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侯爵夫人の嫁探し~不細工な平民でもお嫁に行けますか?  作者: ひよこ1号


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24/40

美しさより強さを

再び歩き出して、私達はいつの間にか芝生に囲まれた一本の木の根元に到達していた。

するりと胸からハンカチを取り出して、芝生に置くと、その隣にディオンルーク様が腰かける。


「お手をどうぞ」

「失礼いたします」


手を支えられながら、ハンカチの上に座って青々とした芝生とその向こうに佇む古めかしいお屋敷を見る。


「とても素晴らしい眺めですね」

「ああ。アデリーナともよくここまで散歩したものだよ。こうして此処で一休みして、一緒に屋敷を眺めたんだ。俺にとっての思い出の場所だから、案内したかった」

「それは、嬉しゅうございます」


爽やかな風が時折頬を撫で、木漏れ日が踊る芝生を揺らしていく。

涼やかで清涼な風景だ。


優しい兄に手を引かれて佇む幼い少女の幻影が見えるような。


でも本当に、私でいいのかしら?

実母にさえ疎まれた醜い私。

何度もレオナや侯爵夫人に認められたと、自分に言い聞かせても、どうしても気になってしまう。

先ほど妹の話をした時にも、頭の隅で思ってしまった。

美しい妹と会ったら、その心根も含めて好きになってしまうのではないかと。

信頼を裏切ると、そういう意味ではなく。

ただ純粋に、素晴らしいものと出会ってしまって、心を動かされることがあるのではないか、という不安。

物語を読んでいる側である時は、そんなにうじうじするなら止めてしまえ!と思っていたのに。

いざ自分の時になったら尻込みするなんて滑稽だわ。


「今回集まられたご令嬢達は皆さんお美しい方でした。わたくしは社交界を知りませんが、同じようにお美しい方が沢山いらっしゃいますでしょう?わたくしがお相手だと見くびられたりはしませんか?」

「社交界はね、魔窟だよ。美しいだけの化け物もうようよいる場所だ。あの場所では美しさよりも強さが必要だと、俺は思っている」


何と!

それは新しい視点だわ!


私は何だか感傷的センチメンタルになっていた自分を急に恥ずかしく思った。


強さなら任せて欲しい。

そして、馬鹿にされないだけの美しい所作も、きっと身に着けてみせる。


「それならば、わたくしでも頑張れそうです!」

「ははは。では、俺も、侮られないように頑張るとしよう」


もし、彼の気が変わる時が来たとしたら、その時に考えればいいのだ。

それまでは、くよくよ悩んでも仕方がない。

やるべき事は山積みで、私はまだ半人前もいいところだ。

己の醜さなど気にしている場合ではない。

まずは姿勢とダンスを完璧に仕上げない事には、見た目以前の問題なのである。

直しようのない欠点は、最後の最後、最終的な言い訳だ。


「なあ、君をアリーと呼んでも?」

「ええ、勿論。貴方の事は何とお呼びすれば宜しいかしら」

「そうだな、ディオと呼んでくれるか?」

「はい。ディオ様」


私が頷くと、ディオンルーク様は苦笑した。


「様はいらない」

「……まだ早うございます……」


その苦笑いすら麗しくて、私は慌てて目を逸らした。

くすくすと笑われて、もう顔を見る事すら出来ない。


強くなるとは決めたけれど、ディオンルーク様の顔を見るという試練は中々手ごわい。

遠くの茶席では、四人の淑女がお茶を嗜んでいる。

そういえば、マリエ様も銀の髪をしていたが、王妹であらせられる侯爵夫人も銀。

この国の王族の血は銀の色を受け継いでいるのだろうか?

だとしたら、侯爵様は黒だから、ファルネス侯爵家は帝室と王室の血が入っているのかしら。


「ディオ様。お祖母様は帝国の方ですか?」

「ああ、そうだね。帝国皇女だった方だよ。祖父と領地でのんびり暮らしている。孫の俺が言うのもなんだけど、割と大雑把な人だよ。母とはお互いに合わないという事で没交渉だ。だからといって顔を合わせると喧嘩、という事もないけど」


ほう。

お互いに相いれないから距離を取る。

私と母みたいな関係だろうか。

実親と実子というのではまた違うかもしれないけれど。


「そうなのですね。では、領地経営はお祖父様が?」

「いや、経営自体は父と俺だな。祖父は祖父で何かやっているようだけど、まあ道楽だと思っていい。いずれ君も領地には連れて行く」

「はい。楽しみにしております」


何というサラブレッド。

侯爵というから、公爵よりは家格としては下なのかと思っていたけれど、これは。

母親が王女で祖母が皇女。

更にレオナ様の調査では、私にも北の隣国、サラセニアの王室の血が流れていて。

万国博覧会状態である。


けれど、はて?

侯爵夫人と公爵夫人は何を企んでいらっしゃるのかしら?

わたくしとディオ様の結婚について、わたくしの身分をどうにかすると仰っていたけれど。


横をチラ見すれば、ディオンルーク様は気持ちよさげに寝そべっている。


こういう時男の人って羨ましい。

私も寝転がりたい。


それに、足が長い。


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