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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第一章 世界のはじまりと仲間たち

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〈37〉無事休めるようです?


 

 翌日。

 攻撃魔法実習での発表は、なんとか無事に終えることができた。

 

 ラザールから追加課題として『連弾』を出されていたが――避けられた時の保険はいつだって必要だ、(まと)は動くものだぞ? と。確かに――これがなかなか難しく、後期に継続して制御訓練することになった。

 

 それから、もちろんジンライのことはレオナから話しておいた。

「すまなかった。自主性に任せすぎたな……後期から何とかしよう」

 と言ってくれたので、とりあえずは安心だろう。


 ちなみにユリエは、ボニーというペアの子と『枯れた花束を癒して花びらを撒く』というロマンティックな合わせ技を披露して、学生達をザワつかせていた。

 

 癒すというのは聖属性でなかったか? というかそれは攻撃ではないのでは? と、色々ツッコミどころがありすぎたわけだが――とにかくラザールが難しい顔をしていた。


 一方の王国史では、エドガーの演説が凄かったそうだ。

 前回はユリエと一緒に欠席したにも関わらず、これからの王国を担う諸君、今後も栄えていくために力を貸してくれ! とかなんとか。

 シャルリーヌ曰く『中身がなさすぎて鳥肌が立った』らしい。

 

「それでも先生含めて、うっとりと拍手するのよ。不思議だわ」

 

 食堂で軽食をつまむことにしたレオナとシャルリーヌは、中庭を眺めながらカウンターに並んで座り、一息ついていた。

 余計な心配をかけたくないので、レオナはあえて、エドガーが誕生日パーティに押しかけて来たことは、一切話していない。シャルリーヌを巻き込みたくはなかった。

 

「王族には、敬意を払うものだもの」

 レオナは公爵家令嬢らしく、無難に回答しておく。

「……そうね」

 シャルリーヌは、何かありそうだと感じるものの、流してくれるようだ。賢くて、気遣い屋さんだなあ、とレオナはあらためて感心する。

 

「ところでフィリ様は?」

「また籠っていらっしゃるわ。復興祭の準備が大詰めなんですって。だからジンのことは、まだちゃんと話せていないの」

「それは大変だわ。私にできることがあったら言ってね」

 

 既にシャルがチャキチャキと、ジンライの遅れ分を把握してくれ、後期から追いつけるような計画を、休みの間作ってくれることになっている。

 レオナは彼の環境を整えるためにも、フィリベルトに相談しに行こうと思っているが、もちろんシャルリーヌにも一緒に来てもらうつもりだ。本当に頼りになる親友である。

 

「ふふ、ありがとう。ねえシャル」

「うん?」

「お休みに入ったら、私も復興祭の準備で――あまり会えないかもしれないわ」

「……うん、そうね。デビュタントだもんね」

「でもお手紙するから、できるだけお茶しましょうね」

「うん! ドレス、でき上がったら絶対見せてよね!」

「ええ。もちろん!」

「楽しみにしてる」

 などと女子トークしていると、

「おお、ここに居たのか」

「こんにちは」

 ゼルとテオだ。

 クラスは違うのに、すっかりコンビだなぁとレオナが思っていると

「もうすっかり二人仲良しね」

 シャルリーヌが笑って言った。

 

 すると、別のテーブルの男子学生達が、聞こえよがしにヒソヒソ話し始めた。


 

「なんであんなやつが、ハイクラスの人間といるんだ?」

「貧乏子爵のくせに」

「どうせ媚びてるんだろ」

 


 まさか、ジンライに手を出しているのもこの人達? とレオナが心配してテオを見ると

「違うよ。気にしないで」

 あっけらかんと言う。ゼルも

「話しかける勇気もないくせに、みみっちい奴らだ。気にするな」

 とデッカイ声で。


 

 ――これってゼルなりのフォローなのかな?

 すっかり親分だね!



「ちょっとゼルさん!」

「分かったわ。ええと……薔薇魔女は、気に入らない奴らを消すんでしたわね?」

 レオナは頑張って、後ろの男子学生達に『ニヤー』としてみた。なぜか真っ赤になって慌てている。



 ――はて、変顔になっちゃったかな?

 脅したつもりなんだけど。



「レオナさんたら……」

「安定の無自覚」

「やはり良いな」


 

 ――なによ!


