39 決着
「吹毛成兵!」
髪の毛の先を少し噛み切って吹き出す。それが『砂埃』となり、キメラの目を汚す。
『ガァァ!』
目潰しを嫌がって暴れるキメラに、如意棒を横薙ぎで振り払う。
「伸びろ!」
近づいて攻撃するのではなく、中距離。
ただの私なら、こんな金属の長い棒を振り回すことなんて重すぎてできないけど、孫悟空の剛力によってそれも可能となる。
ドゴッ!
『ギャゥッ!』
もっと縦横無尽に走り回って暴れ回るのがいいのだろうが、私は攻撃と高速移動・回避を連動してこなせるだけの経験や技量がない。
だから、こうして足を止めて中距離で攻撃する。
剛力と伸びる如意棒、棒術の恩恵があるからこその基本攻撃だ。
「はい! はい! はい!」
如意棒を伸縮させ、鞭のように振るう。
攻撃してくる私に敵意を向け、突進してくるキメラ。
しかし、さっきの攻撃を警戒したのか直進せずに回り込んでこようとする。
「筋斗雲!」
まだその場にあった筋斗雲が旋回して飛んでくる。
私にぶつかるような勢いの筋斗雲に掴まって、緊急横移動。
筋斗雲の上に乗って上下左右に乗り回すのではなく、単純な移動に使う。
戦闘状態で複雑な動きをコントロールする余裕が私にはないのだ。
「幌金縄!」
本家・孫悟空では常備アイテムではない宝もギフトで再現可能なため、いつでも使える!
なら使いどころよね!
幌金縄をキメラに投げつける。
自動追尾型の拘束アイテムであるそれがキメラの体に巻きついていく。
『ガアアアアア!』
幌金縄でも、キメラの体の一部に巻きついただけで完全には動きを止められない。
キメラに追いつかれる!
「七十二変化! ゴムの手!」
左手をゴムみたいな大きな手に変えて迎撃する!
こんな技、孫悟空は使わない! いや、腕だけ変化はするけど!
『ガァ!?』
巨大ゴムの手で張り手をしてキメラをぶっ飛ばす!
……ゴムになったかは、ちょっとあやしいかな! 手は大きくなったけど!
とりあえず孫悟空の戦い方すべてをトレースする必要はなし!
孫悟空の能力を使って思いつくままをしていけばいい。
前世の個人情報は喪失していても、この魂に刻まれていることがある。
何を隠そう、私の生息ジャンルは少年漫画!
正確には、原作は明確に男性向けなのに、なぜか女性読者が多いタイプの漫画よ!
〝最〟の方、しかり。本編内容はガッツリとバトルやスポーツをしている男性向け。
私は、ただその中の関係性を追うタイプ!
しかもバトル能力とかで妄想二次創作もするタイプだ!
たぶん、前世の最後の方に嵌っていた作品は集団戦闘メインでキャラクターがわんさかいるタイプ!
オリジナルの武器や技って考えるの楽しいわよね!
「女性読者がバトルものを読まないなんて甘えた考え、叩き直してあげるわ!」
女性向けは恋愛だけ? ノー!
恋愛は! 本編の関係性から! 読者が妄想するものよ!
「はぁああッ!!」
私がキメラを吹っ飛ばし、体勢を崩させた隙を狙って、ヴィルヘルムが切りかかる。
『ガァアアッ!』
近接の連携は難しいと、前世のフィクションで学んでいる。
だから私は中距離で攻撃、相手の動きを崩したり、注意を引きつけたりする。
ヴィルヘルムの攻撃はおそらくキメラにも通じるはずだ。
なにせ推定・完成形お兄ちゃんだから!
なので近接アタッカーは彼に任せる。
「身外身法」
ヴィルヘルムが攻撃をしている間に分身を三体ほど出す。
適当に掴んだ毛の数だ。細かくやっている余裕はない。
「命令! ヴィルヘルムへの攻撃の妨害! キメラの攪乱! 行って!」
「「「ウキーッ!」」」
ミニ・カーマインたちが小さな筋斗雲に乗って飛んでいく。
分身は命令に従って自動行動するロボットのようなものだから、私本人が動くより正確に動いてくれるはず。
これも本家・孫悟空と私の違いだ。分身の方が有能な場合もある。
「伸びろ!」
ヴィルヘルムの邪魔にならないよう、私がどう動くのか、はっきりさせながら立ち回る。
基本は中距離から如意棒で攻撃だ。
細かいサポートは分身に任せる!
