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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第99話 爆弾魔は賢者を撃つ

 俺は拳銃を連射する。

 賢者は魔術の障壁を張って弾丸を弾いた。

 見かけは半透明のガラスのようだが、相当な耐久性があるようだ。


 障壁を維持したまま、賢者は光弾を発射してきた。

 カーブを描く光弾はそれなりに正確な軌道で迫る。


「よっと」


 俺はサイドステップで回避する。

 光弾は地面に炸裂し、硬い土を削り飛ばした。

 ちょっとした手榴弾くらいのダメージはありそうだ。


 俺は気にせず前進する。

 飛んでくる光弾を避けながら銃撃を浴びせていった。

 賢者がその場を動けないように牽制する。


 魔術師の弱点は接近戦だ。

 どいつもこいつも動きが悪く、固定砲台のような立ち回りをする。

 解決方法は簡単で、近付いて叩くだけだ。

 俺の膂力なら、人体を軽く粉砕できる。


「ヘイ、ミスター。もっと本気を見せてみろよ!」


 拳銃が弾切れになったタイミングで、俺は空いた片手で懐を探る。

 爆弾を取り出して賢者へ投げた。


 放物線を描いた爆弾は、障壁に接着した。

 間もなく淡い光を発し始める。

 それと同時に、魔術の障壁にも異常が生じた。

 爆弾に触れた面から形が綻んで崩れていく。


「なにッ」


 賢者は動揺する。

 次の瞬間、発光する爆弾が炸裂した。

 轟音を上げてプラズマが迸り、土煙が舞い上がる。


 今のは新作の爆弾だ。

 接着面から魔力を吸収して、それを燃料に爆発するようになっている。

 対象の魔力量に比例して威力が増大するため、防御魔術を破壊するのに適した爆弾であった。

 無論、魔術師に直撃させるのも有効だ。


「ハッハ、生きているか? まさか、これくらいでくたばらないよなァ!」


 俺はけらけらと笑いながら賢者を嘲る。


 爆発による煙が漂う中、音も立てずに数百本の針が飛んできた。

 目を凝らすとそれは氷で作られていることが分かる。


 俺は転がりながら針を回避した。

 針の大群は、こちらの動きに合わせて発射角度をずらしてくる。

 必然的に俺はノンストップで走り続けることになった。


 やがて煙が晴れると、賢者の姿が見えるようになった。

 彼は両手を俺に向けてかざしている。

 ローブが破れ、片腕は火傷を負っているようだ。

 それなりに重傷だが、爆破の直撃を受けたのならあれでは済まない。

 たぶん上手くガードしたのだろう。


「ジャック・アーロン! 逃げずに堂々と戦え!」


 怒声を上げる賢者の手から、氷の針が絶え間なく発射される。

 ほとんどマシンガンに近いスピードと密度だ。

 策も無しに突っ込めば、たちまちハリネズミになってしまう。


「まったく、ぶっ放せばいいってもんじゃねえぜ?」


 動き回って針を避けながら、俺は爆弾を振りかぶった。

 それをアンダースローで賢者へと投擲する。

 すぐさま氷の針が爆弾を捉えて、ズタボロになるまで引き裂いた。

 砕け散った爆弾の内側から、緑色の煙が発生した。

 それが一気に散布されて賢者を包み込む。


 刹那、吹き荒れる突風が緑の煙を吹き飛ばした。

 賢者が魔術で対応したのだろう。

 彼は袖で口元を押さえて咳き込んでいる。


「お味はどうだい? あんたのために用意した爆弾なんだ」


「くそ、小癪な真似を……」


 賢者は少しふらつきながら悪態を吐く。


 あの毒々しいカラーリングの通り、緑の煙は毒ガスだった。

 生物が吸い込むと、体内の魔力のコントロールを狂わせる効果がある。

 魔力を持たない俺にとっては無害だが、魔術を武器とする賢者にとっては苦しいものだろう。


(微量だが吸わせた。成果は上々だな)


 これで賢者は慢性的なハンデを背負うことになる。

 彼は何をするにしても毒ガスの影響を受ける。

 攻防ともに大きな弊害となるのは必至であった。


 賢者は憎々しげに俺を睨むと、唐突に指を鳴らす。

 直感的に危機を察知した俺は真横へ跳んだ。

 足元を掠めるように、地面から火炎が噴き出す。

 火炎は俺を追う形で発生していった。


 さらに賢者は、氷の魔術を飛ばしてきた。

 針ではなく、今度は三日月状の刃だ。

 俺は身を捻って回避し、時にはナイフで破壊する。


(意外とやるじゃないか。賢者の名は伊達じゃないってことかね)


