表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、曇りの聖女と呼ばれたけれど! ~転生悪女が授かったトンデモギフトの正体は何?~  作者: 川崎悠
第1章 悪役令嬢は暴れん坊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/40

27 幕間 ジークヴァルトの救出劇

「あの! た、助けて!」

「ん?」


 彼に声をかけてきたのは、小さな少年だった。

 身なりからして平民。

 それどころか、養護施設に保護されていなければならなそうな様子だ。


「なんだ、小僧」


 彼、ジークヴァルト・アイゼンハルトは何やら助けを求めてきた少年に返事をする。


「た、助けて」


 少年は背の高いジークヴァルトを見上げ、怯えた様子をみせる。


「……何からだ?」


 今、ジークヴァルトは王宮騎士団の見習いとして、街の見回りを手伝っていた。

 これは、その見回りの最中に起きたことだ。


 ジークヴァルトの家は、アイゼンハルト侯爵家。

 彼は、その家の次男であり、騎士だ。

 ギフト『不落の守護者』を授かり、剣の腕も立つ彼は将来有望と言われていた。

 事実、同世代では彼の右に出る者はおらず、王宮騎士団でもその実力を認められている。


 身分は高く、実力もあり、また整った容姿をしている彼は、さらにギフトも授かった。

 尊敬する父も、兄も、彼がギフトを授かったことを祝福してくれた。

 それだけではない。

 王族からも称賛され、第一王子ヴィンセントの側近候補として取り立てられることになった。


 ギフトは彼にとって、誇りの象徴だった。

 兄ではなく、自分がギフトを授かったのだと。

 自分こそが神に選ばれ、そして王族に選ばれた騎士なのだと。

 それが彼にとって自信となっていたのだ。

 ジークヴァルトは自信と誇り、傲慢さと劣等感、そういったものを強く抱える人物だった。


 今の彼は、表面的には評価が高い。

 けれど、内面的にはまだまだ未熟であり、成長が必要な若者だ。

 彼はまだ知らない。


 弱くても他者のために動ける人間の、心の強さを。

 強さだけでは、人間は推し量れないということを。

 ギフトを授かったこと、それはただのスタート地点に立っただけにすぎないことを。

 授かったギフトを、なんのために、誰のために、行使するのか。

 それを真摯に考え、行動しようとする少女のまっすぐな想いを。


「き、金髪の!」

「ん?」


 少年が続けた言葉に、ジークヴァルトは少年を見下ろしながら首を傾げる。


「綺麗な、女の人、が……。男たちに……連れていかれた! だから助けて!」

「何?」


 少年自身が救いを求めてきたのではなかった。

 ジークヴァルトはそのことにようやく気づく。


「どういうことだ」

「あの、連れていかれて……女の人……だから助けて……」

「……どこでそれを見た?」

「……あっち!」


 少年がジークヴァルトの服の裾を引っ張る。

 ジークヴァルトはまだ少年を信じられずにいた。

 というのも、この近辺では少年のような貧しい身なりの者がいて、それはならず者とつながっているという話を聞いているからだ。


 まだ、貧しい彼らは他人の金を盗むこともあるという。

 もしかしたら、この少年は裏路地に自分を呼び出す役割で、そこではならず者たちが襲撃せんと待ち構えているのではないか。

 だが、わざわざ騎士であるジークヴァルトを誘い出す意味もわからない。


 それとも、若さゆえに騎士と理解できていないのか。

 少年が連れていこうとする相手を間違っただけか。


「……あの?」


 動こうとしないジークヴァルトに少年は不安をにじませる。

 その目には涙の跡があり、少しだけ頬が赤い。


