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私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~  作者: 川崎悠
第1章 悪役令嬢は暴れん坊

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37/40

37 魔獣

 筋斗雲に乗って空を飛ぶ。

 逆風が当たるけど気にならないレベルだ。これは、たぶん金剛不壊(こんごうふえ)の肉体のおかげだろう。

 凄まじいはずの風がまるで、そよ風の如く。


 いや、それだけではなく、そもそも筋斗雲の移動方法が独特な気がする。

 周囲の空気ごと滑っている感覚?

 スキー場のゴンドラごと高速で移動しているような感じ。


 それでも高速の移動で、逆風がある以上、目を開いていられないなんて懸念もあったのだけど。どうやらそれもない。

 これは火眼金睛(かがんきんせい)が〝強い〟からだろう。

 この眼のおかげで、この環境でも前を見ていられる。


 要するに、筋斗雲に乗って高速移動をする場合、金剛不壊も火眼金睛もフル展開しておく必要があるのだ。

 基本的に孫悟空の無敵の肉体ありきの設計らしい。


 徐々に慣れてきて、余裕が出てきたので火眼金睛で先を視る。


 アイゼンハルト領だけでなく、王国の大半の土地を森が占めている。

 普通に未開拓な場所が多いのだ。

 王都や領都などの都市部は、もちろん人工的な雰囲気になっているし、木々は少ない。

 各街・村を繋ぐ街道が幅広く取られている場所も、緑は端に追いやられている。


 私は以前、そういった都市部だけを見て十七世紀以降のヨーロッパ風かな? と思ったけど。

 上から王国を見ると、もっと前の時代だろうか、と思ってしまう。

 そもそも、前世でそこまで詳しく歴史背景を知らないから、考察しても無意味かもだが。


 一点、これだけ言わせてもらうなら、まだ鉄道がなさそう?

 聞いたことないものね。今世で生きていても。そのうちに開発されるのだろうか。

 それとも魔法がある世界観だから、そっち系の発展は遅れるのだろうか。

 科学方面に人類史が向かわない可能性もあるわよね。

 魔術とギフトこそが人類の文明の賜物だ、みたいな。


「……脱線しすぎ。今それどころじゃないわよ。集中、集中」


 王国を空から見下ろすなんて、この時代では私しかできなそうな体験でハイになっているわ。


 ちなみに筋斗雲の上で、私は別に立っていない。

 座って前屈みになって、雲の端から地上を見下ろしたりしている。

 立って武器を構えたまま筋斗雲に乗っていたら格好いいかもしれないけど。

 普通にその勇気が出ない。あと別に誰も見ていないし、怖いだけ損だ。


 そうこうしている間に、アイゼンハルト領がぐんぐん近くなってくる。

 火眼金睛で遠くを確認すれば、各所に火の手が上がっているのが見えた。

 森林火災が起きている?

 凶暴化した魔獣のせい? 火を吐く個体がいるとか?


 この世界、攻撃的な魔術はない。生活魔法はそこまで出力が高くないのだ。

 もちろん例外はいるかもしれないが、基本はそうだ。

 人類は剣や槍、斧、弓といった武器を使って獣を狩る。

 だが、突然現れたという魔獣相手なんて、いったいどう立ち向かうのか。


「……急がないと」


 私にだって別に魔獣と戦った経験などない。

 でも、戦闘系最強のギフトと、前世知識と転生という体験を伴った多様な世界観に対する視野の広さがある。


 少なくとも私には『魔獣なんてありえない、存在するわけがない』とか、そういう動揺はない。

 むしろ『異世界なんだし、それくらいはいるよね』の立場だ。

 急に世界の常識を崩されたこの地の人々よりは冷静に状況を見られるはずだ。



 そして、とうとう私はアイゼンハルト領に到着する。

 でも、すぐに地上へは降りない。まず空から俯瞰(ふかん)して状況を把握する。耳を澄ませて。


「きゃあああ!」

「逃げろ、逃げろ!」

「駄目だ! こいつら、強い!」

「勝てない! 市民を逃がすんだ!」

「ヴィルヘルム様は!?」

「わからない!」


 聞こえてくる声は、かなり混乱している様子だ。状況はかなり悪い。


「魔獣はどんな姿をしているの?」


 指定して視界が飛ぶかと思ったが、そうはならない。

 加えてヴィルヘルムの状況を確認したかったが、そこにも視界は飛ばない。

 どうやらフィナさんやアイゼンハルト卿に視界を飛ばせたのは、私が認識していたからのようだ。

 知らない者のところへは視界を飛ばせないらしい。


 ただ、遮蔽物のないところなら望遠鏡のように遠くを視ることもできる。

 ズームアップ的に視ることもだ。

 私は、どうにか肉眼で魔獣を探してみる。


「あれね!?」


 見つけた個体はおそらく狼型の魔獣だ。

 確かに全体的に凶悪なデザインというか、雰囲気に変貌しているように見える。

 前世の私が見たら、卒倒しそうな気配を感じる。

 でも、孫悟空目線で見たら、たぶん雑魚。あれなら私でもなんとかなりそう。

 なら、私が魔獣を殲滅していく?


