第111話 爆弾魔は次なる標的を思い描く
「参謀がニホンジン……つまり、召喚者ということかしら」
「その通り。俺のターゲットってわけさ」
アリスの言葉に俺は頷く。
帝都爆破後、召喚者は疑心暗鬼となり、それぞれが別行動を取ったと聞く。
俺を含めるとエウレアには三人もの召喚者がいた。
七人のうち三人だ。
それなりの比率と言えよう。
だが、帝国内に留まった者がいても何らおかしい話ではない。
今回の参謀とやらがその例である。
帝国では召喚者が冷遇されているそうだが、そういった風潮の中でも生きていくことはできる。
「ジャックさんが乗り気な理由が分かったわ。その参謀を殺しに行くのね」
「まあそういうことだな」
召喚者の殺害は、俺の中でも優先度が高い案件だ。
仮に元の世界へ帰還する手段を獲得しても、まずは連中の皆殺しを達成してから使うと思う。
「参謀に関する情報はあるの?」
「それがイマイチなんだ。詳しくは現地で調査するしかない」
日本人を名乗った参謀には、ネレアも直接会ったことがないという。
魔道具による通話で言葉を交わしたくらいなのだそうだ。
ちなみに声は若く、おそらく少年とのことである。
自らを異界の勇者だと言ったそうだ。
異世界人を騙っている可能性もあるが、個人的には信憑性が高いと思っている。
そんな奇特な素性を騙るメリットが存在しない。
ハッタリだとしても、もう少しマシな嘘があるだろう。
参謀とやらが本当に異世界人で、その素性をオープンにしていると考える方が自然だ。
まあ、どのみち正体は確かめるつもりである。
ガセネタなら別にそれでいい。
情報が正しければ、殺すまでだ。
記念すべき四人目の犠牲者になってもらう。
もちろん簡単に始末できるとは思っていない。
ミハナとの戦いでは、目の前のチャンスに焦って酷い目に遭った。
今回は情報収集を徹底する。
手出しするのは後だ。
まずは向こうの能力を入念に調査する。
きっと強力なスキルを保有しているのだろう。
その対策を確立してから殺しにかかる。
今回もゴーレムカーには武器を満載していた。
どんな作戦も実現できるように備えてある。
新型の爆弾も持ち込んでいる。
使えるタイミングを楽しみにしておこう。
「目的地はどこなのかしら」
「この辺りだな。ほぼノンストップで向かう予定だ」
アリスの持つ地図を一瞥し、俺はその一部を指でなぞって囲う。
ネレアの情報によると、新勢力の拠点は帝都領土内でも北西部に位置する。
そこにある大都市で再起を図ろうとしているそうだ。
新勢力のリーダーは、次代の皇帝を自称しているらしい。
(果たしてどんな人物なのやら)
内乱を制したという経歴を考えると、かなりの豪傑かもしれない。
或いは、水面下での情報戦や盤外戦術に長けた策士か。
帝国のトップを務めるのは構わないが、俺達は隣国であるエウレアの代表だ。
新勢力がどういったスタンスで国を運営するかは気になる。
場合によっては暗殺も視野に入れておくべきだろう。
将来の憂いがあるのなら、今のうちに断っておいて損はない。
こういう根回しは大事だ。
放っておいて面倒なことになるパターンがある。
そういったミスで破滅した奴らを過去に何人も見てきた。
参謀という立ち位置に、おそらく召喚者がいることも懸念事項の一つである。
なんとなく不穏な気配がする。
他の召喚者にはあまり感じなかった強い野心が窺えた。
この世界で成り上がってやろうというハングリー精神だ。
そうでなければ、召喚者が率先して後継者争いに関与するとは考えにくい。
「ははは、油断は禁物って感じだな。面白いシチュエーションじゃないか」
何はともあれ、召喚者の情報が入ってきたのは嬉しい。
この広い異世界で特定の個人を探すのは困難だ。
ネレアには感謝しなくてはならない。
彼女と手を組んでおいて正解だった。
やがてゴーレムカーは広大な森の中に突入した。
ここを通り抜けて帝国領土へ侵入するつもりである。
途中、ドワーフの集落に寄り道して、エウレアで集めた手土産を渡した。
貴重な金属や生活用品、便利な魔道具などが主だ。
彼らには世話になったので、これくらいの礼はしなくては。
その後、再会を喜ぶドワーフ達と軽い食事をした。
互いの近況報告をしつつ、美味い料理に舌鼓を打つ。
宿泊を勧められたが、ここは丁寧に断った。
急ぐ旅ではないものの、あまりに移動ペースが遅いと困る。
俺だってドワーフ達と酒を飲んで騒ぎたい。
しかし、今は仕事が優先だ。
大量の地酒と森の素材を押し付けられながら、俺達はゴーレムカーへと戻る。
名残り惜しさを胸に、集落の人々に見送られて出発した。




