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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第3章 裏切り者と致死の凶弾

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第79話 爆弾魔は次の課題を洗い出す

 青々とした草原をゴーレムカーが走行する。

 運転する俺は、前方からの風を感じていた。

 いつもの形状とは異なり、今は変形してオープンカーにしているからだ。

 心地よい風を浴びたい気分だったのである。


 俺は車内の装置を弄ってハードロックを流す。

 つまみを回してボリュームを最大にし、吹き抜ける風の音を掻き消した。

 腹の底に響くこの重低音がいい。


「…………」


 後部座席に手を伸ばし、酒瓶を手に取った。

 指で弾いてコルクを外す。

 それを瓶を口に運ぼうとすると、寸前でアリスに腕を掴まれた。

 彼女は少し咎めるような表情で首を振る。


「飲酒運転は駄目よ」


「……すまない」


 俺は仕方なく酒瓶を元に戻した。

 ちょうど飲みたい気分だったのだが、アリスの言い分が正しい。

 この世界にも車に関する法はあるのだろうか。

 ずっとカーチェイスばかりしてきたのでよく知らない。

 何にしろ、酒はもう少し我慢しよう。


 それから特に何を考えるともなく運転していると、後方に無数の気配を察知した。

 俺はサイドミラーで正体を確かめる。

 十数頭の狼の群れが、散開して迫りつつあった。


「野生動物か?」


「街道を外れて直進しているから、彼らの縄張りに踏み込んだようね」


「なるほど、不法侵入で怒っているのか」


 アリスの解説に納得しつつ、俺はアクセルを踏んで加速する。

 縄張りに入った俺達が悪いので、ここはさっさと引き離してしまおう。

 わざわざ撃退することもない。


 そう思っての加速だったが、狼達はスピードを上げて並走してきた。

 絶妙な連携で包囲までしてくる。

 その光景に俺は素直に感心する。


「すごいな」


「この種は魔力によって脚力を強化しているの。平地での素早さはかなりのものだわ」


 呑気に会話をしていると、一頭の狼が襲いかかってきた。

 牙を剥き出しにして、車内に侵入しようとしてくる。


「悪いが土足厳禁なんだ」


 俺はショットガンを構え、跳びかかってきた狼の口に銃口を突っ込む。

 引き金を引くと、狼の後頭部が爆散した。

 脳漿がぶちまけられ、仲間の狼に降りかかる。

 即死した狼の遺体は宙を舞い、すぐに見えなくなる。


「しっかり掴まってろよ、っと」


 言いながら俺はハンドルを切った。

 身体が遠心力に引かれ、視界が高速で巡る。

 急回転したゴーレムカーは、鈍い衝突音を立てながら周囲の狼を撥ね飛ばした。


 その間に俺はショットガンから拳銃に持ち替える。

 スピンする中、狙いを定めて連射する。

 距離を取っていた残りの狼を撃ち殺してやった。


 弾切れのタイミングでハンドルを逆方向に切り、車両の回転を止める。

 微調整して車体の揺れとクラッシュを防いだ。

 そのまま走り去りながら、仕上げに爆弾を落としていく。

 過ぎ去った地点で爆発が起き、こちらを追跡しようとした狼に直撃した。


「ふぅ、一件落着だな」


 臓腑をばら撒く狼をミラー越しに眺めつつ、俺は細く息を吐いた。

 ダッシュボードの中から取り出したサングラスをかける。


「相変わらずの運転技術ね」


「そりゃどうも。ちょうどいい憂さ晴らしになったよ」


 アリスの褒め言葉に軽く笑って返す。


 現在は城塞都市への帰路だった。

 ミハナとの決闘が済んですぐに出発したのである。

 そもそもの用事であった代表同士の集会は終わっているので問題ない。


 晴れてアリスはエウレア代表の一人となった。

 俺はボディーガードという建前である。

 今後、何かあれば向こうから連絡が来るらしい。

 決闘で負けたことで、暗殺王からの依頼を一度だけ無条件で請け負わねばならないのだ。

 それまでは普通に生活する予定であった。


 しかし、我ながら迂闊だった。

 まさか決闘に敗北するとは思わなかった。

 目の前にチャンスをぶら下げられて焦ってしまった。

 おかげで契約に縛られ、ミハナを殺す行為を禁じられた。


 第三者に殺害を依頼するのも違反行為に該当するので実行できない。

 ミハナの死を想定した動きはアウトなのだ。

 強行した時点で契約違反となり、罰として魂が隷属化する。

 それはさすがに避けた方がいい。


(今回は慎重になるべきだったな……)


