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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第91話 爆弾魔は許しを乞われる

 ネレアを部屋に招いての親睦会が始まった。

 恐縮した宿のスタッフが、次々と豪華な食事が運ばれてくる。

 この地の支配者であるネレアがいるためだろう。

 心の休まらない時間だと思う。


 そんな彼らを同情しつつ、俺は料理をつまむ。


「――そこでジャックさんは、城の地下にある都市核を利用したの。ドルグの肉体でも大出力の魔力は耐え切れなかったわ」


 アリスが珍しく饒舌に語っていた。

 その内容は、俺と彼女がドルグを仕留めた際の話である。

 一見すると分かりにくいが、誇らしそうな表情をしている。


「すごいですわ! 激化する戦いの中で、賭けに出られたのですね。わたくしにはとても真似できません」


 ネレアは楽しそうに話を聞いていた。

 随分とピュアな反応である。


「…………」


 一方でミハナは嫌そうに顔を顰めていた。

 なるべく話を聞かないようにして食事を進めている。

 グロい話が苦手なのかもしれない。


 俺は三人の様子をなんとなしに眺める。

 特にネレアの動きには注意を払っておいた。

 彼女のことは信用していない。

 得体の知れない部分がある。

 ある程度は警戒しておくべきだろう。


 親睦会は順調に盛り上がり、やがて夜更けが訪れた。

 アリスはそばで熟睡している。

 ミハナも隣室で眠っていた。

 料理の皿はスタッフによって既に片付けられた後だった。

 テーブルには酒とつまみだけが残っている。


 俺は窓際に座って煙草を吸う。

 そろそろ残りが少なくなってきた。

 買い足さなければいけない。

 権力の恩恵を一番感じるのは、大抵の物品は金で仕入れることができる点だろう。

 煙草のような貴重品も手軽に買える。

 俺にとっては死活問題なので、ありがたい話であった。


「どうぞ」


 ネレアが俺のグラスに酒を注いで手渡してきた。

 俺は煙草の火を消して受け取る。


「ああ、すまないね」


「いえいえ、構いません……」


 距離を詰めたネレアが寄り添ってくる。

 左手は俺の太腿に置かれ、右手は俺の腕に抱き付く。

 甘い香りが鼻をくすぐった。


「ジャック様……」


 切なげな声と吐息が耳を打つ。

 ネレアは俺の手に指を添えると、グラスの酒を飲ませようとしてきた。


 俺は軽く息を吐き――彼女の首にナイフを添える。

 ネレアは不思議そうな顔をした。


「……ジャック様?」


「酒に薬を混ぜたな? 俺は見逃していないぞ」


 俺は淡々と指摘する。

 ネレアが酒を注いだ際、袖口からグラスへ粉末が落ちるのが見えたのだ。

 ここ数時間、彼女の動きは常に監視していた。

 懸念は見事に的中してくれた。


「はて、何のことでしょう。わたくしは何も――」


 ネレアは不安そうな顔でとぼける。

 その目が赤く光り始めた。

 瞳が蠢き、虹彩が不気味に回転する。

 何かしようとしているのは明白であった。


 俺はネレアの首をナイフで刺し、横薙ぎに振るう。

 迸る血飛沫が床を濡らした。


「っぁ……」


 ネレアはぐらりと揺れ、床に突っ伏した。

 血だまりを広げて、すぐに動かなくなる。

 同時に死体と血液が黒ずみ、泥のような粘液に変質した。

 粘液は泡を立てながら跡形もなく蒸発する。


 間もなく部屋の扉がノックされた。

 そこから顔を出したのは、優雅な笑みを湛えたネレアだ。


 俺は特に驚かずに拍手を送る。


「妖術による分身か。マジシャンでも目指したらどうだ?」


 事前調査でそういう噂を聞いていた。

 一部では、殺しても死なない女と呼ばれているらしい。

 半信半疑だったが本当だったようだ。


 後ろ手に扉を閉めたネレアは、恥ずかしそうに首を撫でる。


「いきなり殺されるとは思いませんでしたわ。ジャック様はせっかちですわね」


「よく言われるよ。治そうとは思っているんだが」


 短気やせっかちといった言葉は、もはや聞き慣れた罵倒だった。

 しっかりと自覚している。


 俺はナイフを弄びながらネレアを観察する。

 どこからどう見ても、直前に俺が殺した姿と瓜二つだ。

 そっくりの人間を本人に見せかけたとか、そういう次元ではない。


「しかし、分身とはすごいな。便利そうで羨ましい限りだ」


「数少ない特技ですの。他の代表の方々からは、何も聞いておりませんか?」


「ああ、何も聞いていない」


 賢者と暗殺王からは、分身について聞いていなかった。

 俺とアリスなら調べるから必要ないと思われたのだろうか。

 或いは純粋な嫌がらせか。

 分身能力を知らない俺が、ネレアに殺されることを望んでいるのかもしれない。

 十分にありえる話である。


 賢者はまだしも、暗殺王は合理主義だった。

 四人の代表が仲良くすべきとは思っていない。

 俺とネレアが衝突することで、どちらかが死ぬことを望んでいる可能性がある。


