第183話 爆弾魔は最果ての城に光を灯す
突き出した魔槍が、亡者の喉奥を貫通した。
そのまま横一線に振り抜くと、引かれて頭部が千切れ飛ぶ。
首を失った胴体は、それでも掴みかかろうとしてきた。
「おっと、触るのはNGだ。金を取らなきゃいけない」
俺は亡者の片手を掴み、相手の力を利用して投げ飛ばした。
壁に叩き付けながらサブマシンガンの銃撃を浴びせて黙らせる。
もう動き出さないことを確かめて肩をすくめた。
「平気かい?」
「ええ、大丈夫よ。まだまだ戦えるわ」
パワードスーツを着たアリスは、答えながら拳を振るう。
死角から迫る亡者が殴り飛ばされ、壁に激突してミンチと化した。
痙攣しているが、物理的に行動不能だろう。
間もなく死ぬと思われる。
最果ての城に侵入して、およそ三時間が経過した。
俺達は城内を突き進んでおり、殺到する亡者共を蹴散らしている最中であった。
アリスが魔術の光を各所に灯し、通常の光源では掻き消せない暗闇を打ち払っていく。
とりあえず、城内全域を明るくするのが目的だった。
途中、亡者が闇を媒体に出現するのが判明したからである。
原理は分からないが、とにかくそういう性質らしい。
城の十階までを制覇し、現在は十一階の暗闇を潰しているところだった。
これがなかなかに面倒だが、他に手段がないのだ。
世界核を手に入れるにしても、まずは障害となる存在を極力排除しなければならない。
万が一、亡者に邪魔されても困る。
この城を安全な場所にするのが先決だろう。
幸いなのは、亡者たちがそれほど強くないことだ。
生命力はあるようだが、それだけが取り柄らしく、油断さえしなければ簡単に倒せる。
こちらの被害と言えば、三つ首の頭が一つ減ったくらいだった。
鎌を持った亡者に刎ねられてしまったのである。
死んでしまうかと思いきや、三つ首は今も元気に亡者を攻撃していた。
アリスによると、頭部が一つでも無事なら死なないのだそうだ。
実質的に三つの命を持つ魔物だという。
失った頭部も時間経過で再生するらしいので、これからも頑張ってもらおうと思う。
「おっと」
頭上の吹き抜けから亡者が落ちてきた。
長剣を構えており、ちょうど俺の脳天をぶち抜く軌道だ。
不意打ちのつもりなのだろうか。
亡者の癖に頭脳プレイを見せてきた。
俺は長剣を躱して亡者の襟首を掴むと、吹き抜けへと投げ返す。
後続の亡者に衝突したところで、サブマシンガンを乱射してやった。
三歩ほど後退すれば、目の前に大量の肉片が落下してくる。
俺は銃を構えながら上階を見上げる。
追加分が降ってくる気配はない。
ひとまずは品切れのようだ。
「上階もなかなかハッピーな状況らしいな。最高だ」
皮肉を口にしつつ、散乱する亡者の肉片を蹴る。
亡者は無限に湧き出てくるので、数だけはやたらと多いのだ。
おかげで進行ペースは遅めだった。
城の最上階はまだまだ遠い。
なんとも先が思いやられる。
「……ん?」
小さくため息を吐いた俺は、ふと壁の一角に注目する。
そこだけが不自然に盛り上がっていた。
本当に僅かな膨らみで、暗闇の中ではまず気付けなかったろう。
足を止めなければ、まず見逃すレベルである。
俺はその箇所を指差しながらアリスに尋ねた。
「あそこに何か隠れていないか?」
「……巧妙に隠蔽されているけれど、魔術回路と繋がっているわ。城全体に作用する大掛かりなものね」
アリスはあちこちを凝視しながら解説する。
彼女が気付けなかったということは、よほど上手く隠されていたのだろう。
さすがは秘境の迷宮である。
「ふむ」
俺は魔槍で壁の膨らみに触れた。
特に何も起きない。
意を決して、今度は穂先で壁を破いてみた。
そこに現れたのは、上下式のレバーであった。
今は下がっている状態だ。
手動で切り替えられそうである。
「…………」
俺はゆっくりとレバーを押し上げる。
かちり、と何かが作動する音がした。
その瞬間、フロア全体の天井に煌々と灯りが出現する。
室内は昼間のように明るくなった。
吹き抜けを見上げれば、上層も同じ調子だった。
亡者の断末魔が幾重も響き渡る。
暗闇を失って生存できなくなったのだろう。
彼らはもう朽ち果てるしかない。
どうやら隠しレバーは、城全体を点灯させるためのスイッチだったらしい。
(こんな便利な仕掛けがあったとは。ひょっとして今までのフロアにもあったのか?)
俺は武器を下ろして拍子抜けする。
先を急ぐあまり、見逃していたのかもしれない。
時間をロスした気がするが、後悔したところで仕方なかった。
序盤に見つけられたことを喜ぼうと思う。
こうして俺達は、最果ての城における第一関門を突破した。




