の成せるわざ。オレも早くベルタ先生に会いたかったしね」


「そうですわ~。アウローラ様からしっかり課題が返ってくるおかげで、うちのマリアンナ様も真面目に取り組んで下さったのですもの。お互い様です」


 第一王子をつかまえて“子供”と評する彼女の言葉に若干呆れる。エステルハージ殿が心配していたところは、彼女のこういうところなのだろう。聡明であるはずなのにどこか迂闊で、自身を取り巻く物事への判断が甘い。


 教え子や妹を取り巻くことに対しての警戒心は高いのに、自身のことへはからきしだ。さっきの第一王子の行動は“子供の悪戯”では済まない。恐らくマキシム様もそれを理解しての行動だった。


 あれだけ多くの上級貴族を前に彼は宣言したのだ。一子爵令嬢に過ぎない彼女を【自身の一部だ】と。ただ結局のところ俺も“子供”と思って油断した。理性的なフランツ様とは違い、直情径行で行動の読みやすい“子供”だと。


 しかし彼はベルタ嬢と出会って我慢を憶え、忍耐と思考力を手に入れた。彼女がマキシム様の家庭教師に就く前は、政権交代が第二王子派閥にとっても望みがある状態だったし、実際に第一王子派閥筆頭のランベルク公爵以外は身の振り方に迷いが生じていた。


 しかし当初第二王子派閥かと思っていたベルタ嬢が、王命とはいえ第一王子派閥の引き抜きに合い、優勢の状況が拮抗状態にもつれ込んだ。


 彼女は天秤に載せられる分銅から、いつの間にかその役所を天秤本体の方に変えてしまった。分銅は二人の王子。


 おまけにそれぞれが彼女を慕っている。彼女の立場は次代を担う権力者の双方から親愛を向けられる存在となった。それは第一王子派閥からも、第二王子派閥からも監視される対象になるということだ。


「ベルタ先生はさ、上級貴族の執着心の怖さをもっと警戒した方が良いよー? 本当にしつっこいから。下手な婚約話持ちかけられても断ってねー?」


 同じことを考えていたのだろうエリオットが、そう言いながらこちらに意味深な視線を寄越す。無意識に彼女をホールドする腕に力がこもり、そのことに気付き慌てて見下ろした先には、こちらを困惑気味に見上げて頬を染める彼女の姿。


 そんな場合ではないのにこの気まずさは癖になりそうだと、馬鹿げたことをちらりと感じた。

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