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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第二章 運命の出会いと砂漠の陰謀

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〈55〉そして秘密のお茶会なのです



「……あー。えっと、ヒューゴー君は急用ができたとかで。代わりにこれ頼まれた」

「る、ルス様!?」

 

 予想外のことに、レオナはパニくった。

 幸い、表情も姿勢も崩れてはいないが、顔を上げたところでピッタリとその動きを止めていた。

 ルス様!? と頭では理解したものの、心が追い付かないのだ。



 

 頼まれた? ヒューゴー? ヒューゴーはどこ行った?

 やっべマズイ、とにかくちゃんとしないと!

 よし、ここは公爵令嬢モードだ! マジカルパワーオン!

 (ここまで約0.2秒)


 


「まあ、ありがたく存じます。わざわざ申し訳ございませんわ」

 かろうじて笑顔で本を受け取ると、間にメモが挟まれていた。

『フィリ様の研究室におります。ごゆっくり。ヒュー』



 

 ……あんにゃろう。



 

「あー、いや、たまたま通りかかったから。ついでで」

「そうでしたのね。大変助かりました」

 レオナがすかさず立ち上がり、お辞儀をすると

「……あー、どういたしまして……えー、じゃあな……」

 ルスラーンがすぐに立ち去ろうとしたので、レオナは思わず

「あの!」

 と咄嗟に声が出て。

「?」

「その……お茶でもいかがでしょうか?」

 と誘ってみたものの、しまった余計なこと言っちゃった! と瞬時に後悔する。

「お忙しかったら、あの」



 あばばばば

 思わず欲望がダダ漏れにっ

 だめだわ! マジカルパワー不足ー!!

 (相当脳内パニック中)


 

 

「いや。お誘いありがとう……頂こう」

「はい!」


 ルスラーンが誘いに乗ってくれたので、レオナはホッとして、テーブルの上に茶器を広げた。

 そっとポットに手を当てて、おまじないも忘れずに。

「……? それは?」

「ふふ、おまじないですの」

 適温まで温まった紅茶を、カップに注ぐ。水をお湯にするくらいは、できるようになったのである。もうラザールにドヤ顔はさせない。

「おまじない?」

「美味しくなりますようにって! あと……お菓子は大丈夫でしょうか?」

「それは美味しそうだな。菓子も頂こう」

 ルスラーンは、実は好きなんだ、とこめかみをぽりぽりかきながら教えてくれた。

「騎士がそんなの食うなって、良く言われるけどな」

「まあ! 騎士とか関係ないですわ!」

「はは、だよな!」

 

 焼き菓子も並べて、座って一服。

 二人して、ふう、と一息つく。

 

「お、うまい」

「ふふ、良かったです」

 

 爽やかな風が通り過ぎていく。

 静かな時間が心地良い。

 例え何も話さなくても、一緒にいられるだけで嬉しい。

 レオナにとって初めての感覚。


 

「それにしても、こんな場所があるなんて、知らなかったな」

「ええ、お手入れもあまりされていないようでした。今のところ、シャルと私しか知りませんの。あ、さっきヒューも知っちゃいましたけれど」

「うん。そのまま秘密にしておこう」

「ふふ、是非!」


 最初にレオナ達がここを見つけたのは、偶然だった。

 古代魔法の書物が近くの棚にあり、転移魔法の本を探していたら、たまたま光の加減でものすごく古く、分かりづらい扉に気付いた。

 埋め込まれた把手も、よく分からない紋様が刻まれていた。試しにレオナが恐る恐る握ってみたら『カチッ、ガチャン!』と何かが開いた音がしたのだ。

 

 それからは、シャルリーヌと二人で、休み時間にこっそり椅子を拭いたり、落ち葉をよけたりして整えた。まるで秘密基地のようでワクワクした。今やシャルリーヌと二人で頻繁に訪れている、お気に入りの場所だ。


「ところで、ルス様は何の本を探しに?」

 手に何か持っているが、レオナの位置からはタイトルが見えなかった。

「ん? あー……えとな」

 なぜか、ぽりぽりこめかみをかいて恥ずかしがっている。

「笑うなよ?」

「笑いません!」

「誓うか?」

「誓います!」

「はは。……昔っから冒険小説が好きなんだ。ドラゴン倒したり、宝探ししたり」

 ガキっぽいだろ?

