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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第二章 運命の出会いと砂漠の陰謀

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〈56〉一緒に検討するのです



「ウーン」

 やはり行き詰まってしまった。

 レオナは、家庭教師の教えを得ていたとは言え、学院に入るまではほぼ引きこもりであった。知識はあれど、市井(しせい)の詳しいことなどは分からない。

「どうした?」

「やはり生鮮品は、保管と運搬が難しいですわね」

「……そうだな、基本はモノと季節にもよるが、荷馬車で二日が限界。それ以外は食糧として消費だ」

「そうですわね。せっかく我が国は農作物が豊富なので、もっと流通網ができれば、食も経済も更に発展できるのではと考えているのですが」

 レオナは、目を上げないままに独りごちる。

 

「基本的には、地産地消ですものね」

「ちさんちしょう?」

「その地域で生産し、その地域で消費することですわ」

「ふむ……それなら……まず、珍しいものや高価なものに目がないのが貴族だ」

「!」

 ぱっと思わず顔を上げるレオナに、ルスラーンは微笑んだ。

「例えば、ダイモン領はイチゴが名産なんだが、王都まで荷馬車で片道五日かかる。さすがに傷むので通常は無理だが、以前フィリベルトが、氷魔法で冷やしながら持ち帰ったことがあってな」


 イチゴは温暖なこの周辺では小粒で酸っぱい、色も黒っぽい野いちごのような品種が流通している。一方涼しい気候の北のダイモンでは大粒で甘く、色も赤い品種を栽培しているのだそうだ。


「王妃殿下に、色もルビーのように綺麗だし、甘くて美味しい、と大変喜ばれたらしい。それ以降その話を聞きつけた貴族連中から引き合いはあるのだが……冷蔵の魔道具は非常に高価だ。仮に使ったとしても、今度は盗賊に盗まれる危険が高い。護衛を付ければその分値段は跳ね上がる。無事に運べたとしても、どうしてもいくつかは傷む。というわけで、あまりに高額にするのもどうかと思って、実売はできていないのだ」

「それ、検討の価値ありますわ!」

「お?」

 レオナのペンが走り出す。

 

「密閉の専用容器を作って、比較的安価な氷を取替えながら進めばあるいは……傷みがあるものは、ジャムやシロップ漬けにしたりして十分使えるはずです。貴族に大人気な甘いイチゴを使ったお菓子って」

「庶民にも手が出そうだな」

「ええ!」

「輸送経費を貴族に持ってもらう形になるわけか」

「左様です。生のイチゴの希少価値を謳うと同時に、庶民にも手が出るよう、傷んだものは加工したお菓子にする。王都で流行れば、地方からも引き合いがありましょう。廃棄の無駄もなくなります」

 思い付いたことを箇条書きにしていく。あとは家で清書するだけだ。

 ルスラーンはすっかり冒険小説を閉じてしまって、レオナがひたすら書いているのを眺めている。

 は! と気付いた時にはもう遅い。

「……すみません、またもやお邪魔してしまいました……」

「いやいや、楽しいぞ。しかも我が領のためになるかもしれん」


 ルスラーンは、少し寂しそうな顔をして遠くを見やる。

「……ダイモンは、危険な場所という印象が根強いからな」

 魔獣(うごめ)く北の森を有する、屈強な者どもの土地。それがダイモンの代名詞。

「訪れるのは冒険者ばかりだ。風の季節も涼しくて自然が豊かな、良いところなのだが」

「是非行ってみたいですわ!」

 前世では、一人でイチゴ狩りに行く勇気はなかったが、イチゴは大好きなレオナである。ダイモン領でイチゴ狩りツアーが実現したら、流行りそうだと感じた。

「お? そうか? それなら是非遊びに来てくれ。親父も喜ぶ」

「はい!」

 レオナは、ヴァジームにももちろん会いたいが、ルスラーンの生まれ育った場所を見てみたかった。

 

 さて、そろそろ切り上げるか? とルスラーンが言う。

「お陰様で良いものが出せそうですわ。ありがたく存じます」

「お役に立てたのなら良かった」

 言いながら、テーブルを片付けるのをさり気なく手伝ってくれるルスラーンに、レオナは感心する。

 

 伯爵家令息で近衛騎士だというのに、気さくで紳士。

 騎士の鍛練だけでも相当大変であるのに、ドラゴンスレイヤーであることもひけらかさず、真面目に任務に取り組んでいる。しかも自領の産業を把握し、懸念も理解している。次期領主としても、しっかりと勉強しているのだろう。



 

 すごい方だな……


 


 今日ここでお話ができて、もっと知ることができて、良かったと、レオナは思った。ヒューゴーの機転に感謝である。

「あーそれでだな、褒美のことなんだが」

「! はいっ」

「……なんでもいいのか?」

「私にできることなら、なんでも」

「ちか…」

「誓います!」

 かぶせて言うと。

 ふはは! と可笑しそうに笑われた。

「うーん。あのな、実はまだ考えていなくてな……」

「そうなのですね」

「ああ。なんでもいいと言われると、かえって思い浮かばんものだな」

 すまない、と申し訳なさそうに言うけれど、別に強制ではないのだ。

「もう少し考えさせてくれ」

 欲しいと思ってくれるだけで、嬉しかった。

「わかりました!」


 ルスラーンは、バスケットを食堂に返すのを手伝ってくれ(重いだろ、と持ってくれた!)、さらにフィリベルトの研究室まで送ってくれた。なんて紳士なのだろう、とレオナは感動する。

 学院内の道を歩きながら、

「次の剣術の講義は、副団長が来るそうだ」

 と教えてくれた。

「え! ジョエル兄様、大丈夫ですの?」

「めちゃくちゃ忙しくて目が死んでる」



 

 ……ゲルゴリラかな。


 


「教えて頂けて良かったですわ。また焼き菓子をお作りしなくては」

「え、もしかしてレオナ嬢の手作りか!?」

「ええ。お恥ずかしながらそうなんですの。ラジ様にはこの間お渡しできたのですが、ジョエル兄様にはまだお渡しできていなくって」

「ラジ様ってラザール副師団長? なるほど……あの時のは……」

「?」

「……あーいや、なんでもない。んん。その」

「ルス様も、宜しければお召し上がりになりますか?」

「ぜひ! ……その、良いのか?」

「もちろんですわ! あ、きっと皆様の分作って来た方が良さそうですわね。たくさん焼いて持って参りますわ!」

「……皆様か……ああ、ありがとう」

「? ルス様?」


 少々ガックリされている? 気のせい?


「た、楽しみだな」

「はい! ジョエル兄様とヒューの手合わせを見るのは久しぶりで、楽しみですわ!」

 気のせいだったようだ。

「……そ、そうだな……はー」


 


 溜息!?

 やはり読書のお邪魔をしてしまったからかな!?

 大変申し訳ないです……

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