こちらに向かってきたら筋斗雲で大きく避けたり、変化で迎撃したりする!
『ガゥッ! ガァアア!』
キメラは幌金縄に巻きつかれ、私の謎の攻撃に翻弄され、ヴィルヘルムに切られ、分身にまとわりつかれて動きが鈍っている。
……これなら倒せそう!
そう思った瞬間。
キメラの胴体から生えている山羊の頭に異変が起きた。
『イィイイイイイッ!』
山羊の頭が……火を吹いた! 逆巻く炎がヴィルヘルムに襲いかかる!
「なっ……!」
「ヴィルヘルム!」
私は咄嗟に駆け抜け、ヴィルヘルムの前へ。
孫悟空の身体能力がグンッ! と勢いをつけて私の体を動かす。
「ぁあああ!」
「な、レディ!?」
「私は大丈夫!」
「え!?」
金剛不壊の肉体は火に焼かれない!
でも火力が強すぎるから防げないかも! このままではヴィルヘルムが焼かれてしまう! なら!
「避火訣!」
指を組み、私の口から勝手に零れる呪文。
火のエネルギーを周囲から遮断する術を行使する。
「これは……」
ヴィルヘルムは驚いている様子だ。
というか火を吹くなんて、やっぱり森林火災は魔獣の仕業だったのね!
「ウキーッ!」
『シャァアッ!』
ギャリッ! とキメラの尻尾、蛇の頭がミニ・カーマインの一体を噛み砕く。
いやぁ、精神的にショックな光景!
分身はあっという間にもとの毛に戻り、燃えてしまう。
「……! 蛇の頭が厄介だ。近くにいるとアレの動きが一番速く、対処が難しい」
ヴィルヘルムは数あるだろう疑問をすべて無視し、必要なことだけを伝えてくる。
今、幌金縄がキメラ全体の動きを邪魔している。
胴体から生えた山羊の頭は火を吹いている。
最初に虎頭を潰したおかげか、ライオン頭は比較的、他よりもダメージが残っている印象で動作が鈍い。
蛇頭をどうにかするのが勝利への第一歩ね!
「わかったわ! とりあえず、伸びろ!」
火炎でこちらを仕留めるつもりか、キメラの方も足を止めている。
それなら、この距離から伸ばした如意棒で山羊頭を叩いて止められる!
「せやぁああああ!」
ドゴン! と如意棒の大振りが、上段から山羊頭を叩き潰す。
『イギャ!』
火炎攻撃から無傷で反撃してくるとは想定していなかったのだろう。
山羊頭を潰した手応えあり!
「私は後ろに回りこんで蛇頭の対処をするわ! 貴方は正面の頭をお願い!」
「ああ!」
「……筋斗雲!」
旋回してくる筋斗雲に片腕で掴まり、横方向に移動。
そのまま円を描く軌道でキメラの背後に回り込む。
同時にヴィルヘルムが正面から切り掛かる。
『シャアアア!』
尻尾の蛇が、私の動きを追うように頭を動かす。
「伸びろ!」
蛇の体はキメラの胴体につながっている。
だから、蛇だけの体が当てづらくても胴体には攻撃を当てられるはずだ。
『シャアア!』
しかし、それを見越していたのか、蛇の体が伸びる如意棒に巻きつき、攻撃を逸らす。
それを見て、私は筋斗雲から手を離し、孫悟空の脚力で蛇頭に突撃する。
蛇頭が如意棒に気を取られているところを……。
「七星剣!」
如意棒を消さずに手放し、代わりの武器を手元に出現させる!
妖怪・金角大王が使って孫悟空が奪った、切れ味抜群の宝の剣よ!
「ウッキィーッ!」
如意棒に巻きついたせいで動きが鈍った蛇頭に、切れ味抜群の七星剣を叩き込んでやった!
『シャッ……』
呆気なく切り落とされる蛇頭。これで残るはライオンの頭だけ!
「はぁあああッ!」
その瞬間。正面からヴィルヘルムの剣がライオン頭を貫いていた。
『ギャ……ウ……』
すべての頭を潰されたキメラが、小さな断末魔の声を残し、その場に力尽きる。
……私たちの勝利みたいね!




