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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第一章 世界のはじまりと仲間たち

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〈49〉勝利より勝るものがあるのです 前


 

 人数が多くて長引くのではと思ったが、意外とさくさく試合は進んで行っている。

 交流試合とはいえ、対戦はランダムでクジ引き。

 単純に強い奴は誰だ! 俺だ俺だ! なんだそうだ。そしてあわよくばの記念出場も居たりして。



 

 ――あ、また終わった。

 


 

「さすがに最初の方は退屈だのー。わし寝そう」

「ヴァジーム様ったら」

「ジーマちゃんって呼んで欲しいのーレオナちゃん」

「……」

「あ、フィリ坊冷たいの出てきとるぞ。背中寒い。いいじゃないか少しくらいー」

「うふふふふ。ではジーマ様で」

 とレオナが言うと

「ジーマちゃんって可愛いですね!」

 とシャルリーヌ。

 シャルちゃんの方が可愛いぞ! とニコニコしている。フィリベルトは溜息を深くしながら、

「……後から父が来ますからね?」

 と忠告した。

「来んでいいのに。怒られたら、わし、拗ねる」



 

 ほんとに雷槍の悪魔なのかな?



 

※ ※ ※



 

「本当に引退間近なんすか?」

 ヒューゴーは、ヴァジームの気配と所作に、恐れ(おのの)いていた。タイマンではとてもじゃないが、勝てそうにない。

「……ええ、絶頂期は歩くだけで全てを滅ぼす、と言われていました。悪魔たる所以ですね」

 実は元パーティメンバーのルーカスである。公の場では面倒が起きるので、決して親しく見せないが。

「……恐ろしすぎます」

 マリーもまた、戦慄していた。

 試しに視線を飛ばしたら『なんだメイドちゃんか。勘違いするから、もっと優しく見て欲しいわい』と言われた。レオナお嬢様は、その方のご子息に淡い恋心を抱き始めていらっしゃる。はたしてどのような……と不安と興味がつきないのであった。




 ※ ※ ※




「今日、雷槍の悪魔が観戦してるらしいぞ!」

「しかもその隣に、もの凄い美人と、その後ろにもの凄く可愛いご令嬢が座ってるって!」

「「「「マジか!」」」」

「「「「…(たぎ)る!!」」」」

「「「「(みなぎ)るっ!!」」」」

「「「「うおおお」」」」

 控室のテンションが異様で、ルスラーンは独り(あの親父ほんとろくな事しねーなー)と溜息をついていた。



 

 ※ ※ ※


 


 既に参加者は三分の一以下になっていた。

 

「そろそろ見応えも出てくるかのう」

「あの、ルス様は?」

「生意気に三回戦からじゃよ」

「ルスラーンは、前回準優勝だからね。最年少記録」

「「!!」」

 フィリベルトの補足に、レオナとシャルリーヌは二人で顔を見合わせて驚いた。

「周りが弱すぎなだけだわい。フィリ坊出たらどうだ?」

「私は出る気ありません」

「もったいないのう。んじゃ、その後ろの小生意気そうな小僧はどうだ?」

 ヒューゴーがビクリとする。

「彼はレオナの護衛です」

「つまらんのー」

 

 ルスラーン対ヒューゴーになったら、どちらを応援すべきなのだろうか、と思わず考えたレオナだが

「あ、あれが前回の優勝者だよ」

 というフィリベルトの言葉に顔を上げる。

「うちの最強、ソゾンよ」

 ということは辺境騎士団所属。

 長い茶髪を後ろで三つ編みにしていて、シンプルな銀のプレートアーマーに、銀の素晴らしい宝飾が施された長柄の戦斧。見た目からして強そうだ。 

 一方の相手は、肩に大きなトゲが付いた黒いフルアーマーの重装甲戦士。体術を使うみたいだね、とフィリベルトの見立て。

「始め!」

 ジョエルの掛け声で、一気に間合いを詰める重装甲戦士。

「ソゾン相手に体術はちいとキツいのう」

 ヴァジームの一言。

 あんなに大きくて強そうなのに? と思わず聞いたレオナに

「殴るには、戦斧の間合いに入らないといけないからね」

 シンプルなフィリベルトの解説が返ってきた。


 


 というか、この実況贅沢すぎじゃないかな?



 

「わ! 避けました! すごい!」

 シャルリーヌがはしゃいでいる。会場もどよめく。

 ソゾンが戦斧を振ると、ぶおんっ! と不吉な音がこちらまで鳴り響いた。あんなの喰らったらどうなるの!? と思わず背筋がぞわりとする。

 すると、前触れもなく相手のフルフェイスの鉄兜がキィン、と飛んでいき、離れた地面にどしゃっと落ちた。

 

 ……まいった、と合図する重装甲戦士。


 一瞬の静寂の後、どおっと大歓声。

 ソーゾーン! ソーゾーン!

 笑顔で手を振り、観客に応えるソゾン。

 

「つ、つよいですね」

 もうそれしか言葉が出てこなかった。

「ぜーんぜん本気出しとらんのう」



 

 マジですか!


 


「大丈夫だよレオナ。ルスも強いよ」

「ご褒美楽しみにしとるぞ」



 

 イタズラっぽく笑ってるけど、絶対嘘ね?


