30 選挙
「そうおっしゃるには、何か考えてきたのですか、ジュリアンさん」
「選挙です」
選挙?
「誰が生徒会役員に選ばれるか、生徒会長になるかを当てるゲーム」
「……まぁ」
生徒会選挙は、自薦と推薦枠がある。
基本的には自薦だが、それだと立候補者が集まらない可能性もあった。
推薦枠を残すのは正直、私としては不本意だ。
この先、考えられる展開として、聖女とG4が生徒会役員になるというありがちなパターンを妨害したくて提案したことだから。
ただ、選管の私たちは不正防止のため、候補者には基本、ならない。
「ジュリアンさんはヴィンセント殿下が選ばれると?」
「……ええ」
「なるほど。構いませんけど、それだと双方が勝利、双方が敗北することもあるのでは?」
「その場合は、私の負けで構いません」
「あら、引き分けじゃなくていいのね」
元からそこまで拘りはないのかしら。それとも他に何か?
「今、決まっている他の立候補者は?」
「……まず、二年生のレイナ・ブランシー公爵令嬢。こちらは推薦枠です」
「ブランシー公爵令嬢」
彼女もセシルと同じで、元生徒会役員だったはずだ。
ジュリアン氏のギフトをスルーできているので、無罪。
今回の選挙で返り咲きの可能性が出てきた人ね。
「他は、貴方も知っているでしょうが、ベネディクトとジークヴァルト」
「その二人はやっぱり立候補しているのねぇ」
教会系男子、聖職者ベネディクト・サンプリエール。
殿下の側近、騎士ジークヴァルト・アイゼンハルト。
「この二人は立候補です」
「自薦ね。しなくても推薦されてそう」
「他には……」
意外と数が揃っているわね。
基本的には高位貴族からの立候補者が多く、下位貴族や平民出身者からの候補者はいないようだ。
実は転生者が他にいて、ヒロインちゃんのポジションを狙っているとか。
その路線はなさそう? まぁ、それを疑いだしたらキリがないんだけど。
そういう人は、まずG4にアプローチしていそうだし、いないかな。
ヒロインちゃんも現地人っぽいし、物語の世界という証拠もない。
「じゃあ、私はその中だとブランシー公爵令嬢かしら」
「……手堅いですね」
まぁ、その面子ならねぇ。
「じゃあ、結果を楽しみに待ちましょうか」
そして、選挙当日。
けっこうあっという間に始まったわね。
この話が決まってから、せいぜい二週間くらい。
そのわりには生徒たちは盛り上がってくれている。
提案した甲斐があったというものだ。
投票方法はシンプルに紙。なお、政党投票はございません。
十人弱の立候補者たちから生徒会役員になってほしい人を生徒たちに選んで投票してもらう。
投票資格は、王立学園の在校生であること。
また、投票者の名前は無記名だ。
「なんだかワクワクしますね!」
「ふふ、そうね。フィナさん」
「あっ……」
「どうしたの?」
「いえ、フィナさんって呼んでくれるんだと思いまして」
「ああ……」
ヒロインちゃんは現地人、本物だと思っている。
そうなると彼女と敵対する必要はない。手の内をおいそれと明かせるほど、信用もまだできないところはあるが……。
「……名前で呼ぶくらいは許すわよ」
「本当ですか? それは、その。マイン様とお呼びしても?」
「……まぁ、ええ」
「ありがとうございます!」
嬉しそうだなぁ。どこでこんなに懐かれたのかしら。
あの日、彼女を救出した瞬間を覚えているわけじゃないでしょうに。
だいたい、あの時は私、透明化していたからね。
仮に起きていたとしても姿は見えていなかったはずだ。
ところで一緒に透明化した場合、互いの姿は見えるのかしら?
物理現象で透明なのではなく、術効果で透明だし、見えそうよね。
「マイン様、あれはどうしますか?」
「あれ?」
「……その。正義の味方」
「ああ」
忘れていなかったか。
どうにも、ヒロインちゃんにとっては衝撃の提案だったみたいだからねぇ。
類稀なギフトを授かった彼女。
その力は見るからに世のため、人のためのものだった。
なのに、その力を振るう場所がない。このままでいいのか。
そう悩んでいた時に、私が提示してしまった〝答え〟なのだ。
彼女にとって魅力的だったのだろう。
しかし、具体的に正義の味方とは何をするものか。
これに関しては私も他人事では終われない。
なぜなら、切実に『他人のために善行をする』ことを求めているのは私の方だ。
とても不純な動機で。
孫悟空の力は、やっぱり破格だった。
実にさまざまなことができる。しかも芭蕉扇や幌金縄など、敵の道具も孫悟空が使用したことがあるならOKっぽい。
この分だと、あの有名な『紫金紅葫蘆』も使えそう。
何かって? あれよ。
妖怪兄弟、金角大王・銀角大王が使った〝ひょうたん〟だ。
名前を呼ばれ、応じてしまうと、ひょうたんに吸い込まれる奴ね。
ひょうたんに吸い込まれた者は一時間で溶けてしまう。
……使う機会あるかしら、これ。ほぼ殺人の道具なんだけど。
なお、紫金紅葫蘆も、幌金縄も、孫悟空が奪った宝なわけだが。
これらは、のちに本当の持ち主に返却しなければならないものだ。
この辺の道具を無闇に使うと仏罰が下る可能性が高まる……?
