退屈しのぎ
──fin.騎士──
カッカッ
そんな音で、姫は目を覚ます。何だろうか。何か、塔の壁を突くような音。
顔を上げて、目が眩んだ。数秒固まり、それからゆっくりと目を開けていくと、南の小窓からさんさんと光が射し込んでいる。だいぶ日が高く昇っているようだ。
随分と眠ってしまったな、と思いながら、姫は窓から身を乗り出し、辺りを見回す。今日は門番が来る予定だったはず。まだ来ていないだろうか、と姫は焦る。
「ああ、姫様。お目覚めになられたのですね」
すると案の定、塔の下方から聞き覚えのある声。
「お、おはようございます、門番様。いらしていたのですね」
姫は慌てて応じた。姫の焦りを知ってか知らずか、先程来たばかりです、と門番の老人は応じる。
気を遣っての発言なのだろうが、姫は頬が火照るのを止められない。穴があったら入りたい気分だ。
そんな動揺を抑えるために塔の中に顔を引っ込め、深呼吸を一つ。少し落ち着くと、カッカッという音が耳についた。
「そういえば、先程から何やら妙な音がするのですが何なのでしょう?」
「どのような?」
「塔の壁を固いものが突くような音です」
姫が告げると、門番はああ、と得心したように頷く。
「それはきっと、鳥ですよ。姫様に会いたくて、気を引こうとしているのでしょう」
「鳥が? 何故?」
ふふ、と門番は目元を和らげ、微笑んだ。
「きっと、姫様の歌が聴きたいのですよ。鳥も歌が好きですからね」
「まあ」
塔を小突く小鳥たちの姿を想像して、姫の顔も自然と綻ぶ。
「と、それはそうと、門番様、今日はどういったご用で?」
姫が問うと、門番はそうでした、と切り出す。
「実は姫様が非常に退屈しておられるかと思いまして。家の書棚を整理しておりましたら、面白い物語が出てきましたので、姫様にお聞かせしようかと」
「どのようなお話なの?」
「おとぎ話です。この辺りの古い伝承なのだとか」
門番はそう言って衣服の懐から本を取り出す。姫の位置からではよく見えないが、絵本のようだ。
門番がすう、と息を吸い、その題を読み上げる。
「"ことのきし"」
「!?」
姫がそれを聞き、息を飲む。門番が静かに語り出す中、塔にはカッカッという音が響いていた。