 


「……ジーマ様?」

 途端にびくっとするヴァジーム。

「やっぱりフィリ坊の妹だのう。冷たいの出とるぞ。……いやすまんかった。でも張り切ってはいると思う!」


 


 からかわないで!

 えーん!



 

「お、ほら出てきたぞ!」



 

 誤魔化したな!


 


 ルスラーンは、チェーンメイルの上から黒鋼のショルダーアーマーに前垂れ、ニーハイブーツ、そしてその背中には真っ黒なロングマントに両手剣。遠目からでも背の高さが分かる。

 会場もざわつく。

 雷槍の……とか準優勝……とか聞こえてくる。

「あれが漆黒のクレイモア。黒鋼の魔石を彫金して作った、希少な武器だよ」

「ブラックドラゴンのな。全属性に耐性があってのう。物理じゃないと倒せん魔術師泣かせな上に、麻痺と毒とダークブレスのおまけ付き。よう勝ったものよの」


 


 てことはつまり、我が国の残り二人のドラゴンスレイヤーって……



 

「ええ。だからあれに切られると」

「痺れる。その代わりだいーぶ魔力を喰う得物よ。重いし、わしはやだ」

「雷槍も似たようなものかと」

 

 ポカーンである。

 

 (ねえレオナ……)

 シャルリーヌが、斜め後ろからヒソヒソ聞いてくる。

 (か、可愛いって?)


 

 ちょっと自信がなくなってきた!

 


「始め!」

 相手は煌びやかなゴールドメイルに、赤いマントの金髪の騎士で、観客席の女性達がキャーキャー言っていた。確かに甘いマスク。いかにも騎士団、な感じ。

「ありゃーつまらんのー」

「準備運動にもなりませんね」

 相手がすらりと片手剣を抜き、赤い盾を構えても、ルスラーンは微動だにしない。両手剣は背中に背負ったまま。

「はあっ!」

 斬りかかってくる相手に対し。


 ゴッ!


「グハッ」

 ………………バサリ。


 シンプルに、腹を一撃殴るのみ。

 金髪のナルシストが、あっという間に気絶してしまった。鎧越しにも関わらず、だ。

 シーンとなる会場を、スタスタと後にするルスラーンの姿が消えてようやく。

 

 うおおおおぉ!

 キャー! イヤー!

 

 と歓声? が包んだ。

 

 (あれが、可愛い??)

 (う、うん、昨日の夜はね!)



 

 幻だったのかな??

 



 その後もルスラーンは順当に勝ち上がり、あっという間にいよいよ準決勝。実質決勝のソゾン戦だ。

 なんと、これに勝つと次の決勝はイーヴォ(ハゲ筋肉)が相手。彼が勝つ度、王族席でゲルゴリラがウホウホ言っていた。ここは動物園かな? と密かに思ったレオナである。

 

「今年はつまらんのう。鍛え直さにゃ」

「まだまだ引退できませんね」

「……まあ、平和なことは良いことだがの」

「十年も経てば、ですね」

 ヴァジームとフィリベルトがしみじみ話していると

「ふう、間に合ったかな?」

「お父様!」

 滑り込んで、フィリベルトの隣にどかりと座るベルナルド。レオナとシャルリーヌが立ち上がって、挨拶をしようとしたが、手で制された。試合が始まるからだ。

「間に合いましたよ」

「むしろこの試合だけ見れば十分だわい」

「はあ、なかなか文官が離してくれなくてね……でもそれなら良かった」

 祭りの間だって政務はあるのだ。国王はあそこでキャッキャ言っているが。


「では辺境騎士団所属ソゾン! 第二騎士団所属ルスラーン!」

 ある程度勝ち上がると、所属と名前を言ってもらえるようだ。それで観客達にも名前が浸透するのだと納得する。

 

「準決勝、――始め!」

 

 会場の音は静かだが、熱気に溢れていた。

 ルスラーンが初めて武器を構えた。会場全体が固唾を飲んで見守る。自然と握った拳に力が入る。

 ソゾンは戦斧、ルス様は両手剣で、二人とも両手武器だ。


 ――先に動いたのはソゾン。一気に間を詰め、戦斧の遠心力を活かした速い軌道で攻める。一方のルスラーンは、刀身でそれをいなしながら機を窺う。

 


 ガンッ! キィン! ガキィン!

 鈍い金属音が鳴り響く。

 鉄靴が砂地を蹴って走る音が、徐々に速くなっていく。

 ザ、ザザザ

 ガンッ!

 近づいて。

 ガキィン!

 ザザッ

 離れて。

 翻るマント、踊る髪に砂埃。

 男達の、一分の隙もない闘いに息を飲む会場は、水を打ったかのように静かだ。


 

 一進一退に思われた。

 ……が、ふとルスラーンの周りの空気が歪んだ。

 

「出しよるか」

 とヴァジーム。

「今回は出し惜しみなしですね」

 とフィリベルト。

「前回の反省だな」

 とベルナルド。

 

 彼の周りに赤い蜃気楼が立ち上ったかと思うと、姿が二重三重に揺らいで見えた。

「……あ、あれは?」

「ニーズヘッグ」

 レオナの問いに、簡潔に答えるフィリベルト。

 ニーズヘッグとはなんなのだろう。神話に出てくる竜の名前だったと思うのだが、とレオナが思考を飛ばしていると、

「まあ見とけばわかる」

 嬉しそうに、ヴァジームが笑んだ。


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