「お前、誰かに殴られたのか?」

「えっ」


 ますますあやしく感じる。

 きっと、この少年はならず者に脅されて、ジークヴァルトを誘い出す役割を担っている。

 そうに違いないとジークヴァルトが決断を下そうとしたところで。


「せ、聖女!」

「ん?」

「……聖女が、どうって言っていた……の」

「なんだと?」


 聖女。

 もちろん、ジークヴァルトは彼女のことを知っている。

 ギフト『聖女』を授かった子爵令嬢、セラフィナ・アスティエール。

 金髪の、美しい女性だ。

 確かに少年が告げた容姿は、彼女と一致している。


「まさか?」


 本当に? ジークヴァルトに緊張が走った。

 聖女セラフィナの誘拐。それは間違いなく大事件だ。

 何者が犯人かはわからないが、そういう存在がいる可能性は大いにある。


 まず、セラフィナは美しい貴族令嬢だ。その時点で誘拐のターゲットになってもおかしくない。

 そしてギフト『聖女』の持ち主。

 誘拐してどうするつもりか、利用価値があるのは理解できる。


「待て、だが」


 聖女セラフィナのことを、ジークヴァルトは先程見かけたばかりだった。

 そのこともまた、少年が嘘をついていない可能性を高める。

 だが、気にかかったのはそれだけではない。


 ジークヴァルトにとって腹立たしいことに、セラフィナは一人ではなかったのだ。

 彼女は、マロット公爵令嬢とともにいた。


 ギフトを授かりながら、洗礼水晶にその名が浮かばなかった女。

 ジークヴァルトからすれば、まがいもの。

 何かの間違いでギフトもどきを授かった、できそこない。

 そのくせ『聖女』ではないくせに自身を聖女と呼ばせて、悦に入る高慢な人物。

 ギフト持ちの名を穢す、ジークヴァルトにとって許せない存在。


 だが、嫌悪感を抱いていても、以前までは関わることもなかった。

 それがあの学園の授業で……ジークヴァルトにとって、最も屈辱的なことになった。

 あろうことか〝強さ〟で敗北したのだ。


 もちろん、あの時はジークヴァルトだって本当の本気などではなかった。

 彼女のことを見下していたし、授業であり、試合にすぎなかったから。

 だから、最初から油断していなければ。叩きのめすつもりの戦いだったなら。

 ギフトだって、ジークヴァルトのギフトの、すべての力を使っていれば。

 ジークヴァルトが、カーマイン・マロットに負けることなどなかったのに、と。

 ジークヴァルトはそう思わずにはいられなかった。


 かといって、すぐに再戦するわけにもいかない。

 何より相手はギフトもどきしか持たない人物で、女なのだ。

 ジークヴァルトと再戦する理由がない。

 彼女は女騎士ですらないのだから。

 せいぜいが授業での打ち合いになるのだろうが、果たして、それで満足できるのか。

 彼女の方も真剣に戦いを挑む状況でなければ意味がない。

 そうも思っている。それはきっと授業での試合では成り立たないだろう。

 再び戦えば、必ず自分が勝てるはず。

 そう思うのに、それを証明できない歯痒さは、ジークヴァルトを日々、苛立たせた。


 そんな因縁の相手、マロット公爵令嬢。彼女は聖女セラフィナと一緒に行動していたはず。

 どうして二人が一緒にいたのか、その理由は知らない。ただ、確認すべきことは一つだ。


「おい、小僧。赤髪の女はどうした?」

「えっ……」

「金髪の、聖女と一緒に赤髪の女はいなかったのか」

「あ……その、えっと……わから、ない……」

「そうか」


 誘拐された時に、二人は一緒にいなかった?

 そんな都合のいいことがあるのだろうか。


「……まさか、あの女が?」


 ジークヴァルトは思い至る。

 ギフトの名すらわからない公女。対して『聖女』のギフトを授かった子爵令嬢。

 二人の間に、ただ綺麗な友情など育まれるのか?

