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侯爵夫人の嫁探し~不細工な平民でもお嫁に行けますか?  作者: ひよこ1号


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素敵な殿方の騙し方

国境を越えて、アニマート侯爵家へと向かう。

フェンブル公爵だけは、国王陛下の領地視察に伴われるという事でファーヴルでお別れをした。

本来なら公爵夫人も饗応の為に残るべきなのだが、私を無事国へ送り届ける為にアニマート侯爵家を旅立つまで見送りとして付き添ってくれている。


アニマート侯爵家に残した荷物を荷造りして、そこでフェンブル公爵夫人ともお別れをする。


「ヨナ、またお手紙を送りますわ」

「ええ、待っているわエラ。それにアリーナ姫、我が国の為のご助言感謝致します」


えっ?と思ったが、タナーモの件だろう。

噂話を元にしただけの、ただの思い付きではあるが、成功すれば糊口を凌ぐ平民たちの助けとなる。

私は笑顔で頷いた。


「栽培が成功するようにお祈りしております。それに、もうわたくしにとっても大事な国ですから、何かございましたらわたくしも手助けが出来ればと思っております」

「勿体ないお言葉でございます。それでは、お元気でお過ごしくださいませ」

「公爵夫人も、色々とご助力有難うございました」


本当はもっと、姫っぽく……上位の貴族にも話した方がいいのかもしれないが、それも難しい。

公爵夫人は優し気な笑みを浮かべて、侯爵夫人と微笑みを交わしている。


まるで第二の母の様だわ。

いえ、ちょっと待って?

私には実母が居て、伯母上のリーマス伯爵夫人も一度は義母と呼んでましたわね。

その後、サラセニア王国の国母が義母になり、結婚すれば侯爵夫人が義母になる。

わたくしのお母様、多すぎでは?


私の表情を見た侯爵夫人が柔らかく問いかけてくる。


「どうかしまして?」

「あ、いえ……不躾ながら、フェンブル公爵夫人は第二の母の様だな、と思えまして」


急に話を振られて、私は本音をぶちまけてしまった。

他の母の話はそっと胸にしまっておく。


「まあ、嬉しゅうございますわ。今後も、サラセニアにいらっしゃる際は、アニマート侯爵家の別荘も、フェンブル公爵家の城も、是非お使い下さいませね」

「はい。その折にはまた、お世話になりとう存じます」


そして別れの挨拶をして、私達は一路王都を目指した。



結婚式は半年後、と婚約の際に日取りも決められている。

その後、ネペンテス王国の国王陛下にも婚約は認められた。

元々、根回し済みではあっただろうけど。

これも言わば、国策であり政略結婚ともいえる。

でも、私はディオンルーク様が大好きだ。

毎日挨拶以外にも言葉は交わすし、お互い時間があれば散歩をしたり、一緒に読書をしたりしていた。

だが、そこに、闖入者が現れたのである。


「貴女が、ディオン兄様の婚約者だなんて、絶対に認めませんわ!」


サラセニア王国への旅から帰国して二か月後。

四か月後には結婚を控えた私達は、初のお披露目として国王主催の祝宴に参加していた。

そこで、いきなり現れたのが、目の前のご令嬢だ。


「ええと、貴女はどちら様でしょうか?」


私の問い返した言葉に、くすくすと笑いが起き、目の前の金髪碧眼のご令嬢は怒りで顔を真っ赤に染めた。


「わたくしはアルヴィナ・グラーヴェ公爵令嬢!ディオン兄様とは従兄妹よ!」


という事は。

祖母である皇女様の血も入っている。

だから、こんなに傲慢なのね。


私は一旦頷いた。


「わたくしはアリーナ…」


名乗ろうとしたところで、アルヴィナ嬢が遮った。


「名乗らなくて結構よ。元平民の名前なんて聞いたところで意味がないもの。さっさとディオン兄様から離れて頂戴」

「それはお断り申し上げます」


私がはっきりと、笑顔で断ると、アルヴィナ嬢は目を吊り上げた。


「何ですって?この、わたくしが、貴女を認めないと言っているのよ」

「はあ、別に構いませんが……」


首を傾げた私に、一瞬何を言われたか分からない、という顔をしてアルヴィナ嬢はディオンルーク様と私を見比べた。


「は?帝国皇女の血を受け継ぐわたくしの言う事が聞けないの?」

「帝国皇女の血を継いでいらっしゃると、国王陛下や王妹殿下よりも立場が上なのですか?」


静かに問いかけると、周囲のヒソヒソ声すらピタリと止まった。

皆がアルヴィナ嬢に注目して、その答えを待っている。


「そ、そんな訳ないでしょう」


良かった。

それなら問題ないですね。


にっこりと私は微笑んだ。


「でしたら問題ありません。わたくしとディオ様の婚姻は母君であらせられるエレクトラ様と、国王陛下の承認の元に約束されたものです。失礼ながら貴女の承認は必要ございません」


ぷ、ふふっと隣に立っているディオンルーク様が耐えきれずに笑う。

今日の夜会ではなるべく、ディオンルーク様には盾になって貰わないようにしている。

守られていたら成長出来ないからだ。


でも、笑った後でディオンルーク様は私の言葉に付け足した。


「それに何より、俺がアリーナ嬢を愛しているんだ。お前はただの従妹でしかないのだから、口を出すものではないよ」

「……そ、そんな、ディオン兄様はその女に騙されているのです」


とても不思議に思って、私は思わず会話に割り込んだ。


「騙す、とは?わたくしが何をどうやって騙したら、こんな素敵な殿方に愛されるのです?」


ねえ、皆さまだって秘訣をお聞きしたいですよね?

私もです!!!

どんな方法だったら、篭絡出来るのでしょう。


食い気味で聞いたけれど、アルヴィナ嬢は言葉に詰まってしまった。

上から下まで私を眺める。

取り立てて優れた所は見当たらないようだ。


失礼な。

まだ何も言われてないけど。


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