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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第5章 魔王再臨と送還魔術

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第167話 爆弾魔は夕暮れの森を歩く

 俺は夕暮れの森の中を歩いていた。

 ナイフと魔槍だけを携えて進む。

 服はひどくズタボロで、ここが元の世界なら警察に目を付けられるだろう。

 焼け焦げていたり裂けていたりと無残な状態である。

 武器に関しても、手持ちはほぼ使い切っていた。

 銃もとっくに弾切れで、爆弾もゼロだ。


 おまけに全身が血塗れである。

 ただし、大半が返り血だった。

 襲いかかってきた魔物共の血を浴びてしまったのだ。

 俺自身の怪我は大したものではなく、既に再生して治癒されている。


 もっとも、この血が発する悪臭は酷い。

 控えめに言って鼻が腐り落ちそうだった。

 炎天下に放置された生ごみよりも最低な臭いがする。

 もはや人を殺せるのではないかと思うほどの兵器と化していた。


 一刻も早く洗い落としたいが、近くに池や湖がなかった。

 しばらくは我慢するしかない。

 過去に受けた拷問や尋問に比べれば、ほんの少しばかりマシだった。


 それに悪いことばかりでもない。

 この血の臭いのおかげか、他の野生動物が逃げていくのだ。

 強い魔物を察知して恐れているのかもしれない。

 余計な運動をしなくて済むのは良いことである。

 俺も無闇に殺生したいわけでもないのだ。


(今日はもう十分に暴れたしな……)


 数時間前、俺はシュウスケの差し向けた魔物を殲滅した。

 あれから何度も"アンコール"が発生したが、残らず殺し尽くした。

 地形を変えかねないパワーを持つモンスターばかりで辟易したものの、連中の攻撃力では俺を削り切れなかった。

 少し傷を負ってもすぐに再生するのである。


 一方で俺は、レベル補正に任せて攻撃をぶちかますだけだ。

 それほど複雑な作業でもない。

 爆弾や魔槍で引き裂いてやった。


 大型の魔物ばかりなので多少は手間取ったが、総括すると大した敵ではなかった。

 シュウスケの野郎は俺を見くびっているらしい。

 ボスラッシュに持ち込めば、押し切って殺せると判断されたのだろうか。

 砂糖をぶっかけたハニートーストのように甘い考えである。


 数時間にも及ぶ戦闘をこなしたためか、俺のレベルも上昇していた。

 ちょうどレベル400になった。

 記念すべき瞬間だが、生憎と祝うだけの時間はない。

 パーティはシュウスケを始末した後にしようと思う。


 現在、俺は海を目指して移動中だった。

 既に共和国の国境は越えている。

 俺の方向感覚が狂っていなければ、このまま直進することで海に出るはずだ。

 ゴーレムカーに乗るアリスは、きっとこの先で待っている。


(まったく、予定がずれちまったな……)


 俺は嘆息する。

 本来のスケジュールなら、既に海を移動している最中だった。

 こればかりは仕方ないと割り切るしかない。

 回避できる妨害でもなかった。

 今のうちに向こうの戦力を削れてよかったと考えるべきだろう。


 それからさらに数時間後。

 森の終わりに差しかかったところで、前方にゴーレムカーが見えた。

 そばには三つ首も鎮座している。


(……存在をすっかり忘れていたな)


 そういえば、アリスと一緒に逃げていた気がする。

 俺が不在だというのに、律儀に同行しているらしい。

 よく分からないが、懐いているのだろうか。

 好感度の上がるような行動をした覚えがない。


 首を傾げつつも、俺はゴーレムカーに近付き、助手席の窓を軽くノックした。


「やあ、クールなお嬢さん。ちょいと乗せてくれないかい?」


「いいけれど、まずは身体を洗ってくれないかしら。車が汚れてしまうわ」


 アリスは鼻をつまみながら言う。

 批難というより、ちょっとした冗談のつもりなのだろう。

 真顔だから分かりにくいが、付き合いも長くなってきたのでニュアンスは伝わる。


 だから俺は肩をすくめて笑った。


「ははは、そいつは正論だ」


「向こうに湖を見つけたわ。安全な水よ」


「了解。行ってくるよ」


 俺は駆け足で移動する。

 アリスの言う通り、そこには湖があった。

 森の中にひっそりと隠れている。


 俺は全身にへばり付いた魔物の血を洗い落とし、自分の身体を嗅いだ。

 少し臭いが残っている気もするが、許容範囲だろう。

 これ以上は石鹸等が必要である。

 揉み洗いした服を着てアリスのもとへと戻る。


 アリスは助手席からひょこりと顔を出した。


「おかえりなさい。魔物達は全滅させたの?」


「ああ、一匹残らずぶち込んでやったぜ」


 俺は魔槍を掲げながら答える。

 この武器は本当に優秀だ。

 あれだけの激戦で酷使しながらも、少しも歪んでいなかった。

 穂先もまだまだ切れ味を維持している。

 数え切れないほどの大型魔物を刺し殺して、良質な魔力をはち切れんばかりに吸わせたのがよかったらしい。

 銃火器に次いでこれからも愛用したい武器である。


 嬉々として魔槍を弄ぶ俺を見て、アリスはくすりと笑った。


「ジャックさんはまだまだ元気そうね」


「当然だ。あの程度じゃウォーミングアップにもなりやしねぇさ」


「そうですか。今後の参考にさせていただきます」


 背後から抑揚に乏しい声がした。

 物寂しい男の声だ。


「――っ」


 俺は飛び退くと同時に魔槍を構える。

 背中を汗が伝う感覚があった。


 そこに立つのは、グレーのスーツの男だ。

 七三分けに黒縁の眼鏡。

 不機嫌さを感じさせる表情で、冷めた目をこちらに向けている。


 男は最後の召喚者――ハリマ・シュウスケであった。

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