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転生家庭教師のやり直し授業◆目指せ!教え子断罪回避◆  作者: ナユタ
◆第二章◆

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17/240

*1* 大人の都合ってやつですね。


 妹と出席した夜会で四年間謎の人物だった男性の正体を突き止め、デビュタントを無事に乗り越えた彼女が領地に戻り、父が王都に残り、私が家庭教師の延長を引き受けてから一ヶ月。


 九月は瞬く間に過ぎ去って行ったものの、その間に週休一日というピッチリと詰まったスケジュールで、教え子との距離は今までのプレイで見たどのルートよりもグッと縮まっている。 


 ゲームと違いかなり怒濤の展開で少々疲れ気味ではあるが、一日中授業をするわけでもないので現状に不満はない。むしろがっつりお給金をもらえて教材の作成費用を自腹で支払わないでいい分、前世よりホワイトな感じですらある。


 ――が、しかし。


「先生……お願い」


「いえ、それは流石に私の一存では無理ですわアウローラ様」


 今日は趣向を変えて温室内での授業――……の、休憩中。普段なら微笑みあって楽しむはずの紅茶とお菓子を前に、私達は苦悩の表情を浮かべて向かい合っていた。


「で、でも……一人でなんて無理だわ……」


「現実的に申し上げまして、侯爵家の催しに家庭教師を務める子爵家の人間程度では出席できません。たとえ当日主役のアウローラ様のお願いであってもです」


 断腸の思いでそう告げた直後、いつも後ろをついて歩く私の可愛い雛鳥は絶望感に顔を歪めた。何をそんなに揉めているのかといえば、十月の一週目にある教え子の八歳を祝う誕生日パーティー問題である。


 去年までは彼女の両親もそれを口実にお客を招待し、相手も贈り物を持って祝いには来るけれど、実際には彼女の両親との親睦のために出席するだけの、いわば形式的なものであったらしい。


 何故ならすでに嫁いだ社交的な姉達とは違い、アウローラは人見知りの塊。


 例年であれば当日は始めの挨拶にだけ顔を出したら、あとは自室に引っ込んで終わるのを待っていればいいだけだったそうなのに、何を思ったのかコーゼル夫妻は急に今年はずっと会場内にいろと言い出したそうなのだ。


 いま上げているのは知力と芸術がメインだ。当初よりマシになったとはいえ、魅力や他の部分はおまけ程度にしか上がっていない。ゲームでだったらバロメーターの一目盛りも上がっていないやつ。アウローラにしてみれば拷問である。


 助けてあげたいけれどね、こればかりは階級的に無理。


 当日は家庭教師の仕事が休みの日なので、私は領地内に借りている家にいる。屋敷に住み込みしてはどうかとも言われたが、私はプライベートと職場は切り離したい派だから。おまけに家賃は侯爵家持ち。財力があるって素晴らしい。


 したがって当日はコーゼル侯爵が私を招待でもしてくれない限り、屋敷に出入りすることも無理だ。


「それにこれはアウローラ様の頑張りの成果をご両親やお客様に見せる好機です。淑女の作法も知っているだけでは錆び付いて、本当に必要なときに使えなくなってしまいますわ。ですから当日は、礼儀作法の実技だと思えばいいのです」


「礼儀作法の、実技?」


「はい。形を教えることは私でも可能ではございますが、アウローラ様は侯爵家のご令嬢。子爵家の私と違い、将来的に公の場に出る立場になられるやもしれません。そのためにも堂々とした振る舞いは実地で憶えるのが一番ですわ」


 自分でも無茶を言っている自覚はある。これはただの論点のすり替えであって、解決法でも何でもない。しかし根が素直で他に寄る辺のない教え子は、こんな無茶苦茶な家庭教師の言葉に眉根を下げつつも、頷こうかどうか迷い始めている。


 ――よし、あと一押し。


 押しに弱いアウローラをこのまま一気に説き伏せてしまおうとしていたら、背後から急に拍手が聞こえてきて、私と教え子は同時に拍手が聞こえてきた方向を振り向いた。そこに立っていた人物を見て私は内心警戒を、アウローラは困惑の表情を浮かべる。


「流石はエステルハージ先生だ。素晴らしい。アウローラ、お前もいつまでも侯爵家の娘らしからぬ我儘を言わずに、先生を見習わないか」


「まぁ……お褒めに与り恐縮ですコーゼル侯。ですが、私ほど変わり者で可愛げのない女もおりません。アウローラ様には充分に淑女の素養がございますわ」


 見苦しくない速さで立ち上がり、カーテシーを取りながらそう侯爵に向かって微笑めば、彼はじっくりと私とその後ろで息を潜めている娘を見つめる。


「先生は当日何かご予定はおありだろうか?」


 ――ん? というか、何だかすごくいい笑顔ですね侯爵様。娘を怖がらせに来たわけではないのかな?


「いえ、予定は特別ございませんが」


 休日の過ごし方は前世からあまり変わっていない。だいたいが惰眠を貪るか、教材を作っているか、教材を探しに行っているかだ。今は領地の妹と王都の父に手紙を書くことが加わるけれど、恋人とかは前世も今世もいたことがないのでそもそも予測すらつかない。


 私の返事に満足した様子で「そうか」とダンディーな笑みを向ける侯爵。事態が飲み込めずオロオロとした空気を出し始めた教え子を背後に、私はある可能性を見出だす。それすなわち――本採用への最短ルート分岐。


「では無理にとは言わないが、当日は娘の隣にいてやってはもらえないだろうか? 当日の手当ては勿論、ドレスなどもこちらで用意させて頂く。翌日から三日ほどは振替休日という形では……どうかな?」


 その言葉にまたも“はい、喜んでー!”と荒ぶる心を抑え込み、ついでに背後から痛いくらいに期待を込めた教え子の視線を感じつつ、私は淑女らしく「慎んでお受けさせて頂きますわ」と微笑んだ。

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