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転生家庭教師のやり直し授業◆目指せ!教え子断罪回避◆  作者: ナユタ
◆第三章◆

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★7★ 何がどうしてそうなった?


 狭い調理場の方から陶器の触れ合う音が聞こえ、暖炉の中でさっき追加したばかりの薪がはぜて火の粉を散らす。こうして気まぐれな友人の仮住まいの暖炉に火が灯るのを見るのも一年ぶりだ。


 ――と言っても、もう一週間後にはエリオットはここから自領に帰るのだが。


 手許の彼女が描かれたデッサンに視線を落とした直後、追加のツマミが乗った皿を手にしたエリオットが戻ってきたので、デッサンを汚さないよう避難させ、テーブルの上にあったワインの空き瓶を床に置いて皿の場所を確保した。 


「いやーホント、今回はいままでほとんど訪ねて来ないからどーしてんのかと思ってたけど。まさか休憩時間に存分に遊ぶために授業の前倒しとか……王子様よっぽど気に入ったんだなー。あの悪魔の遊戯盤」


 手土産に持ってきた二本目のワインをすでに半分開けたエリオットはそう言うと、チーズを乗せたクラッカーの皿をつつく。食べろということだろう。


 勧められるままクラッカーを一つ取り、甘めの赤ワインの余韻が居座る口に塩気を足そうと齧った。


「その呼び名はどうかと思うが……確かに気に入ってるどころか、最近はわざわざこちら派閥の人間を捕まえて参加させている。しかもそのうちの何人かはまたやりに来るから、一種の中毒性があるのは認めよう」


「へぇ、それは発売前にいい情報だな。いっそ発売するときは“王家御用達”とか銘打ってみるか?」


「……不敬な上に笑えない冗談は止めてくれ。実際に『私も出資ができればいいのに』と最近ことあるごとに口にしている。ヴァルトブルク子爵が出資者に名乗りを挙げてくれたから事なきを得たんだ」


「王子様のご厚意はちょっと下級貴族の肩には余るね。遊びに本気を出すのは好きだけど、権力者の寵愛を受けてやっかまれるのも嫌だからな」


 そう肩をすくめるエリオットはふざけているように見えるが、瞳の奥は真剣そのものだ。この遊びを誰にも壊されたくないと思っているのだろう。


 しかし熱しやすく飽きっぽいエリオットが打ち込むのも分からないではない。ベルタ嬢の持ち込む発想は旧態依然とした風潮に凝り固まった貴族の枠組を、意図も容易く越えてくるからだ。


「これは俺の他に誰が参加してるんだ?」


「オレとベルタ嬢とアグネス嬢と、試作品を配った貴族だけだ。けど一番最初に声をかけられたのがオレでごめんなー?」


「別にそれは構わんが……アグネス嬢に会ったのか」


「ああ。何か独特の配色と感性で、ベルタ嬢とは違う方向で面白かったよ彼女。彼女には王子様にあげた遊戯盤の女の子向けを手伝ってもらってる。何せドレスの点数が多いからな。オレとベルタ嬢と教え子ちゃんだけだと手が足りない」


 それを聞いてやはりこの男の根は貴族ではなく芸術家なのだと思うと同時に、人を測る評価基準がどちらも“面白い”というぶれない点に苦笑する。


「そういえば遊戯盤以外に渡した玩具の手応えはどんな感じ? あんまり反応が良くないようならそっちの初動少なくして、遊戯盤の方に力と資金を注ごうかと思うんだけど」


 早くも並々と注いだばかりのワイングラスを空にしたエリオットは、唇を一舐めしてそう言う。しかし一回興じるのに時間を有する遊戯盤と同じくらい、単純でそこまで時間を割かなくてすむ他の玩具も好評だ。


「いや、あとの玩具は遊戯盤よりも対象年齢が低くてもできると、一部の子供のいる貴族からは評価が高い。むしろ遊戯盤より製作時間が短くて安価なあちらの初動を増やす方がいいかもしれん」


「分かった。ベルタ嬢にもそう伝えとく」


「ああ、そうしてくれ。それと……エリオット。気のせいかお前、少し絵のタッチが以前と変わったか?」


 学生時代から描いたものを良く見せてもらっていたが、当時と比べても僅かにだが雰囲気が変わったように感じる。昔は描く対象者の表面を美しく模写していたのが、最近は何となく全体的に柔らかい。


 特別芸術に造詣が深いわけではないものの、そう思って何気なく発した言葉を聞いたエリオットは一瞬だけ目を眇め、避難させておいたデッサンの方を気にする素振りを見せる。


 ――が、直後にまたいつもの飄々とした笑いを浮かべて口を開いた。


「オレの絵に偉そうに口を出せるのはヴィーくらいだけど、その生意気さに免じて耳寄りな情報を教えてやるよ」


「耳寄り?」


「ベルタ嬢さー、一月から社交シーズンの四月直前まで、教え子ちゃんを連れて自領に帰るんだってさ」


 驚きで一瞬動きを止めたこちらを満足そうに見つめたエリオットは、ガラスビーズを指先で弄りながら説明の補足をしてくれたのだが……。


 その説明内容がまったく理解できずに溜息をついたのは、何も俺の頭が堅いせいばかりだとは思えなかった。

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