第116話 爆弾魔は新帝都に赴く
俺達は気を取り直して移動を再開した。
切断されたアームの一部を拾い集めながら草原を進む。
幸いにも落ちたまま放置されていたので、残らず回収することができた。
元のルートに戻ったゴーレムカーは、新勢力がいるという都市を目指して走る。
召喚者の女との一件は保留だ。
再び襲撃してくるようなら、また爆破してやるだけである。
殺せないにしても、撃退は可能だと判明した。
太刀打ちできないというわけでないのが救いだろう。
自由に時を止められたり、行動を予知されるよりはマシと言える。
女は戦い慣れているようだったが、所詮は短期間で身に付けたものだ。
俺に敵うほどではなかった。
動きを見るにあれは我流で、軍隊で学んだテクニックではない。
純然たる殺し合いを繰り返してきた者のそれだ。
過去にああいったタイプと遭遇した憶えがあった。
快楽殺人を好むサイコキラーだ。
仕事柄、その類の連中に会うことも少なくなかった。
あの女の狂った目は、完全に殺人鬼そのものだ。
どのような経緯を辿ったかは不明だが、彼女は殺しの愉悦を知ってしまったらしい。
現代日本とは根本が異なる世界で、他を凌駕する超絶的な能力を得た。
特殊な快楽に目覚めてしまうのも無理はない。
だからと言って、俺達を害してもいい理由にはならない。
同情の余地もないので、いつか始末する。
アリスと協力して対策を見い出すのだ。
その後、俺達は帝国内を縦断した。
特に襲撃はなく、大きなトラブルも起きない。
帝都跡のゴタゴタがピークだった。
実に平穏な旅路である。
途中でゴーレムカーのメンテナンスも済ませておく。
損傷は軽微なもので、通りかかった街で購入したパーツで修理することができた。
性能の低下などは起きていない。
アリス曰く、仮に車体の半分以上が破損しても走行できるようになっているらしい。
彼女の設計能力にはいつも驚かされる。
(まるで嵐の前の静けさだな……)
遠くないうちに何かが起きるかもしれない。
いや、必ず起きるだろう。
帝国の後継者争いに勝利した新勢力。
その参謀の地位に就く召喚者の少年。
どんな傷でも死なない殺人鬼の召喚者の女。
不穏な要素がこれだけ用意されている。
俺自身もそのうちの一つと言えよう。
さぞ派手に爆発するはずだ。
楽しみにしておこうと思う。
◆
帝都跡での戦闘から四日。
俺とアリスは、新勢力がいるという都市に到着した。
都市の外観を遠目に眺めるも、エウレアのように目立つ建造物は見当たらない。
ただ、一点だけ気になるものがあった。
都市内から外へ道のような物が続いている。
目を凝らすとそれは、レールと枕木だった。
その端では作業服を着た者達が集まっている。
気になった俺は、ゴーレムカーを寄せて声をかけた。
「やあ、何をしているんだい?」
「最寄りの都市へ繋げる線路さ。貨物用の列車を走らせるんだ。いずれ客用も造るそうだ」
「なるほど。そいつはすげぇや。教えてくれてありがとう」
作業員に礼を言い、俺はその場を離れる。
線路と列車ということは、輸送力の強化を図ろうとしている。
帝国の基盤を整えるつもりらしい。
新勢力とやらは、後継者として本気で開発を進めているようだ。
思ったよりも動きが早い。
後継者争いが再燃する前に、今の地位を確立したいのだろう。
列車の運用が開始されれば、都市内外における物資の移動が円滑になる。
それは戦争時においても重要な役割を持つ。
実現できればその恩恵は非常に大きい。
「線路は各種魔術で防護しているようね。誰かに破壊されないように工夫されているわ」
「さすがだな。連中は本気で国を手中に収めるつもりらしい」
聞けばあの都市は、新たな帝都になるという噂が広がっている。
関係者が意図的に流したものだろう。
新勢力は、この地を中心に国を立て直すつもりなのだ。
急造される線路を見るに、その熱心な姿勢が窺える。
感心する俺達は街の中へ入り、適当な宿屋を確保した。
当分は都市内で目立たずに調査するつもりだ。
新勢力は俺達の存在に気付いているだろうが、そこはあまり気にしない。
何の痕跡も残さず、向こうの内情を調べ上げるのは困難だ。
俺の性にも合わない。
開き直って観光をするくらいがちょうどいい。
ひとまずの方針として、宰相が召喚者だった場合は暗殺を計画する。
違うのなら一旦放置だ。
新たな帝国の動きが、エウレアの邪魔にならないかを判断したい。
帝都跡で再会した女についても調べる。
あの女が新勢力と関係があるのなら、この都市で何らかの証拠が見つかるはずだ。
それらを地道に探っていきたいと思う。
(召喚者が一人だろうが、二人だろうが関係ない。まとめて爆殺するだけだ)
むしろ探す手間が省けて好都合と言えよう。
この広い世界で、個人の居場所を特定するのは面倒だ。
あちらから派手なアクションを起こしてくれる分には感謝しなくては。