 と照れて笑う無邪気な彼が、とても可愛いとレオナは思った。

「全然! 素敵ですわ。本を読むとワクワクドキドキして、自分が主人公になれますものね! 私もよく」

「よく?」

「……笑いませんか?」

「笑わない!」

「誓いますか?」

「誓おう!」

 ふふふ、とお互い笑いあう。

「……恋愛小説が好きで、読んでいるのです。恋が叶う瞬間って文字で読むだけでも素敵で」

「……」

「私にはきっと……」

「きっと?」

 縁のないものだから、という言葉はかろうじて呑み込んで。

「あ!」

「あ?」

「そういえば、ご褒美!」

「ご!? ゲフォ!」

 途端に、盛大にむせるルスラーン。

「あ、ごめんなさい! 私ったら!」

 慌ててレオナが背中をさすろうとすると、手で制されてしまった。

「だ、大丈夫……ゴホッ。あー、えーと、あれは」

「あれは?」

「あー、親父が勝手に言ったものだし、その」

 どうやら、社交辞令というやつを、真に受けてしまったようだ。

「やっぱりいらないですよね、私からなんて」

 ショボンとしてしまうレオナを見て、ルスラーンは頭をクシャッとかいた。

「……いや、いる。いるんだが」

「いるんだが?」

「あ? ちょっと待て、その前に」

「前に?」

「……それ、やらんで良いのか? 課題だろ?」

 ルスラーンの目の先には、テーブルに広げた教科書と、真っ白な紙が数枚。

「は! 来週提出ですの……」

「はは。俺はもう今日は休みだ。帰って本でも読もうと思っていたんだが、せっかくだし、ここで読んでいても?」

 見せてくれた表紙には『レッドドラゴンと時の勇者』と書かれていた。ものすごく面白そう! とレオナは目を輝かせた。そしてブラックドラゴンを倒したんなら、レッドも倒せるんじゃあ……リアル勇者が目の前にいるう〜と少し思考が飛んでしまったのは仕方がないだろう。

「まあ、なんて素敵なご本! どんなお話か気になってしまいますわ。後で是非教えて下さいませね? 私も頑張って終わらせますわ!」

「ああ」

 そして彼のカップに熱々のお代わりを注ぐ。バスケットから残りの焼き菓子を出して、ささっと補充した。

 さて、早くやっつけてしまおう! とレオナは気合いを入れた。


 


※ ※ ※


 


 課題に真剣に取り組む姿勢が微笑ましい、と本をぱらりぱらりめくりながら盗み見る。手ずから茶を淹れ、何も言わずともお代わりを注ぎ、菓子を勧めたり気を遣ったり。

 

 貴族の令嬢というのは、全てメイド任せで、扇を広げて人の悪口ばかり言っては、ふんぞり返っているものではなかったか。

 公爵令嬢という、貴族社会の上位に君臨するはずの女性の、甲斐甲斐しさと謙虚さに感動すら覚える。しかもこの子供っぽい本を、笑うどころか興味を持ってもらえるとは。お世辞でも嬉しいが、彼女の美しい赤い瞳が嘘を言っていないのは明らかだ。

 

 実はご褒美はまだ決めていない。さらに、ヒューゴーと仲睦まじいのを見てしまって、躊躇している自分がいる。



 さてどうしたものか、と文字の上を目が上滑りしていく――



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― 新着の感想 ―
[良い点]  ぜ、全体的に……いいです…… [一言]  キュン死の概念を理解できました……良き良き!
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