*14* 脚本の添削はしてません。
六日目、七日目と毒草園に出向いて冬場に向けての畑のしまい方を講習をし、作業効率化のために設けた休憩時間にはユニと同じ年頃の子供達にせがまれて、外の世界の話を黒板に綴った。
やっていること事態は領地でやっていたことと代わりない。むしろ初心に返ったようで嫌ではなかった。イザークも私達の隣で駄作の幕引きの執筆に忙しくしているため、腰紐もほとんど引っ張られることがないのでダラリとしっぱなし。
八日目の毒草園の手入れ中ふとロロさんに【夫、どこ?】と書いた黒板を見せると、彼女は一瞬だけ私の背後にいるイザークを気にする素振りを見せたものの、彼が興味なさげに『ボクの管轄外です』と言うのを聞いて、悲しげに【分からない】と書いた。
仕方がないのでイザークの頬を捻り上げて【叱っておいた】と書けば、ロロさんも周囲でこちらを気にしていた女性達も笑い、イザークも『遠慮がなくなってきましたね』と微苦笑をもらした。
九日目の朝にバルコニーに出ると、手紙とおぼしき箇条書きのメモが置かれていたのでロロさんに頼んで開いてもらえば、中にはアグネス様と合流するためにフェルディナンド様が出立したとあった。
こう言っては何だけれどやや動きが遅い気がする。かといってそれを影に聞いたところで理由など教えてくれないだろう。アグネス様の資金が尽きるのが先か、子供のスリ達に影達がキレるのが先か。
そんな勝負の行方を見たいような気もするが、私の親友がお腹を空かせるような事態が起こってはならない。もしも彼女の滞在費が足りなくなったら、私が帰ったら返済するから貸してくれないものだろうか。
十日目に駄目元で言ってみたら、その日の深夜に『可』とだけ書かれたメモが届けられた。翌朝それを見た直後の感想は“え、何やだ怖い”だ。王家の言うことしか聞かない影が二つ返事ってどういうことなの? 余程お財布事情がひっ迫していたのだろうかと戦慄したのに、当然の如く理由は教えてもらえなかった。
そんなこんなで本日は十一日目の毒草園。本日は年度内最終になる手入れを開始することにした。
先に種子を取って乾かしておいた親株(?)を砕きながら土に鋤き込む作業をしてもらい、その間、腰紐のついた私ができることはないので、書き物に勤しむイザークの隣でぼんやりしていたのだけれど――不意に腰紐をクイッと引かれた。
「だから……普通に呼んで下さい」
「すみません。ついこの方が呼びやすいもので」
人のことを犬猫だとでも思っているのか、まったく悪びれた様子もなく腰紐の端を持っているイザークに対し若干ムッとしたものの、そんなことに心を波立たせるのも馬鹿馬鹿しいと思い直して「それでご用は何です?」と尋ねたら――。
「貴方は少しも抗う素振りも逃げ出す素振りも見られませんね。このままここであの男から与えられる死を受け入れるおつもりですか?」
――などといつもの無表情で抜かした。煽ってるのかとも思ったけれど、どうにもこの人にはそういう一面はないようにも思えて、つい素直に「戦闘力が皆無そうな貴男一人だと、公爵様と対峙させるのは心配ですし」と答えてしまう。
すると一度だけ瞬いた彼は、次の瞬間身体をくの字に折り曲げて笑いだした。発作的なものなのだろうけどこちらは面食らうし、作業中だったロロさん達も何事かとかなり驚いた表情でこちらを見ている。
しかし当の本人は笑いの発作が治まらないのか、手にしていたノートで顔を隠して笑い続けていた。表情は見えないけどこれでノートの下が真顔だったら引く。それくらいの爆笑ぶりだ。
むしろこんなに大きな声が出せたのかと感心すらした。でも子供達は普段笑わない大人が爆笑する様に泣き出し、毒草園は一時不協和音に包まれて母親達は我が子をあやし、私は彼の身体を揺さぶって笑いを治めようと努める。
こちらを気にする彼女等に作業に戻るよう身振り手振りで教えると、戸惑いながらも三々五々に散って行き、彼の方も三分ほどの爆笑の末に体力のなさから咳き込んで動きを止めた。
死んだのかと思うほどダラリと投げ出された手足に内心“長いなー”と感想を抱いていたら、ゆっくりと身体を起こしたイザークに右手首を掴まれる。
「……この手はなんでしょうか」
「貴方がいまどんな顔をしているのかと思いまして」
「イザーク様のお望みの表情をしていましたか?」
「ええ。思った通りとんでもなく不服そうな顔です。いつもの涼しい顔でなくて胸がすく思いだ」
「まあ、私を怒らせたかったのですか? 困った方ですね」
内心は困った方どころかぶん殴ってやろうかコイツだけれど、淑女の皮をかぶり直してそう言えば、彼の方ももういつもの調子を取り戻した無表情に「脚本が書き上がったのですが」と前置いて。
「もしよろしければ、貴方の助言を取り入れたいので目を通して頂けますか?」
脚本家らしく角を立てない下手さで。何かしらとんでもない片棒を担げと、一介の家庭教師に脚本を差し出して小首を傾げた。