 二種類の魔術をやり過ごしつつ、俺は思考を巡らせる。

 毒ガスの効果はあまり感じられない。

 おそらくは、賢者の魔力コントロールが並外れているからだろう。

 術の精度に影響は出ているのだろうが、俺には分からない範囲で収まっているに違いない。

 そういった可能性がある旨を、事前にアリスから聞いていた。


 それと、賢者は俺の接近を過剰に警戒している。

 先ほどからあからさまに距離を取る戦術ばかりを多用していた。

 やはり接近戦は不得手らしい。

 何らかの策くらいは用意しているだろうが、俺を退けるほどではないと見た。


 逆に遠距離戦ではこちらの分が悪い。

 魔術で一方的に攻撃されてしまう。

 俺にも爆弾と銃があるが、賢者の防御魔術を突破するのは困難だった。

 数にも限りがあり、防御魔術を崩してもまた張り直されるだけである。


 不意を突いた攻撃をするか、距離を詰めて殴るしかない。

 まあ、焦ることはなかった。

 迂闊に接近して妙な魔術をかけられても困る。

 契約書の罰を強制的に発動させるような男だ。

 決して油断すべきではない。


 劣勢なのはむしろ賢者だった。

 ミハナという人質を取られた状態で、俺を相手に消耗を強いられている。

 彼にとって望ましくない展開だろう。


 賢者はじっくりと弱らせて、確実なタイミングで殺す。

 難しい話ではない。

 既にプランの候補はいくつも挙がっていた。

 あとはその流れに奴を誘導するだけである。




 ◆




 その後、俺と賢者は間合いを変えながら殺し合った。

 賢者は複数の魔術を同時に使用してくる。

 さらにヒートアップした彼は、縦横無尽に空中を駆けながら魔術の爆撃を繰り返した。

 無詠唱なのでタイミングが掴みづらいが、避けられないほどではない。

 賢者の動きや視線に注目し、あとは勘を頼りに俺は躱していった。


 おかげで未だに魔術の直撃を受けていなかった。

 何度か魔術を掠めて、服の端が破れたり焦げたくらいだ。

 かつて爆発と弾丸の嵐を駆け抜けてきた俺にとって、この程度の攻撃は序の口と言えるものであった。


 一方、賢者は無傷ではない。

 何度か毒ガスを吸ってしまい、右肩と左膝を弾丸が貫いている。

 呼吸も乱れ、たまに墜落しそうになっていた。


 体力の消耗に加えて、魔力の残量も関係しているのだろう。

 ここまで賢者は、温存を度外視した戦い方をしてきた。

 俺を殺すのに手加減はできないと判断したのだと思う。

 それは正しい考えだが、残念ながら実力が足りなかった。


 おまけに賢者は立ち回りがパターン化している。

 戦い慣れていないというより、戦闘センスが鈍った者の立ち回りだ。

 支配領域の統治に夢中で、長らく戦いから離れていたのだろうか。

 何にしろ迂闊すぎる。


 現在の賢者は、空中で息を整えていた。

 俺がジャンプすれば十分に届く高さに立っている。

 彼は虚ろな目で俺を見下ろす。


「お前は、絶対に、ここで始末する……ッ!」


 賢者が両手を掲げて振り下ろす。

 すると、空から無数の稲妻が降ってきた。


「ハッハッハ、出かける前に天気予報を見ておくべきだったな!」


 俺は駆け出し、ステップを踏んで稲妻を躱していく。

 レベル補正があるからこそ可能な動きだった。


「ぐぅ……こ、これなら、どうだァッ!」


 苦しむ賢者は、今度は巨大な火球を生み出した。

 ちょっとした小屋なら、丸ごと呑み込みそうなサイズはある。

 火球は圧倒的な熱量を纏って落ちてきた。


(まだこんな底力を残していたか)


 俺は火球の落下地点から走って離れる。

 ところが、火球は微妙に軌道を曲げて俺を追尾してきた。

 地面すれすれを飛行し、加速しながら迫る。

 生意気にもホーミング機能を待っているらしい。


(よし、そろそろ仕掛けるか)


 俺は前方へ跳躍した。

 ゆっくりと空中で前転し、逆さまの状態で姿勢をキープする。

 背後から接近する火球を視界に収めた。

 その先には、浮遊する賢者も見えた。

 彼は勝利を確信した顔を浮かべている。


「――良い位置だ」


 俺は腰のホルスターからリボルバーを掴み取った。

 アリスからプレゼントされた特注品である。

 ポケットを探り、一発の弾丸をつまみ取る。

 表面に複雑奇異な術式が刻み込まれた専用弾だ。


 今こそとっておきを賢者に披露してやろう。

 さぞ喜んでくれるに違いない。

 或いは目玉を飛び出させて驚くかもしれない。


 俺は弾丸をリボルバーに装填し、撃鉄を起こして火球に向けた。

 そして精神を集中する。

 極度の集中で体感時間が遅くなり、擬似的なスローモーションが起きた。


 逆さまの視界。

 重力に従って落ちる身体。

 迫り来る火球。

 気を抜いた賢者。


 それらすべてを計算に入れ、タイミングを見極めて発砲する。

 リボルバーから吐き出された弾丸は、火球に命中した。

 銃撃を受けた火球はその箇所から集束し、火の粉を散らして消滅する。


 弾丸は勢いを落とさずに突き抜けて、直線上にいた賢者のもとへ飛んだ。

 賢者は目を見開いて硬直する。

 隙だらけなその顔を弾丸が穿った。

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