「……!」


 すぐに対処しようとして、私は行動を止めてしまう。


 ……孫悟空も雑魚妖怪を倒すなんて簡単だった。

 しかし、三蔵法師はそういった雑魚妖怪にさえ慈悲の心を見せる。

 害獣に苦しめられた村人からすれば、孫悟空の戦闘は英雄に等しいはずだが、お師匠様は許してくれないのだ。

殺生(せっしょう)はいけません!』と。


「……どうするの?」


 どう考えても、そんなことを言っている場合じゃない。

 また、私は孫悟空本人ではないし、ここに玄奘三蔵法師はいない。

 でも、ギフトには『緊箍児(きんこじ)』が内包されている……。

 緊箍児が自動発動するセーフティーだった場合、私は行動不能に陥る。


「だからって」


 この状況を、孫悟空の力を持ちながら、黙って見ているのはあり得ない。

 私がここに来た目的はヴィルヘルムを助けるためだから。ならば、彼以外は見捨ててもいい?

 それもあり得ない。


 だって、別にヴィルヘルムは私にとって特別な人間ではないのだ。

 考察から確定で死ぬと思ったから助けようとしただけにすぎない。


 この状況で、目の前で命を失いそうになっている誰かとヴィルヘルムは、私にとって『同じ価値』なのだ。

 ここで死にかけている者もまた、私が来なければ死ぬはずだった命に違いない。

 ならば助けない道理がない。


「──身外身法(しんがいしんほう)


 うなじの毛を一掴み。一本ではなく複数。

 筋斗雲で地上付近にまで急降下してから、その複数の毛にフッと息を吹きかける。


 そうすると小さな私、ミニ(・・)・カーマインがわらわらと現れ、それぞれが小さな筋斗雲に乗ってみせる。そして、それぞれが小さな如意棒を構えた。

 自分の姿のはずだけど、小さなサイズだと普通に可愛く感じるわ。


「流石にその姿のままは私過ぎる(・・・・)から……七十二(しちじゅうに)変化(へんげ)、変われ!」


 ボボボボン! と煙とともにミニ・カーマインたちの姿が変化する。

 それは赤髪の妖精のような姿だ。

 ……まぁ、及第点か。世界観的には、猿より妖精の見た目の方が合っているわよね。


 なお、このミニ・カーマインたちの姿は、あえて隠さない。

 正体不明の援軍として人々に認識してもらっておく。


「第一目的、襲われている、命の危機に陥っている人間の救命! ついでに彼らが連れている馬や犬などのペット・家畜がいる場合はそれの救命も! 『逃げて』『助けてあげる』『がんばって』と助ける相手に声をかけながらね! 第二目的、魔獣への攻撃! 完全に倒さなくても、人の生活圏から森へ追い立てるように攻撃すること! ……最悪、魔獣を殺してしまってもかまわない! また人間に捕まった場合は、すみやかに身外身法を解除! ただの毛に戻りなさい!」


 私はミニ・カーマインたちに命令を下す。


「「「「ウキーッ!」」」」


 と、元気のいい返事。

 うん、その返事の仕方はやめましょうか。人のことは言えないけど。


「もう行って!」

「「「「ウッキィー!」」」」


 うん。本当、やめてね!


「とりあず全体の対策はこれで」


 あとは森林火災だ。それならば芭蕉扇(ばしょうせん)で対応できる。

 ただ、この火は消していい火なのかしら?

 魔獣を遠ざけるために、あえて火を放ち、それが人々を守る壁や盾になっているとしたら?


「……わからない。もっと状況を正確に掴まないと」


 やれることはあるけど、だからって、ただ力を振るえばそれが正解とは限らない。

 難しいけれど、とにかく最善を目指す努力は続けなければ。


 それにしても。なんだって急にこんな事態になったのかしら。

 それが乙女ゲームのイベントにすぎないと言われれば、そうかもしれないけど。

 想定できる事態は何か、考えながら私は再び空に舞い上がる。

 火の手が上がっている場所へ近づき、状況を確認する。


 人を守ることにも、魔獣を遮ることにもつながっていない森林火災。

 ここは消していいでしょう。


「──芭蕉扇(ばしょうせん)!」


 ギフトによって手に現れる扇。


「風よ! 火を打ち消せ!」


 猛烈な風の発生によって火を消し飛ばす。

 森全体の火ではなく、あくまで不要と判断できる火災だけを消していく。

 空に上がって、上から全体の状況を確認しながら、その作業を何度もこなしていく。

 魔獣の出現地域はこの一帯だけど、魔獣たちは森の奥から来ているのは間違いない。


「狼型の魔獣、狼ね……」


 その手のお約束だ。狼が群れで行動しているのならボス格の個体がいる?