……使う時は必要な時にだけ使うことにしよう。
あの一件で、緊箍児が発動することはなかった。
かといって油断はできないわけだが。
可能な限り、すみやかにヒロインちゃんを救出できたし。
なんらかの制限にひっかかるまでにミッション達成できたからかな。
とにかく破格なチート能力であることは間違いないギフト『斉天大聖孫悟空』。
やっぱりこの力を好き放題に使っていいとは思えない。
判断ミスの結果が五百年の幽閉では、本当に洒落にならないのだ。
だから私は切実に徳を積みたい。ノー、仏罰!
「……そうねぇ」
「はい!」
ワクワクしているヒロインちゃんのキラキラな瞳。
とてつもなく期待している。
適当に見回りでもするかという提案を考える。でもね。
この子、歩くと棒に当たるのよね。
つまり、前回同様、本当になんらかのイベントが発生する。
それを利用して徳を積むのは……うーん。でも、物は考えよう?
発生するイベント群は、ヒーローたちと彼女の交流のためにあるはずだ。
イベントの内容にもよるが、前回のようなケースなら人助けとなる。
ヒロインちゃんの行く先には事件が起きるのだ。
あの少年のように、ヒロインちゃんによって救われる人間も多くいるかもしれない。
……ヒーローが担当するはずの事件を、根こそぎ奪ってしまえば、お手軽に人助けができてしまうのでは?
そうすればヒロインちゃんは満足。私も徳が積めて満足。
困るのはG4かもしれないが、別に彼らと彼女が今、付き合っているわけでもなし。
女の子へのアピールなんて早い者勝ちでは? なので責められる筋合いもなし。
よくある乙女ゲーム転生者は『ヒロインの役割』を奪おうと行動するものだが。
私の場合は『ヒーローの役割』を奪って行動する。
攻略する側ではなく、される側。
私もギフテッドなので、五人目のヒーロー枠と言っても過言ではないのでは……?
だから、そうしても、とくに問題はないのでは?
「フィナさんは、これから休日とかで、どこかに出かける予定はある? 遠くへ行くとか」
「え? そうですね。夏季休暇では実家の、領地に帰る予定ですけど……」
ヒロインの帰省イベントかぁ。
何か起きそうな気もするし、起きない気もする。絶妙なイベントね。
生徒会に入っていたら、一緒に旅行へ行こうぜ! とかが発生していた?
ありそう。ちょっと調べておいた方がいいかもね。
「もしかして」
「ん?」
「私の家に遊びに来てくれるんですか? マイン様」
「……貴方が呼んでくれるのなら、行ってもいいわよ?」
「……!」
嬉しそう。本当に懐かれているわね。
私は、彼女の周囲で事件が起きることを想定しているというのに。
ちょっと罪悪感。
「あ、投票が始まりましたね」
「そうね。お仕事がんばりましょう」
「はい!」
選管の私たちは不正がないように、しっかりと取り締まる。
開票も私たちの手でする。
……七十二変化を使えば、投票用紙の改竄もできそうね。
いえ、やらないけど。ジュリアン氏の前で変化は使わない方がいい。
そうして、生徒たちの投票が終わる。
前世の選挙と違って、所詮は一つの学園の生徒たちの数。
そこまで絶望的な票数ではないから、問題なく進む。
結果は。
「──次の生徒会長は、レイナ・ブランシー公爵令嬢です!」
ヴィンセント殿下を抑え、僅差でブランシー公爵令嬢が選ばれた。これは大番狂わせね。
生徒たちは最初困惑しつつも、やがて大きな拍手で彼女を祝福した。
殿下も穏やかな表情で拍手を送っている。
今、生徒たちは一体となっていた。セシル・ランバートも嬉しそう。
どうやら彼の推しはブランシー公爵令嬢だったらしい。生徒のみんなが笑顔だ。
うーん。みんな、なまかかしら?
期日前投票も、当日投票も、あの投票用紙がなくてもいけるって今回、知った件。
投票日まであと6日!




