スーパービッチギャル子さんと純情童貞真面目くん
夏休みでも学校に行かないといけない日がある。
そう。登校日だ。
来栖さんと一緒にいることがほとんどだったせいで、クラスメイトとは久しぶりに会うことになる。
積もる話しやお土産の交換なんてイベントがあったりするはずなんだけど、どうしてこうなったんだろう?
「おい、高瀬、お前ギャル子さんとどこまで進んだんだ?」
「ヤッたか?」
出会い頭の言葉がこれだ。
ちょっと前までの俺なら、こう聞かれただけで凄く動揺しただろう。
でも、俺はもう今までの俺とは違う。
来栖さんのことはちゃんと知れたし、俺も彼女に好きだと伝えている。
もう、俺と来栖さんが付き合っていることに負い目はない。
普通のキスも舌を入れる大人のキスだってしたし、おっぱいだって触れた。
それに、ベッドで抱き合ってキスしてゴロゴロまでしたんだ。
もうへたれなんて言わせない!
「……何も無かったよ」
思い出したら急に恥ずかしくなった。
あ、あれ? おかしいな。もっと堂々と否定するつもりだったのに、来栖さんとのことを思い出したら言葉に詰まってしまった。
あぁ、この言い方じゃまたへたれだと笑われてしまう。
「あれ?」
笑われるかと思いきや、俺の周りにいた男たちはお化けでも見たかのような驚愕の表情で、俺を見ていた。
「絶対何かあったって顔だぞ!?」
「おい、お前まさか俺よりも先に!?」
あ、あれ? 何か誤解をされているような気がするぞ?
ここはちゃんと誤解を解いておいた方が良いよな?
じゃないと、このまま変な目で見られ続けそうだし。
「ほら、まだ高校生だし、子供が出来ると大変だから、ちゃんとしないとさ」
そう言われてお預けになったんだよな。あの日以降、特にそういう雰囲気になることもなく、今日まで来てしまったし。
「……そっか」
「……そうだよな。高校生だもんな。そこらへんはちゃんと考えないとな?」
「ちゃんとすれば良いんだよな……ちゃんとすれば……」
あ、あれ? 何でみんな死んだ魚の目をしながら、口だけは笑っているんだ!?
ゾンビ映画のヤバイゾンビみたいになってるぞ!?
「「有罪」」
クラスメイトの声が幾重にもハモる。
「何で!?」
「「羨ましいからだ!」」
「だから、何もないよ!?」
何故だ!? 誤解を解くはずがより酷い誤解を生んだ気がする。
早くこの誤解をとかないと。
じゃないと、トイレに行った来栖さんがやってくる。その前にこの騒ぎを収めないと、間違い無くからかわれる。
「えー? 夏休みであんなにいっぱい童貞卒業させてあげたのに?」
「京!?」
突然聞こえた来栖さんの声に、俺は反射的に叫んだ。
その瞬間、クラスメイトたちの目が一瞬点になった。
「呼び捨て?」
「京って呼び捨てにした?」
「いっぱい童貞卒業……筆下ろし」
みんなが虚ろな目をして、ぽつぽつと独り言をこぼしている。
メチャクチャ怖いんだけど!?
でも、そんな視線を全く無視して、来栖さんは俺の腕に抱きついた。
「海でお泊まりとか、私の家にお泊まりとか、思い出がいっぱい出来たよねユウ」
「ちょっ!? このタイミングでそれ言う!?」
って、しまった。つい勢いで返してしまったけど、この返事の仕方じゃ、普通に肯定になってしまう!?
来栖さんめ、この状況で何て爆弾発言を放り込んでくるんだ!?
「「リア充爆発しろ!」」
そんな言葉をみんなから投げかけられて、男達は散っていった。
その様子を来栖さんが見て、笑いをこらえきれないのかクスクスと笑い声が手の隙間から漏れている。
……ある意味助けられたのかな。
「助かったよ。ありがとう」
「みんなの中の私はまだまだスーパービッチギャル子さんだからね。トイレで似たような感じで囲まれたから、ユウも似たようなので絡まれているかな? って思って来てみたら、やっぱりそうだったねー」
「なかなか誤解が消えないね」
「まあ、ユウ専用スーパービッチギャル子さんなら、案外間違ってもない気がするし」
「確かにそれはちょっと嬉しい――って、良くないよ!?」
一瞬俺専用っていう響きに揺らいだ自分が恥ずかしい。
でも、寸止めとかからかわれずに求められたら、なんて気持ちは否定出来ない。
俺はそんな恥ずかしさと気まずさを消すために、わざと大げさな反応をする。
すると、来栖さんは心底嬉しそうに笑い、口元をニマニマさせて俺を真っ直ぐ見つめてきて、俺以外に聞こえないよう、小さな声でとんでもないことを囁く。
俺専用スーパービッチギャル子さんな彼女にあわせた、俺のキャラ付けを――。
「ユウは、ケイト専用純情童貞真面目くんとか?」
「断固拒否だよ!?」
不名誉極まりないよ!? 一生童貞のままからかわれ続けそうだよね!
「ぷっ、あはは。本当に良い反応だよね。当分童貞のままでいてもらった方がからかいがいがあって面白そう」
「あぁっ! もう!」
このからかい好きの女の子が、数々の男を振って、告白成功率0%と言われたスーパービッチギャル子さんこと、俺の彼女になった来栖京だ。
この先もきっとからかわれ続けるだろうけど、それも悪くないって思える。
そう結局のところ、口で何と言おうとも、身体は正直なもので、彼女と居ると胸がときめくんだ。
「大好きだよ!」
自棄になって放った俺の一言がクラスの皆の注目を集め、来栖さんはボフッと頭から音を出せそうな真っ赤な顔を俺の胸に埋めた。
勝った! 第一部完!
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