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転生家庭教師のやり直し授業◆目指せ!教え子断罪回避◆  作者: ナユタ
◆第三章◆

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★4★ 忖度がなさすぎる。


 色味を抑えたベージュ地に、古地図を彷彿とさせるタッチで描かれた五つの領土。色味は深みのある煉瓦色、紫紺色、芥子色、苔むし色など、どれも単品では地味な色ながら、全部が集結するとなかなか見応えがある。


 山脈や陸路、海路には名称が添えられ、領地ごとに色分けされた地にそれぞれの国を表すドラゴンや獅子の意匠が施されて、一見すると精緻な装飾を施されたタペストリーのようだ。しかしこれはただのタペストリーなどではない。


 十日前にコーゼル領にいるエリオットから、謎の手紙と共に届けられたベルタ嬢考案の新作だ。しかも商品化前の。これを見せたときのフランツ様の瞳の輝きは、世話をしてきた年月の中でも一番だった。


 ただ、手紙には“秘密厳守”の注意書があり、一緒に遊べる人材の選定が困難かと思われたのだが――。


 視線の先で転がっていたサイコロが動きを止め、ふくふくしいヴァルトブルク殿の指に摘ままれた獰猛そうな熊の駒が、柔らかい盤上を一マスずつ踏みしめながら前方にいる牡鹿の駒に近付いていく。今回牡鹿の駒の持ち主はフランツ様だ。


 やけに見目を本物に寄せてあるので捕食者と獲物のように見えなくもないが、牡鹿の方もただで捕食される側には見えない――……と、熊の駒が黒地に白く星を描いたマスに止まった。その瞬間、空気に緊張感が走る。


「おやおや……これはこれは。ホーエンベルク殿、説明書を頂けるかな?」


 そう言ってこちらに手を伸ばしてきたのは、鷹の駒を操るエステルハージ殿だ。この中で一番の年長者である彼の申し出に応じ、ビロードの表装を施された説明書を手渡す。


 盤上のマスには短い文章は織られているが、長文になると別添えの説明書裏にある図案に直接書き込まれている。


 エステルハージ殿は蛇腹に折り畳まれたそれを開き、遊戯の説明が書かれた面とは反対の面を眺めて薄く笑うと、そこに書かれていた文面を読み上げた。


「“領内で他国の間者を捕まえる。その間者を送り込んだ国名を近隣諸国に晒し信頼度を落として三周経済行動不能にするか、サイコロを振って出た目の数を以下の数字にかけて賠償金を請求して釈放する。どちらかを選べ”……だそうだ。相手国はどこを選んでもいいらしい。ふふ、あの子らしいな」


 器用に片方の眉を持ち上げて愉快げに微笑む様は、年頃の娘が二人もいるようには見えない。


 その内容を聞いたヴァルトブルク殿はやや考えてから、二周前フランツ様に奪われた鉱山の仕返しか「で、では……フランツ様、三周行動不能で」と言った。


 確かにサイコロの出目に使う運や、国としての活動を妨げられている間の経済を止められるのは痛い。フランツ様も眉間に皺を刻んで「分かり、ました……」と悔しげに唇を噛んだ。


「なかなかやるじゃあないか、ヴァルトブルク殿。これで最後まで勝負が分からなくなってきた」


「は、はい、次は……エステルハージ様も、お覚悟、願います」


 エステルハージ殿の褒め言葉に、ヴァルトブルク殿も宣戦布告の言葉を返す。


 現在アンナ嬢との文通を唯一続けられていることからも、彼は見た目の通りおどけるだけの人物ではないのかもしれない。


「ははは、言うじゃないか。前回小麦の相場が荒れたのは私のせいではないぞ?」


「いや、あれは直前でエステルハージ殿が市場操作を乱発したせいですよ。私も砂糖で大損しました」


「おや、フランツ様。情勢は天候と同じく目を離してはいけません。きちんと加減(・・)しようと、若者達が領土の奪い合いをしている間に、数周かけて根回ししていたのですよ。その間はとても大人しかったでしょう?」


「た、確かに……不自然なくらい、静か、でしたね」


「ほら、ね? 見落としたフランツ様とヴァルトブルク殿が悪い。私としても、一番はめたかった相手を巻き込めなくて悔しかったのですよ?」


 そう意味ありげな視線を向けてくるエステルハージ殿に「回避してしまって申し訳ない」と返せば、彼はつまらなさそうに目を眇めた。


 ベルタ嬢の知り合いだけで構成された新たな二人の面子は、第二王子を相手にまったく忖度をすることがない。そういう人材を探してきたのは俺だが、多少胃が痛むこともある。


 この遊戯盤を早く試してみたかったのだろうフランツ様が、最初に二人に『ここでは階級のことは忘れて下さい』と言ったがために、一切の手加減をせずに全力で負かしにくるのだ。


 今まで俺としかこういったことに興じてこなかった教え子は、初めて完膚なきまでに負かされて悔しがる十一歳の子供の顔をした……と。


「先生、次は先生の番ですよ。早く進めて下さい」


「あの……サイコロ、どうぞ」


「娘の作った遊戯盤での対戦中によそ見とは……ふふ。教え子といえども、今の彼は一国の王だ。足許を掬われないように気をつけなさい」


 三者三様の言葉をかけられ、サイコロを握る。振ったサイコロの出目は六。自分の駒である獅子が止まったのは、またも黒地に白く星を描いた波乱のマス。


「――……いざ勝負といきましょう、エステルハージ殿」


「はは、その国力で宣戦布告か? 望むところだ、ホーエンベルク殿」


 結局のところ、この美しくも醜い盤上遊戯で大人気を失うまでに、誰しもさほど時間はかからなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 王子様を子供に戻したことはいいことなんだろうけれど…。 誰よりもお父さんの大人気なさが面白い。 そのうちもっと偉い人巻き込んだら面白いのに。
[良い点] わはは! それでこその人生ゲーム(笑) 実はやったことないんですけどね(笑)
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