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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第一章 世界のはじまりと仲間たち

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【累計30000pv達成記念話】ラザール副師団長の一日

 このお話に目を止めて下さり、本当にありがとうございます。

 とっても嬉しいことに、小説家になろう様にて公開から1ヶ月と少しで累計30000pvを達成致しました!

 このお話はその記念に書き下ろしたものですので、もちろん読み飛ばして頂いても全く本編に影響ございません。

 (累計10000pv記念に書き下ろしたジョエル副団長の、ラザール副師団長バージョンになります)

 

 引き続き『薔薇魔女』をお楽しみ頂きたく、宜しくお願い致しますm(_ _)m





 ラザール・アーレンツ。

 アーレンツ伯爵家の一人息子で、王国魔術師団副師団長。

 現在師団長は空位のため、実質王国内魔術師のトップに君臨している。魔力量は最高評価で、稀代の二属性持ち、かつドラゴンスレイヤー。怜悧冷徹、合理主義、実力主義のため誤解されがちだが、ジョエル副団長と仲が良いことから、実は面倒見が良いことはバレつつある。


「おはようございます、副師団長」

「おはよう、ブリジット」

 魔術師団は師団長室以外、個室はない。

 幹部五人がコの字に机を並べて、同じ部屋にいる。

 そのコの字の真ん中がラザール。

 北側に第一魔術師団(攻撃魔法主体)の第一師団長と、第一副長。

 南側に第二魔術師団(補助魔法主体)の第二師団長と、第二副長が座っている。ブリジットは、第二副長だ。

「お早いですね」

「ブリジットもな。ちょっと朝議の前に野暮用だ。行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 何も指示をせずとも、ブリジットは早速ラザールの机の上の仕分けた後の書類をまとめて、関係部署に持って行ってくれるようだ。

「……助かる」

 扉を出ながら声をかけると、ブリジットは破顔した。

 ――以前に、最近ちゃんと声を掛けて下さるようになりましたね、何かあったのですか? と彼女に尋ねられたが、理由が思い当たらなかった。


 廊下をスタスタ歩いていると、早朝のせいかほぼ人とは会わず、騎士団副団長室まで来られた。特に騎士団連中は粗暴なくせにラザールの顔を見るなりビクっとする者が多いので(飲み会であまりにうるさかったので(はりつけ)にしてやろうか? と凄んだのに尾ヒレが付きまくって、噂になっている。小心者どもめ)、煩わしくなくてホッとする。

 

 王国騎士団副団長のジョエルとは、魔術師団に入ってからの付き合いだ。

 年齢も近く同じ伯爵家ということもあり、学院はもちろん夜会などでも顔を合わすことは多かったが、直接話すようになったのは意外にも入団後だった。

 当初は最強弓士の名声を轟かせ、常に周囲を女性に囲まれた胡散臭い奴、と思っていたが、軽い口調と裏腹に正義感と激情を秘めた男だと分かってから、ようやく踏み込めるようになった。


 その副団長室から、間抜けな鼻歌、というにはやや大きすぎる歌声が聴こえてくる。

 


 ♪仕事は地味〜ぢみぢみ〜

 ♪レオナのお茶〜が飲みたいなぁ〜ん

 ♪クッキークッキー、食べたぁーいなー



 またゲルゴリラにやらかされでもしたか、と溜息を一つ吐いて、ノックなしに勝手に扉を開ける。

「なんだその間の抜けた歌は」

 苦笑しながら問うと『麗しの蒼弓』の名はどこへやら、頬にぐしゃりと書類を貼り付けて、机にうつ伏せになっていたボサボサ頭の男が、ゆるゆると顔を上げて言う。


「どしたのラジ」

「……朝議の前に少し話したくてな」

「ほぉーん?」

「レオナ嬢から、誕生日パーティの招待状が届いたのだが」

「うん。僕もー」

「……この、ドレスコードとやらは、なんだ?」

 


 ぶふっ!

 


 いきなり吹かれた。心外である。


 

「なんだよー、何かあったのかと思ったよー」


 

 何かとはなんだ。


 

「いやその、気になってな」


 

 ジョエルはあの説明できちんと把握できたのか? 流行りものは、良く分からないのだ。


 

「書いてある通りだよー?」

 とあっさり返された。

「むう……」


 

 腑に落ちない。一体何を用意すれば良いのだ?


 

「僕はタイとハンカチでするつもりー」

「……なるほど」

 その色を使用した何かを、なんでも良いから身につけて来い、ということか。

「真似しても良いから、これ手伝ってよー」

 バサバサと書類の束を振るが、端から貼り付けられたメモが、床に落ちて来ている。

「はー、またか」

 それが崩れると、ますます分類できなくなるぞ? と思うが、実は粗雑な男だ、言っても無駄だろう。

「みんなさー、好き勝手しすぎじゃなーい?」

「お前がちゃんと指示しないからだろう」

「ブリジットさんを、僕にくださいっ!」

「やらん」

 優秀な部下を手放す上司は、いないと思うのだが。

「それはいつもの僕のやつー」

「ふっ」

「レオナもやらんからねー?」

 最近すっかり決まったやり取りになってしまったことを、ラザール自身もおかしく思っている。もう本心では無理だと分かっているのだが、楽しんでいるので止めるつもりはない。――本当に来てくれれば、もちろん嬉しいのだが。