 まったく困った奴だ。

 不親切にされると、殺したくなってくる。


 腹立たしいことだが、暗殺王の処遇は後で考えよう。

 今は目の前のことに集中した方がいい。


「さっきは俺に魔術をかけようとしたな。効果は何だ?」


「魅了です。効き目が出るまで一瞬のはずでしたが、残念ながら失敗しました。ジャック様は強靭な精神をお持ちですのね」


 ネレアはあっさりと白状する。

 悪気がない様子だった。

 魅了ということは、俺の心を操るつもりだったのだろう。

 やはり妖術は厄介だ。


「まさかいきなり殺されるとは思いませんでしたわ。命を奪うことに躊躇が無いのですね」


「あんたの分身と同じさ。特技って奴だよ。瓶コーラの蓋を外すより簡単に人を殺せる」


 俺はナイフを片手に立ち上がってネレアと向かい合った。

 彼女の佇まいは、実に無防備だった。

 ナイフの一刺しで再び仕留められるだろう。


 ただ、相手はおそらく分身だ。

 ここで殺しても徒労に終わるに違いない。

 衝動的な行動に出たくなるのを抑え、俺はネレアを問い詰める。


「目的を言え」


「わたくし、貴方が欲しくなってしまったのです」


 ネレアは手を組んで愛おしそうに答える。

 予想外のリアクションを前に、俺は片眉を上げた。


「……なんだって?」


「ジャック様。貴方をわたくしだけの物にしたい。その常軌を逸した狂気に、何者にも屈しない人間的な逞しさ……あぁ、もう堪りませんわ。とても、美しいです」


 ネレアは蕩けそうな顔で近付いてくる。

 口端からは涎が垂れていた。

 こちらを凝視する双眸は、理性を失っている。

 度を超した独占欲。

 俺は瞬時に理解した。


「えっと、その……よろしいですか?」


 ネレアの伸ばした両腕が、俺の首に回される。

 彼女は目を閉じて顔を寄せてきた。

 ふっくらとした唇が迫る。


 俺は拳銃を取り出すと、ネレアの顎下に突き付けた。


「よろしくねぇよ。俺は誰の物でもない」


 そう告げながら、拳銃を発砲する。

 ネレアの後頭部が爆ぜ、脳漿が飛び散った。

 彼女は仰向けに倒れると、またもや泥になって蒸発する。

 無傷のネレアは、当然のように部屋の入口から現れた。


「まあ! 照れるお姿も愛らしいですわ」


「彼に触れないで」


 聞き慣れた声に視線を向けると、上体を起こしたアリスがいた。

 彼女は冷徹な顔をしている。

 たぶん相当に怒っているようだ。

 表情の変化は僅かだが、発する雰囲気で分かった。


 殺意をぶつけられるネレアは、意外そうな顔を浮かべる。


「あら。薬で眠っていただいたはずなのですが」


「体内の成分はすべて解析して解毒したわ」


 アリスはさりげなくすごいことを述べる。

 具体的な方法が気になるが、彼女にとってはさしたる労力でもないのだろう。


 隣室のミハナはちっとも起きてこない。

 酒に弱いのかと思ったが、薬のせいらしい。

 アリスと違って彼女は対策もしていなかったようだ。


「で、どうする? このまま殺り合うかい」


「…………」


「……ふふ」


 俺達は殺し合いを覚悟してネレアと対峙する。

 一触即発の空気の中、真っ先に動いたのはネレアだった。

 赤い目をした彼女は一歩踏み出すと――床に額をつけて謝罪する。


「……大変申し訳ございません! わたくしとしたことが、我を失っておりました。悪癖なのです。つい昂ってしまいました……! 本当に、すみません」


 ネレアは涙声で謝り続ける。

 これが演技なら大した女優だと思うが、そういう感じでもなさそうだった。


「お二人とここで争うつもりはありません。わたくしは戦いは苦手で、そもそも傷付けたくないのです。どうか、許してもらえないでしょうか。お詫びも用意致しますので……」


 一向に頭を上げないネレア。

 アリスは困ったように俺を見てきた。


「ジャックさん、どうするの?」


「そうだなぁ……」


 俺は腕組みをして考える。


 ネレアからは悪意を感じられない。

 先ほどの暴走は、行き過ぎた好意によるものだった。

 卑劣な手段で俺を魅了しようとした点については見逃せないものの、こちらの真の目的がバレていないのなら問題ない。


 それに、この場で戦うのは、俺達にとっても不都合だった。

 ネレアの分身の総数が分からない以上、迂闊に仕掛けるのは危険すぎる。

 軽率な判断で多大な損をするのはもう嫌だった。

 そういった経験は、決闘の一件で懲りている。


 ネレアは俺に罪悪感を抱いている。

 これを利用しない手はない。


 熟考の末に結論を導き出した俺は、ネレアの前に立った。

 彼女の顔を上げさせると、その泣き顔に告げる。


「スケジュールを変更だ。観光の案内をしてくれよ」

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狐耳美女は大事にするべきだと、ボクァ思います!(魂の叫び)
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