第154話 爆弾魔は相棒に打ち明けられる
今回から最終章です。
よろしくお願いします。
雑多とした印象を受けるエウレアの私室。
ソファに座る俺は、分厚い魔術書を熟読していた。
びっしりと書き込まれた記述や魔法陣を読み解きながらページをめくっていく。
室内には、リラックス効果のありそうな音楽が流れていた。
ほどよいテンポで優雅な旋律を紡いでいる。
曲調はクラシックに近く、専属の音楽家が作曲したものだ。
それを魔道具で再現している。
俺のお気に入り曲だった。
今みたいに読書をする時なんかにぴったりなのだ。
音楽に合わせて口笛を吹いたりしつつ、俺は魔術書を読み進める。
魔術書の中身は、以前までちっとも分からなかった内容ばかりだ。
しかし、今ではだいぶ理解している。
アリスからは「知識が偏りがちだけれど、見習い魔術師に値する」との評価を貰っていた。
お世辞を言わないタイプの彼女がそういった判断をしたのだ。
地道に学習できていると考えていい。
迷宮都市で二人の召喚者を始末してから、およそ半年が経過していた。
エウレア内の支配領域は順調に発展している。
都市核の亜種をついに製造できるようになり、各都市への設置も始めていた。
ワイバーンの心臓や、培養世界樹を基にした装置で、安定した魔力供給によって豊かな生活を約束している。
国民からは大好評であった。
さらに森を越えた先にある帝都跡からも魔力を拝借している。
あの地に漂う魔力を地下を通して運搬しているのだ。
運搬には迷宮の構造を利用している。
森の集落に暮らすドワーフの協力もあってか、かなり大規模な工事だったが無事に成功した。
ついでというわけではないが、ドワーフ達の集落にも魔力供給が為されるようにしてある。
こちらが受ける恩恵と比べれば微々たるものだが、それ以上の礼は固辞されたのだ。
何とも謙虚な人々である。
ドワーフ達とは今後も良好な関係を維持したいものだ。
ちなみに他国の領土に平然と手を出しているが、どこからもクレームは来ていないし、これといって問題にもなっていない。
なぜかと言うと、現在の帝国が半ば滅亡した状態にあるためだ。
次代の皇帝が死んで後継者がいなくなったのが大きい。
そこから後継者争いが再開するかと思いきや、今度は周辺諸国が暗躍し始めたのである。
諸国は何かと理由をつけては、帝国領土を削ぎ落として自国のものにしていった。
ここ数カ月はその繰り返しだった。
無論、そこにエウレアも便乗させてもらった。
だから文句は出ていない、
被害を受ける帝国が、もはや反論できる立場になかった。
いずれ全ての領土が千切り取られて、帝国は地図と歴史から消えるのだろう。
そもそも、現エウレアの戦力は相当なものとなっている。
他国も関わりたくないという風潮を醸し出していた。
以前、ちょっかいをかけてきた国の首都を見せしめで爆破したのが効いたに違いない。
異世界でも爆弾魔の名は知れ渡った様子である。
やはり暴力で進められる交渉は好みだ。
テーブルでの話し合いは面倒で仕方ない。
ここ半年の努力を振り返っていると、扉がノックされた。
入室したのはアリスだ。
彼女は自然な動きで対面のソファへ座った。
相変わらずクールだが、今日は心なしか嬉しそうだった。
分かりにくいものの、若干テンションが上がっている。
俺は魔術書を脇に置いた。
「良いニュースがあるようだが、どうしたんだい?」
「目的遂行の目途が立ったわ。大きな進歩よ」
アリスが淡々と答える。
目的遂行と言うと、ラスト一人の召喚者か送還魔術の完成だろうか。
後者は開発が難航していたはずなので、前者が有力となる。
この半年、なかなか掴めなかった情報だ。
他国にもアプローチしたのだが、それでもガセが多かった。
件の召喚者はよほど隠れるのが上手いのだろう。
既に死んでいる可能性は否定している。
相手は生きていると確信していた。
爆弾魔としての勘がそう告げるのだ。
「目的と言うと、どれのことだ? 召喚者の居場所だと嬉しいがね」
「そっちじゃないわ。目途が立ったのは、私の目的よ」
アリスは首を横に振る。
俺は予想外の言葉に眉を寄せる。
彼女の目的など、すっかり頭の中から抜け落ちていた。
それ以外のことで忙しかったのだ。
俺自身の目的達成がすぐそこまで迫っているため、そちらに夢中だったというのもある。
(マジかよ。ついに閃いてしまったか)
嫌な予感を覚えながらも、俺はアリスの言葉の続きを待つ。
これから何が告げられるかは察していた。
しかし、彼女自身の口から直接聞かなくてはいけない。
アリスは俺の目を見つめながら、はっきりと打ち明ける。
「――世界滅亡の方法を見つけたの。私とあなたの力で実現できるわ」




