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爆弾魔な傭兵、同時召喚された最強チート共を片っ端から消し飛ばす  作者: 結城 からく
第4章 二人の召喚者と迷宮の都市

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第152話 爆弾魔は引導を渡す

「うう、あああっ、アアアアアアッ!!」


 アヤメが絶叫する。

 魔法陣の効果により、彼女の肉体は連続で爆発していた。

 しかもペースがだんだんと上がっている。

 それを凌駕する速度で再生しているものの、こちらに近付くほどの余裕はないようだ。


 辺りには、アヤメの肉片が散乱していた。

 集めればちょっとした山になるだけの量があるだろう。

 なかなかにスプラッターな光景である。


「ぶ、ぐぶっ――あ、ばああいああ――」


 アヤメの首が爆発し、鮮血を迸らせる。

 途切れ途切れに呻きながらも、彼女は這うようにして前進する。


 俺は煙草を吸いながらその姿を眺めていた。


「そろそろ諦めたらどうだ?」


「ジャアア、アック……アーロンンンンン! おば、え――オマえがァ、わだじをぉぉぉぉッ!」


 アヤメが久々に意味のある言葉を発した。

 相当な恨みが込められている。

 先ほどまでは感じられなかったものだ。

 二つの眼球は、しっかりと俺を睨んでいる。


「ハッハ、最期に正気を取り戻したってわけか。そいつは災難だな」


 狂ったまま死ねた方が楽だったのに、何かの拍子で彼女の意識が浮上したらしい。

 それもここ最近の陽気なアヤメではない。

 おそらくは本来の彼女だった。


 数々の致命的な肉体損壊により、アヤメの精神は狂気に浸っていた。

 考えてみれば当然だ。

 いくら再生して元通りになると言っても、脳が爆散するようなダメージを負った事実は消えない。

 味わった苦痛と経験は彼女の心に刻み込まれる。

 それはトラウマという表現すら生温いものだろう。


 異世界に召喚されて数カ月。

 アヤメは狂気の世界に逃げ込むことで、辛うじて己を保ってきた。

 記憶の欠落も、無意識下で実行された逃避行動に違いない。

 何もかも忘れることで、心的負担を軽減していたのだ。

 あとは快楽殺人に身を委ねれば、歪んだ殺人鬼の完成である。


「おまえがああああぁ、あぶっ――じ、ぐじゅああああアアアアアアァァッ!」


 アヤメは血みどろになりながら叫ぶ。

 その肉体が爆発しながら融解し、のっぺりとした人型の肉塊になった。

 髪の毛が千切れ落ち、全身にいくつもの眼球が浮かび上がる。

 耳と鼻は消失し、皮膚も再生せず、筋線維の露出した状態となった。

 唯一、口だけが変わらず奇声を発していた。


 アヤメの固有能力――【無限再生 A+】が、度重なるダメージを受けてさらなる肉体進化を強制したようだ。

 彼女に人間であることさえも放棄させている。

 しかし、いくら進化しようとプラス要素である魔法陣は消えない。

 アヤメのパワーが上がるほど、それに伴う爆発をお見舞いする。

 異形と化したアヤメは、爆破の嵐に苛まれて動けなくなっていた。


「ジャックさん」


「ああ、仕留めてやるよ」


 俺は煙草を落とし、靴底で火を踏み消した。

 リボルバーを抜いてアヤメへと近付く。


「ぶぇっ、ぺぉ――あぶぅ、ひあっ」


 爆発するアヤメは苦悶していた。

 そんな彼女の背後に、地面の亀裂を発見する。

 俺とアリスがよじ登ってきた場所だ。

 下の階層まで直通となった穴であった。


 俺はリボルバーを構えながらアヤメに声をかける。


「遺言を聞こう。追悼式でスピーチしてやるよ」


「し、にたい……じにだっ――くる、じいっ、びゅっ――ころ、じてぇぇぇぇッ!」


 アヤメが手を差し伸ばしてくる。

 対する俺は、彼女に向けて弾丸を撃ち込んだ。


 銃撃がアヤメの肩を貫いた。

 彼女は僅かに後ずさる。

 傷は既に修復されていた。


 俺は二発目を発砲する。

 首を抉られた彼女は、またもや後退した。

 その足が穴の縁にかかる。

 アヤメは体勢を崩して後ろへ倒れかけて、寸前で耐えた。


 俺はリボルバーの撃鉄を起こす。

 そのまま、よろめく彼女に別れの挨拶を送る。


「グッバイ、不死身のお嬢さん」


 俺は三発目を発砲する。

 弾丸は、アヤメの額を捉えた。


「――――あっ」


 ぽつりと声を上げたアヤメは、そのまま穴へと落下した。

 轟く爆発音が急速に小さくなっていく。

 這い上がってくるようなこともない。


 アヤメは死ぬこともできずに爆ぜ続ける。

 かと言って迷宮を脱出することも叶わない。

 絶え間なく襲う爆発で地盤を掘りながら落ちていく運命だ。


 もう出会うこともないだろう。

 ある意味、死よりも残酷な結末と言える。


 遥か下方で響く爆破音を聞きながら、俺はリボルバーを下ろした。


「ようやく始末できたな」


「そうね。長かったわ」


「一気に二人の相手をしたんだ。仕方ないさ」


 トオルもアヤメも難敵だった。

 犠牲を出さずに殺せただけで上出来である。

 当初の予定とはだいぶ異なるが、上手くいったので良しとしよう。


 ――こうして俺は、五人目の召喚者を始末したのであった。

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