 そんなことはないはずだ。

 公女は『曇りの聖女』などと自分を呼ばせている。そんなところに本物の聖女が現れたのだ。

 内心は穏やかではないはずだった。だから。


「……聖女を誘い出して、さらったのか?」


 聖女を誘拐する。そして、彼女の名誉を傷つける。

 そんな動機があるのは、きっとカーマイン・マロットだけだろう。

 ジークヴァルトはそう決めつける。


「案内しろ、小僧」

「は、はい……!」


 ジークヴァルトがどう考えたかなど知らない少年は、ようやく動いてくれた彼に安堵した。


 聖女が誘拐されたと、王都を見回りしていた騎士たちにも伝わる。

 どうやら彼女は気絶させられ、意識を失ったままの状態で荷車に乗せて運ばれたらしい。

 荷車の跡を追ってみたが、流石に追い切れなかった。


「くそっ……」


 疑わしいのはマロット公爵家だが、確たる証拠もなしに公爵家に疑いはかけられない。

 きっと、騎士団でも納得してもらえないだろう。

 ジークヴァルトは第一王子の側近候補として注目されているが、王宮騎士団の指揮権などは持たされていない。

 ゆえに、騎士団全体を動かすこともできず、無為に時間が過ぎていく。


「あの……」

「なんだ?」


 歯痒い思いをしているジークヴァルトのところに、市民の声が届けられる。


「実は王都の端で、前からあやしいことをしているな、って連中がいて……」

「……王都の端」


 聖女につながる情報ではない。だが、ジークヴァルトはもう待ってはいられなかった。


「案内してくれ」

「は、はい!」


 そうして彼は王都の端にある、一つの屋敷へと辿り着く。

 人通りがあまりなく、遠目から見れば普通の家屋。

 だが、なにやら様子がおかしい。まず、屋敷の玄関が破壊されていた。

 三階に見える窓も、人が一人通れそうなほどに大きく割られている。


「くそっ……! なんだったんだ!」

「逃げやがったのか!?」

「いや、そもそも俺たちは何に襲われたんだよ?」

「おい、霧は晴れたか!? 女は!」

「いる!」


 騒いでいる男たちの声を聞いたジークヴァルトは、すぐに走り出した。


「……女と言ったな」


 彼の勘が告げたのだ。聖女があそこにいると。


「おおおっ!」

「うわっ! 今度はなんだ!?」


 ジークヴァルトが突撃した屋敷は、なぜか異常に湿度が高く、蒸していた。

 いったい何をしたらこんな状態になるのか。

 しかも、ところどころに倒れた男が見える。どう見ても一般市民の家ではない。


「お前たちか! 聖女をどこへやった!」

「なっ……! くっ、てめぇか!? さっき俺たちを襲ってきやがったのは!?」

「わけのわからんことを! こちらの質問に答えろ!」

「うるせぇ! おい! お前ら、こいつをやっちまえ!」

「ああ! 見たところ、こいつ一人だぜ! こいつさえやっちまえばいい!」

「ふざけるなぁッ!」


 こうしてジークヴァルトの、たった一人の戦いが始まった。

 ジークヴァルトはギフト『不落の守護者』を解放する。

 彼の体は鋼のように固くなり、またその身体能力は通常の状態から跳ね上がる。

 ……この力を使っていれば、あの女だって一撃で打ち倒すことができたはずだ。

 チラリと頭に浮かぶ雑念を、ジークヴァルトは振り払い、戦った。


「くそっ、なんだこいつ、バケモノめ!」

「こいつだ! こいつがさっき暴れやがったんだ! この力で扉をぶっ壊しやがったに違いない!」

「くそがぁっ!」

「わけのわからんことばかり抜かすなッ!」


 ジークヴァルトはギフトの力もあり、男たちを蹴散らしていった。

 そうして男たちを制圧したうえで、屋敷の中を捜す。


「おい、聖女! どこだ、どこにいる!?」


 ジークヴァルトが彼女を捜すと、すぐにその姿を見つけた。


「聖女! おい、聖女……セラフィナ・アスティエール! 起きろ!」


 彼女のことを心配し、肩を揺らしながら。

 ジークヴァルトは彼女に惹かれる気持ちをかすかに抱く。

 セラフィナはとても美しく、可憐な少女だった。それが今、間近にいる。

 ジークヴァルトは自覚していないが、どこかに期待する心も生まれていた。

 窮地を救った彼に、もしかしたら彼女が好意を抱くこともあるかもしれない、と。

 そうして肩を揺らし、彼女の目が開くことを期待して──。


「は……?」


 聖女の姿は霧散するように消えてしまった。あとに残ったのは、ただの木片だけ。


「……は?」


 ジークヴァルトは、呆然とその光景を見ることしかできなかった。

 そのすぐあと、別の場所で聖女とマロット公爵令嬢が見つかった報告が上がった。


【告知・宣伝】二章、連載再開

『傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~』

https://book1.adouzi.eu.org/n1292jg/


こちらの蛮族令嬢の2巻(二章)の内容を考えながら、思いついたのが今作、曇りの聖女だったりします!

つまり、精神的な姉妹作!

なので、今作を面白いと思ってくださった方は、蛮族令嬢の方もお読みいただけましたら嬉しいです!

方向性は似たようなもんです(ぇ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 (*´・д・)ノよ、おつかれ!
 の・・・脳筋すぎる。生徒会がまだ機能する前の段階を鑑みると、もしかして猪八戒ポジ?現在は天蓬元帥的な立ち位置で主人公絡みで暴れて株が暴落でもすんのかな(ありえそうで困る。
カーマインちゃんを貶したり疑ったりするたびに、  ・セラフィナちゃん(聖女)の難攻不落度がUPする。  ・セラフィナちゃんとの好感度UPフラグが消滅する。  ・セラフィナちゃんに嫌われる=守護を拒否さ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