*12* 退場の仕様は選ばせてよ!
使用人達の出してくれたお持たせ十選の結果を元に、上から四番目のクッキーとマドレーヌの焼き菓子セットを購入することに決め、用意された馬車に乗って屋敷を出たのは二時半。
一番人気ではなく四番人気のものを選んだのは、純粋に行く道の途中にお店があるからと、何となく上位三番目までだとお店が混んでいそうだったからだ。それにどうせなら一日に二回ある公演の、三時の休憩時間を少し過ぎたくらいで劇場に到着できる方がいい。
ちょい乗り用の小さな馬車は軽快に石畳の上を走り抜け、目的のお店から少し離れた場所で停めてもらった。我が屋敷独自集計の四番人気と言えど、お店はお馴染みさん客でそれなりに繁盛している。そんなところに馬車を横付けにするのはお店に迷惑がかかってしまう。
若夫婦でやっている三角形の敷地に建つ素朴でこぢんまりとした店は、両側に出入口がある造りをしているが、基本的には馬車を停めている通りに面した入口の方からお客が入るからだ。
心配してくれる馭者に目視できる距離なら一人でも大丈夫だと伝え、店内で、詰め合わせにしてもらう商品を注文し、それを包装してもらう間に店内の他の商品を眺めていると――。
馬車を停めた方向の入口から反対側の住宅地に面した入口の外で、荷物を抱えた子供がお財布を落とすのが見えた。子供はそのことに気付かず住宅地の路地に向かって歩いて行く。
店内のお客も、包装と注文を取ることで忙しい店主夫婦もその様子を見ていなかったのか、誰も何も言わない。手が空いているのは私だけだし、あの子が路地の奥に行けば土地勘のない私では店まで戻って来られないだろう。
馬車で待ってもらっている馭者から見えにくくなることに少し迷ったものの、あれが全財産だったら大変だ。
「あの、ちょっとだけ外します。すぐに戻りますから」
カウンター内の忙しそうな二人に聞こえたかは怪しいけれど、見失う前に追い付きたかったので、返事を聞く前に店の外へ出た。子供の背中は路地の角を曲がる寸前。声が届くか……考えるよりも先に財布を拾って走った。
「そこの子、待って! お財布を落としたわよー!」
石畳の上をヒールで走るのは至難の技。子供の背中が消えた角を曲がった直後、いきなり何かが口に捩じ込まれた。生理的な涙が滲んでえづいていると、上から袋のようなものが被せられて視界が暗くなる。
「んんんんんんんんんっ!?」
叫んだものの言葉にならない。同時に爪先が地面から離れた感覚に、抱えあげられたのだと理解して暴れたけれど、あっという間に脚を押さえつけられる。ええええ、嘘、ちょっ、袋の上から縛った!?
「んんんんんんっ、んんんんん!!」
異世界ってこんな町中で白昼堂々とした人攫いってあるの? というか、ゲームの世界観も違うし、キャラクターだって違うでしょう!?
「“チッ、うるさいお嬢様だな”」
「“大人しい女だって聞いてたのに、これなら依頼料追加させてもらおうぜ”」
「“それ言うなら賢いって話だっただろ? 実際はこんな手に簡単に騙されてんだぜ。小遣い欲しさに手伝うスラムのガキよりバカ”」
「“ハハッ、違いないな。しかし、まさか本当にこんなカードで釣れるとは思ってなかった。代筆屋さまさまだ”」
袋の外から聞こえた会話で唯一分かったのは、誘拐班が二人組の雇われで、他にも代筆屋が噛んでて、さっきの子供は無事だってことかな! それよりこのテンプレなチンピラめ……人のことを袋詰めにしといて好き勝手言うなよ!
こんな乙女ゲームヒロインみたいな事件を起こされたって、こっちにはヒーロー不在なんだぞ!? 最悪殺されるやつじゃないか!!
「んんんんんんーーー!!」
必死の抵抗も虚しく、モガモガ叫ぶ私が最後に聞いたのは「“うるせー寝てろ”」と言う声と、鳩尾辺りに走った痛みだった。