 

 ぷうっと頬が膨らんでしまう。

 

「はは! 俺はもう今日で前期の講義が終わってな。挨拶したかったのだ。また休み明けにな、レオナ嬢、シャル嬢」

 ゼルは結局、経済学のレポートをどうしたのだろう。なんだか怖くて、この場の全員が聞けなかった。

「僕もなんだ。また休み明けにね……ジンのことは大丈夫」

 最後の部分をこそりと教えてくれたテオに、破顔するレオナ。

「ええ、ありがとう! またね! ごきげんよう」

「ごきげんよう!」

 入学前はすごく不安だったが、仲良くしてくれる友達も、頼りになる先生もできたことに、レオナは心の中で感謝した。


 


※ ※ ※


 


 その頃、ローゼン公爵邸に突然やってきた王国騎士団副団長は、ある侍従を中庭に引きずり出し剣を構え、一方的な攻撃を開始した。

 公爵家の人間にとって、これは日常茶飯事な光景であり、広い中庭に例え剣戟(けんげき)音が響き渡ったとしても、執事のルーカスから指示がなければ誰も気にしない。


「そんだけー? なめてんのー?」

 


 ――うっせえ、この戦闘狂が!

 


 毒づきながらも、侍従は容赦ないその剣筋を、紙一重で避けるしかない。前髪がぱらりと散った。

 

「覇気でうちの近衛黙らせたらしいじゃーん。そうは思えないなー?」


 

 ――そっちこそ、あんな雑魚寄越すな。

 おい、飛び道具は卑怯じゃねーか。肩かすったぞ。


 

「倒れたら『おにーちゃん』て呼ばすからねー?」


 

 ――クッソがああああド変態野郎っ!


 

「あーあ。及第点かなー?」

 

 足がもつれるが、辛うじて立っている侍従に、副団長はニヤけた顔を向けるのみだ。小指すら動かないほどの疲弊ではあるが、膝を突かないとは成長したなと思いつつ、それを告げるようなことはしない。



 ――おい、一体誰だ『麗しの蒼弓』なんてかっこつけた通り名付けた奴は! 剣もえげつねえぞ。蒼い悪魔だ。

 


「言っとくけど、全盛期のヴァジーム卿の足元にも及ばないからねー、僕」

「ば、け、もの」

「そー。あれに比べたら、ゲルゴリラなんてお子ちゃまだよねえ」

「……はぁ、はぁ、じゃあなんで、あいつが、団長、なんだよ」

「たまたま?」


 

 ――ったまたまかよ!

 


「うちの王様そういうの疎いからねー」


 

 ――適当すぎんだろ!


 

 汗を乱暴に袖で拭い、差し出された水を飲む侍従に

「ねえヒューゴー」

 麗しの蒼弓がうっとりと言った。

「……弟ができるかもよ?」


 

 ――おとうと?


 

「んぐんぐ、ぷあぁ、はあ。ついに結婚したのか?」


 

 ――婚約者がいるとは聞いていないが。

 こいつのことだから、知らない間に子供の一人や十人……


 

「え! それって! 僕をお兄ちゃんだと思ってるってことだよね! ね! ね!」

 


 ――あーうぜえ。やらかした!

 


「うれしー! でも違うよー」


 ふふ、と微笑む副団長。

 パレードでは、これで何人か女が倒れるらしい。中身を知らないって幸せだな、とヒューゴーは半目になる。


「テオのことだよー」

「……ああ」


 

 ――予想通りだった? と小首を傾げてるけど可愛くねえよ。なんとなく予想は、していたけどな。


 

「あいつは優しすぎるぞ」

「うん。だから頼むよー」

 


 ――背負わせる気だな。

 自分の命を投げ出したから。

 


「はーい、じゃあ僕のお仕置おしまーい。ルーカスー」



 ――うっそだろ!? 休ませろ!

 


「……敵は待ってはくれませんよ?」


 

 ――クソジジイ! 引退したいとか嘘だろ!


 

 熟練された容赦ない拳を、受ける寸前バックステップで凌いだ。

「さあ、まいりますよ」



 悪夢だな、とヒューゴーは諦めた。

 

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 お読み頂きありがとうございました。


 2023/1/16改稿

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