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転生家庭教師のやり直し授業◆目指せ!教え子断罪回避◆  作者: ナユタ
◆第三章◆

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*10* お久しぶりからの途中経過発表。


 教え子と妹と一緒に王都までの道程を楽しくすごし、王都内に入ってからはお互いの戻るべき場所に収まり、コーゼル侯爵夫妻から教え子へ形ばかりの謝罪と、私への礼の言葉を頂いてから五日後。


 そのたった五日で、アウローラがすでにエステルハージ領にいた日々を懐かしみ出した。しかも問題の姉君と夫君の関係は未だに修復できておらず、冷却期間と称してまだコーゼル領の屋敷にいるらしい。


 ここまでの出来事で以前までの教え子は闇落ちしているところだが、今回はまったく気にしていなかった。それどころか――、


『領地にいるよりも、先生のところの方が楽しかったので大丈夫ですわ』


 ――と、言い放ったのだ。三ヶ月離れた間の末娘の変わりように侯爵夫妻は驚いた様子を見せたものの、肝心のアウローラは『先生、お勉強しましょう』と満面の笑みを浮かべ、私の手を取ってさっさとその場を離れてしまった。


 自立心の芽生えが嬉しい反面、着々とヤンデレ百合ルートを爆走している感じがして安心できない。ふふふ、怖いわ……。


 その後コーゼル夫人は傷心中の娘を慰め……もとい、実家に籠城中の娘を宥め透かすために領地に戻って行った。侯爵も連日朝から社交場へと入り浸っている。


 七日目、久々に再会したフェルディナンド様にそのことを教えたら、彼は爆笑しながらアウローラを良い笑顔で褒め讃えていた。本人はキョトンとしていたので、あの発言に他意はなかったのだろう。


 それから『これ、約束してたやつね』と、彼が何気なく差し出した握り拳の下に掌を広げれば、若草色に金と銀の掠れが入った楕円形のガラスビーズでできた葉っぱのイヤリングだった。


 お代を渡そうとしたら固辞されてしまったので、二月に二十四歳の誕生日を迎えていたから、そのプレゼントだと思って頂戴すると言えば『もっと早く教えてよ』と笑われた。


 ――王都に到着してから十日目。


 今日は教え子はマリアンナ様と昼からお茶会に出かけて、アンナは夕方からヴァルトブルク様も出席している社交場へ。残された私はと言えば――……。


 二時から教え子の逃走資金を集めるために展開した、知育玩具事業の第一回報告会議に顔を出していた。ちなみにすでにフェルディナンド様の采配により、一部の界隈で完全受注生産として商品化している。


 報告会の出席者は四人。フェルディナンド様、アグネス様、ホーエンベルグ様、そして私である。要するにいつもの面々だ。久しぶりの再会に使ったのはあのカフェではなく、フェルディナンド様が王都滞在に使用するお屋敷の一室だ。


 最初は和やかな近況報告で幕を開けたので、何故いつものカフェで集まるのではいけないのかと首を捻ったけれど……たったいま、その理由が知れた。


「あのですね、フェルディナンド様。これはどうなっているのでしょう」

 

「んー? 何か取り分の計算で分からないとこでもあった?」


「その、頂いた取り分の明細の桁が思っていたよりも一つ多いのですが……これで計算合ってますか?」


 興奮から声と指先が震える。同じ書類を持っている三人は自身の手許の資料に視線を落とし、私が示した箇所を確認してくれた。


「いや……特段エリオットが用意した書類に不備はないが。スペンサー嬢は何か気付いただろうか?」


「いいえ~? 分配金額はきちんとベルタ様が六でフェルディナンド様が四です。全売り上げの金額から集計したら一人頭この数字で間違いありませんわ~」


 出資してくれた人達にはクラウドファンディングと同じで、新商品の予約待ちの順番が優先的に早くなることと、割引がある。現在は一旦締め切っているものの、商品の質を上げる際には再び受け付けるつもりだった。

 

 けれど現在見ている額面からすれば、しばらくはその必要もないかもしれない。お金持ちはもう何にお金を使えばいいのか分からないのだ、たぶん。


「最初に上級貴族向けの商品にするって言ったでしょー? そうしたら完全受注生産でもこれくらいにはなるってば。中にはうちの家名で売り出したから、美術品として手許に置きたいって人もいるけど。大抵は本来の目的通りの購入層だよ」


 お金持ち相手の商売でこの程度の金額は慣れっこなフェルディナンド様と、城勤めで金銭感覚の緩いホーエンベルグ様、そう言った事柄を言葉にはしなさそうなアグネス様。ものの見事に金銭感覚を共有できる味方がいない。


「そういえばそれについて要望というか……一部からロイヤル版の製作予定はないのかという声が上がっていたな」


「ロイヤル版?」


「簡単に言えば親世代が遊べるようなものだな。もっと遊戯盤の装飾を凝らして地形も増やして欲しいだとか、子供用は一国ごとの宰相が主人公だが、ロイヤル版は一国の王を主人公にして作れないかという内容だった」


 ホーエンベルグ様の口からまさかの案が飛び出した。言うは易しという言葉がこれほど相応しい場面もないだろう。でも明らかにお金になりそうな魅力的な申し出ではある。


「要するに英傑の出揃う国盗りものですか。確かにできなくはありませんが……」


 完全に三國志か戦国時代か百年戦争が下敷きになることを考えると、錆び付いた記憶のひきだしを開ける手間を考えるだけでゾッとする。人気のローマ史は残念ながらあんまり憶えていないんだよな……。


 ――が、やっぱりやってみたい。


 相棒であるフェルディナンド様の方を見れば、彼も「もっと面白くなりそうだよねー?」とニヤリ。これで方針はほぼ決まった。


「あら素敵、それなら世界観に合わせたドレスや装飾品も増えますわね~」


 ただアグネス様のその無邪気な一撃に、ドレスのデザイン選択もあることを思い出して、遣り甲斐にちょっぴり影がさしたわ。

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