 振り返ると反省せざるを得ない。

 まあ、いい勉強になったと思っておこう。

 ミハナが容易には殺せない能力を持っていると判明した。

 それだけでも十分な収穫である。


 ミハナは必ず俺の手で始末するつもりだ。

 何事にも例外はある。

 どれだけ綿密に取り決めた契約にも穴は存在するものだ。

 それはもう防ぎようのないもので、誰が悪いとかそういう類の話ではない。

 仕方のないことなのだ。

 それを発見して、効果的に利用するのが最善策だろう。


 俺はミハナを殺すと決心した。

 つまらない契約くらいでは絶対に諦めない。

 いずれどこかで隙を突いてみせる。


 そのためにも、彼女のスキルの内容を暴かねばならない。

 殺害における最大の壁と言えよう。

 小賢しいあの能力がなければ、とっくに始末することができていた。


 別れ際にそれとなく尋ねたが、さすがに教えてはもらえなかった。

 ただ、生半可な能力でないのは確かだろう。

 戦いの素人が俺をあんな風にコケにできたのだから、相当に馬鹿げた補正がかかっている。


 単純に身体能力を上げるタイプではない。

 偶然では済まされない場面が何度もあった。

 あれらをすべて身体能力のせいだと言い切るのは無理がある。


 アリス曰く、幻惑系の能力という線も薄いそうだ。

 相手に幻覚を見せたり、認識をずらすことで惑わせる魔術はあるのだが、レベル差が開くほど術がかかりにくい傾向にあるらしい。


 俺の現在のレベルは391である。

 帝都爆破の時点で385だったが、諸々の戦いで微増したのだ。

 本来はこのラインまで来ると滅多にレベルアップしないのだという。

 レベルが上がるごとに、次のレベルに至るまでに必要な経験値が増えるからだ。


 アリスに調べてもらったところ、俺の場合は爆弾魔というクラス補正によって、爆殺による取得経験値が多くなっているらしい。

 今更だがクラスとは、その人間の才能や得意分野を役職という形でステータスに反映させたものである。

 俺はそのクラスとやらが爆弾に特化しているそうなのだ。


 詳細はよく分からなかったが、ステータスやレベル自体がこの世界特有の法則である。

 深く考える必要はないだろう。

 そういう項目があるといった程度の認識でいい。

 理解できなくとも大勢に影響はない。


 話を戻すが、俺のレベルは391だ。

 サングラス型の魔道具で確かめたところ、ミハナのレベルは89であった。

 ここまでのレベル差があると、俺に幻惑系の能力をかけるのはほぼ不可能らしい。


 召喚者固有のスキルなら可能かもしれないが、なんとなく違う気がする。

 あれは幻惑とかそういう問題ではなかった。

 明らかに他の力が作用していた。


 ただ、完璧でないのは確かだ。

 掠り傷とは言え、俺の攻撃は届いたのだから。

 ナイフによってミハナは怪我をしていた。

 つまり、殺すことができる。


 ひとまずの課題は、契約書の無効化だろうか。

 次にミハナの能力の解明だ。

 最後に、彼女の殺害を妨害してくるであろう賢者と暗殺王への対処である。


 焦ることはない。

 じっくりと着実にこなしていくまでだ。

 俺が死なない限りは、何度だってやり直しが利くのだから。


 城塞都市に戻ったら、都市開発を続行しようと思う。

 続けて新型の兵器も次々と製造していく。

 強力な爆弾を用意して、標的の連中を消し飛ばしてやろう。

 結局、それこそが俺の得意分野だ。

 生憎と器用な真似はできない。

 特技を最大限に活かさなければ。

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