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転生家庭教師のやり直し授業◆目指せ!教え子断罪回避◆  作者: ナユタ
◆第二章◆

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*9* ヒュッ(動揺で喉が鳴った音)


 先人達が時間の過ぎ去る早さを光陰矢の如しと評したのもさもありなん。やることが多すぎると人間時間の概念が吹き飛んでしまう。


 一月半ばから三月の一週目まで、フェルディナンド様の授業枠を一日三枠(一枠で一時間)絵画が一・ダンスが二の割合で受け持ち、私が一日四枠で教養二・知力二の割合で受け持つという勉強三昧の強行軍を決行した。


 おかげでかなり教え子の令嬢レベルも上がったように感じる。手応え大だ。例えるならそれぞれメモリ二~三の上がり幅。一部は早くも初級の真ん中を少し越えたかもしれない。


 その彼も先日『次に来るときまでに作り直すから、このボードゲーム貸してよ』と言って【宰相ゲーム】を持って領地に帰って行った。


 そんなこんなでいつの間にか二十二歳の誕生日も通りすぎ、暦は教え子との出逢いから二度目の社交シーズンへと突入したのだけれど、本来まだ社交界の関係ない彼女は王都に出る必要はない。


 しかし野心家なコーゼル侯爵は社交シーズンに、王都で行われるお茶会へアウローラを出席させると言い出した。人慣れし始めた娘の顔を売り出すのにちょうどいいと踏んだのだろう。


 まぁ、そろそろ度胸をつけたり自信を持たせるためにも、さらに大きな集まりを想定して人前に出すのはいいことだと思う。


 ――というわけで、私とお嬢様は本日某・伯爵家のお茶会に潜入しているところだった。ちなみに本日は非番のはずだったので、お手当ての方は倍率ドン。教え子の可愛さは数値化できないものの、特別手当ては数値化できる魔法の言葉だ。


 伯爵家が主催だけあって華々しい会場は、下は八歳から上は十二歳までの子供達だけを集めた場ではあれど、お遊び感など一切ない。どのご令嬢も両親から他家と“縁”を繋ぐように言い含められて来ている立派な仕事人だ。


「アウローラ様は今日の出席者の中では上の立場ですので、話しかけられることを待っていてはいけません。事前に一緒に暗記した出席者の中で、憶えている範囲で家格の低いご令嬢達には積極的に挨拶なさって下さい」


「は、はい! やってみますわ」


 周囲にサッと視線を走らせて見たところ、すでにここに招待されている家々のご令嬢逹で、顔見知り同士“仲良しグループ”という名の社会が形成されつつある。これは前世での入学直後のグループ分けに等しい。


 はっきり言ってこれは貴族の子女間における、某・魔法学院の組○け帽子よりもずっと重い意味合いのあるものだ。これに乗り遅れれば後々社会的に詰む。


「あとは同格のご令嬢達は作法を知っているでしょうからそれなりに。様子を見つつ大丈夫そうな方に話しかけてみて下さい。会話を無理にする必要はないので、一通りの挨拶が終われば一度こちらにお戻りを」


「わ、わたくし頑張ります、先生」


「ふふ、そんなに気負わないでも大丈夫ですわ。今日だって本当ならもうアウローラ様お一人で出席なさっても平気なのに、侯爵様達が心配されて私を付き添いに選ばれただけですもの」


 しかしこの言葉にはそれまで緊張気味ながらも、素直に肯定の返事しか返してこなかったアウローラが表情を曇らせた。


「……お父様やお母様がわたくしを心配するはずがありませんわ」


 そうふと大人びた翳りのある微笑みを浮かべた教え子の表情に、かつて何度も見たバッドエンドルートを思い出してドキリとする。


「でもどんな場所でも、先生がついていて下さるなら平気です。でき損ないのわたくしでも、先生が褒めて下されば何だってできる気がするの」


 憐れで、健気で、いじらしい。この世界が元はゲームであろうとも、私は彼女にとって初めての理解者であり指導者だ。


「アウローラ様。貴女はできることを知らなかっただけなのですから、でき損ないではありません。さぁ、分かったらお行きになって下さいませ」


 本来格上の家の相手にするには許されないものの、アウローラの小さな頭に手を置いてそっと撫でれば、彼女は嬉しそうに笑って頷き、ドレスを翻してご令嬢達の集団の方へと歩いて行った。


 そんな後ろ姿を見送りつつ、会場内にはほとんど私と同年代の人間がいないので暇を持て余す覚悟をしていたら、少し離れた場所から「少しよろしいかしら~?」と、だいぶ間延びした声をかけられ、つい反射的にそちらを向くと……。 


 そこにはひどく見覚えがあり、しかしまだ出会うわけにはいかないというか、いつか対決することがあるとしても、絶対に今は出会いたくなかった人物の姿があった。え、このキャラクターは何でこんなに早く登場したの?


「ね、もしもお暇でしたら、一緒にお話しません~?」


 のんびりした口調に似合わないボリューム感のある亜麻色の髪を縦ロールに、やや色味の鮮やかすぎるドレスと、バッチリお化粧をしていてもそれらを薄味に変えてしまう糸目のご令嬢――。


「あら、初めましてが先でしたわね~。わたし、アグネス・スペンサーと申しますの。貴女のお名前をお訊ねしてもよろしいかしら~?」


 言葉を発せず凍り付くこちらに、笑っているのか地顔なのか判別に困る表情でそう自己紹介をしたのは、紛れもなく前世で教え子のライバルである令嬢の家庭教師を務める、私のライバル令嬢その人だった。

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