 フィクション的に考えすぎだろうか。いや。

 そもそも、ここに来た理由が推定乙女ゲームの展開を予測したからだ。

 なら、ここであり得ることを、その路線で考える。


 ボス格がこの森に現れるとして、それを討伐する役目を負うのは?

 アイゼンハルト卿か、または彼の兄、ヴィルヘルムだ。

 ヴィルヘルムが命と引き換えにボス格を討伐することで群れが撤退し、領地が守られるなら、如何にもドラマティックだろう。

 そのあとのアイゼンハルト卿の苦悩にもつながる。

 人々がヴィルヘルムを英雄視するとかね。


 または、ヴィルヘルムを殺したとわかる個体と、アイゼンハルト卿が対峙する。

 そこで彼が倒すのもアリ。

 逆に手傷を負わせて、この場では撃退するものの、勝負がお預けとなるパターンもあるわね。

 そうして、アイゼンハルト卿ルートの終盤で、ヒロインちゃんと手を取り合って、ようやく兄の仇を討つ。

 これが王道じゃない?


 少なくとも男性が主人公で強敵を倒すだけの物語ではない。

 ヒロインが主人公であり、彼女が援護するなり、囚われるなりして、活躍する展開までがセット。


「なにせ、破魔と浄化の力を持つ聖女だもの」


 この状況と、この相手で、聖女の力が役に立たないわけがない。

 これは最終的にヒロインちゃんとセットでなら解決できる問題のはず。

 それでいてヒーロー側の活躍や役割もあるはずだ。


 だから、やはりボス格がいる……?

 あるいは、魔獣を発生させている『何か』があり、それの封印か、破壊をヒロインが頑張っている間、彼女を守るようにタワーディフェンス的なことをアイゼンハルト卿がこなす?


「ボス格の魔獣か、あやしい何かを捜しましょう」


 雑魚魔獣は分身を駆使してどうにかする。

 この地の騎士団も戦っているのだから、すべてを私一人が担う必要はない。

 あくまで彼らの補助的に動きつつ、私は、ボスか、魔獣発生装置か、ヴィルヘルムを捜す。


 アイゼンハルト領の空を筋斗雲で飛び回り、時に地上付近に降下しては火を消し、魔獣を撃退しながら、この事態を解決できそうなものを捜していく。


「……!」


 その途中で、ゾクリと何かの気配を感じた。

 人々の生活圏から離れ、森の奥側を飛んでいた瞬間だ。


「……これは気配か殺気かしら。ギフトの恩恵をいろいろとオンにしているから、そういうのを感じるの?」


 その気配のする方向を火眼金睛で視る。

 視界が飛んでいき、その気配の主に焦点が合った。

 それは大型の狼というよりは、なんというか。


「虎って……ええ? これ、もしかして魔獣も西遊記系だったりする?」


 そう、虎だ。狼の群れのボスなのに、虎。

 魔獣の変異が縞模様に見せているだけかしら。一口に虎といっても雰囲気だけというか。


『虎の精』は、実は西遊記の序盤に出てくる敵キャラだったりする。

 わりといろいろな場面で違う種類の似たタイプが出てくるので特定が難しい。

 そもそも西遊記系なのかも不明だけど。

 妖怪がこの国に現れたから、そのカウンターで私が『斉天大聖孫悟空』のギフトを授かった可能性が出てきた? わからない。


「問題は、とにかくアレがあやしいってこと!」


 すぐさま、その個体に向けて急行しつつ、視界を飛ばす。


 そして私は視た。

 虎の魔獣の視線の先に、一人の傷ついた騎士がいて、膝をついている光景を。


「あの人がヴィルヘルム・アイゼンハルト!」


 おそらく彼がそうだと直感が働く。

 ますます対峙しているあの個体が、この騒ぎの鍵となる魔獣である可能性が高い!


如意棒(にょいぼう)!」


 芭蕉扇を消し、如意棒を取り出して構える。筋斗雲の上で立ち、攻撃の姿勢へ。

 筋斗雲の高速で飛来しながら、孫悟空の剛力で如意棒をフルスウィングし、()(つぶ)す!


「アチャアアアアアッ!!!」


 ドッゴォオオオオオ!!


 私は魔獣をぶっ飛ばしてやった!


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― 新着の感想 ―
━━(´・∀・)つ━━━)`ω゜).':;・、
フルスイング、あぶさんみたいな綺麗なスイングだといいのですが、石猿だけに岩鬼みたいなグワラゴワガキーンなんだろうなあ…魔獣打ち大ホームラン
めっちゃ冷静な思考、これ、地球人だった時なら逆に出来なそうなので…公爵令嬢としての教育とギフトの感覚、両方あり気かな? 前世男の子でバトル能力のもしも妄想日常的に繰り広げてて密かにギフト鍛えてる、とか…
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