「分かった分かった。朝議が終わったらな、少し手伝ってやる」

「やったあ!」



 朝議(国王、第一王子、宰相、騎士団長、騎士団副団長、魔術師団副師団長、財務大臣、外交大臣、法務大臣が揃う朝の定例会議)では騎士団長ゲルルフが、辺境騎士団との交流試合で、開幕に自身と英雄ヴァジームとの模擬戦をやって、どちらが勝つか賭けさせたら面白いと言い出して、氷の宰相ことベルナルドが『王国の記念行事に賭け事だと!』とブチ切れ、宥めるのに苦労した。

 

「……で、誰が物理障壁を強化するんです?」

 と言ったらゲルゴリラは黙った。苦手意識を持たれていると、こういう時便利である。

 

 復興祭に向けて、また追加予算を通したいと国王が言えば、財務大臣が有名劇団を招くのに接待や宿泊経費で、既に膨大な予算を使ってしまっている! と泣き出した。法務大臣が若干蔑んだ目で国王を見たら、黙ってくれた。こちらも便利だ。


 ジョエルは、うつらうつらしていた。



「おかえりなさーい」

 ジョエルの書類整理に約束通り少し付き合ってやってから、魔術師団執務室に戻ると、第一魔術師団副長のトーマスが軽やかな声で言う。

「……ただいま」

 とはいえ顔は全然軽やかではない。

 じっと見ていると、

「聞いてくださいよ〜副師団長〜」

 と勝手に泣きついてきた。

 室内を見回すと全員不在。

 さては逃げたな……とラザールが思っていると

「僕もう自信ないですう〜〜わーん!」

 本当に泣き出した。


 話を聞くと、どうやら攻撃魔法実習で一生懸命教えているが、一部男子学生から舐められていると。『本気の魔法見たいですう!』という女子学生のリクエストには『副師団長に怒られちゃうのでー!』と当たり障りなく逃げたのだが、そうすると『あいつ本当は出来ないんだぜ』『下っ端が教えにくんなよな』と聞こえよがしに言われるらしい。


 ラザールは、トーマスに申し訳ないと素直に思った。

 副師団長の自分が自ら教えることは、当初は驚かれたものの貴族の子息達だ、今やさも当然の待遇だと思っていることだろう。

 トーマスは優秀な第一魔術師団の第一副長であるが、その態度の柔らかさと若さで下に見られがちだ。いつもは騎士団との緩衝材になる貴重な人材なのだが、学生相手に見下されるのは辛いだろう。

 

「話してくれてありがとう。それはなかなか辛いな」

「!!」

 トーマスの涙がピタリと止まった。

「……なんだ、そんな顔をして」

「いやだって副師団長、前だったらめんどくさそーに溜息ついて終わりだったと……あっ」

 しまった、という顔をするが遅い。

 まあ、正直なところも彼の良いところだ。

 実際ラザールは、表面上笑っていても陰で悪口を言う者達と、これでもかと関わってきており、食傷気味なのだ。

「そうかもしれんな」

 苦笑が漏れる。

「……なにかありました? 美味しいもの食べたとか!?」

「なにもない」

 えー、と唇を尖らせるトーマスは、すっかり元気だ。

「その問題を解決するのは、お前自身だ。そうだな、そいつらに落とし穴でも掘ってやれ」

 ニヤリとしてやる。

「!! 結構いたずらっ子なんですねえ!」

「ジョエルのせいだな」

「なるほど!! いってきます!!」

 こんな時、本当に便利な存在だ。



 はたしてその日の午後すぐに、攻撃魔法実習でまんまと落とし穴に落とされた男子学生の家(伯爵家二人)から、ラザール宛に抗議が届いた。

「受講態度が悪い者は、遠慮なく叩き出すと最初に言ってある。文句があるなら直接言いに来い」

 とすぐに返事を出したが、それ以降音沙汰がない。

「来ないな。ちゃんと説明しようと思ったんだが」

 独り言を呟いたら

「そりゃ来ませんて」

 第二師団長のブランドンが笑う。

「なぜだ?」

 ブリジットが

「まあ、私のせいでもありますけどね」

 と苦笑い。

「ん?」

「ああいう輩は、かっこつけたいんです。だから、わざと女子学生の前で、落ちた子達に『えっ、かっこわる』って言いました」

「わー! えげつないっす! ブリジットさん!」

「トーマスうるさい」

「コリンさん酷いー! コリンさんもたまには講義してくださいよ!」

 第一師団長のコリンは、最年長で二児の父であるから、学生の扱いも長けていると思われているが、その実逆である。

「……めんどい」

 研究にしか興味のないこの男が結婚できたのが、王国魔術師団最大の謎と言われている。ラザール以上に人当たりが悪い、とも。まともに話せるのは、ここにいる幹部だけだ。

「ますますややこしくする気か?」

 ラザールが言うと、トーマスの目が泳いだ。分かってはいるらしい。

 

「それはそうと副師団長、レオナ嬢の杖のことなのですが」

 ブリジットが、機転を利かせて空気と話題を変えてくれた。さすが優秀な部下である。

「ああ、支給杖では無理だろうな」

「はい。確か保管庫に……」



 ラザールは、今度レオナに疲労回復クッキーをもらったら、ここにいる皆で分けよう、と思ったのだった。

 


レオナいわく、お茶目な副師団長の一日でした。

本編は夕方更新致します!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読ませていただきました! レオナの恋(?)が始まったか……といった感じですね。 不器用なルスラーンとのこれからの関係の変化、楽しみです。 [一言] また続きを読みに来ます。 これか…
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