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【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです  作者: 卯崎瑛珠
第一章 世界のはじまりと仲間たち

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〈22〉乙女心は複雑なのです



 

 悲しいことに、テオはボドワン家にとって『要らない子』なのだそうだ。

 どこかに養子に出すか、婿で貰ってくれないかと、既に方々に打診をされている。

 

 子爵家三番目の男子は、家ではただの穀潰(ごくつぶ)し扱い。

 

 両親からは存在を無視され、メイドが朝から晩まで、簡素な食事の世話をしてくれるのみで育った。

 それでも、自分にできることは何かないかと、幸いすぐ上の兄とは仲が良かったので、読み書きを教えてもらい、家の書斎の本を勝手に読み漁った。

 何をどう頑張っても、家での自分の価値は変わらないということは、頭では分かっている。

 が、心のどこかで、ちゃんと学院を卒業できたら――少しは認めてもらえないだろうかと希望を持っていた。簡易測定で魔力があることも分かって、心の底から安心したという。


 ところがいざ入学してみると、周りと比べて自分にはそれほど能力も魔力もないことが分かった。

 例え卒業できたとしても、大した結果にはならないだろうと落ち込んでいた。


 そうしたら、薔薇魔女の噂が耳に入ってきた。

 

 ――公爵令嬢なのにものすごい悪女で、権力を振りかざしていて横暴。伝説の通りなら、気に食わない奴を密かに魔法で殺しているのかも、というような非現実的かつ根拠のないもので、さすがに馬鹿馬鹿しくて信じてはいなかった。

 

 たまたま攻撃魔法実習で、噂の薔薇魔女本人と一緒になった。実際に自分の目で見て、もしも利用できるなら利用してみようと浅はかに考えたのが最初のきっかけ。

 もしかしたらコネになるかもとか、薔薇魔女と組めたら、魔力の少ない自分でも課題が楽にこなせるかもとか。

 

 そんな軽い打算の気持ちで観察していたら、誰に何を言われても毅然(きぜん)と独り立っているのを見て、単純に凄い、と思ったのだそうだ。そして気づいたらペアを申し込んでいた、と。


「がっかりだよね。ごめんね」

「いいえ。正直に言ってくれて嬉しいわ」


 レオナは、噂については知っていたし、気にしないようにしていた。

 反応したら負けだから、ご勝手にどうぞの精神だ。テオが気にすることはない。

 打算的なことも、貴族なら皆大なり小なり抱えていることだ。公爵令嬢歴十四年。多少は分かっているつもりである。


「あのね、テオ」



 

 ――私だって、人間なんだよ。

 私の気持ちも、正直に伝えるね。


 


「私だって、色々言われているのは知っているのよ。だから、誰とでも組むわけではないわ」

 

 テオがハッとする。

 

「あなたは、とっても礼儀正しかった。そして私に何も求めなかった。むしろほぼ平民で良いの? と聞いたわね」



 

 ――気付いて欲しい。


 


「それは、差し出せる物はないけれど、という意味よね。だから私はあなたを選んだのよ。だって私もあなたに何も求めないことを確認してくれたんでしょう? 誇りを持って欲しいわ」

「!」

「テオだからよ。あなたのその優しさや、公平な目や、礼儀正しさ、謙虚さ」

 

 ギュッと彼の両手を握る。

 

「誇って。あなたは、私の相棒なんだから」

「レオナさん……」

 

 長い前髪で見えないけれど、きっと彼の目は潤んでいる。

 

「それに、あのゼル様に真っ向から向き合えるのはテオだけよ?」

「! ……あっは!」



 

 ――あ、笑った! 両手を握ったままだから、彼の笑顔をやっとまともに見られた。嬉しい! 可愛い!



 

「あとね、ジョエル兄様が褒めたでしょう? 剣術訓練で」

「うん?」

「ジョエル兄様はね、戦闘に関してはとっても厳しいお方なのよ。弟弟子のヒューゴーという私の侍従が、ある程度育つまで、まともに口を聞いてもらえなかったぐらいに」

「えっ」

 

 それこそヒューゴーは、しょっちゅう血反吐(ちへど)を吐いて地面に転がされていた。よく死ななかったものだ、と未だにレオナは思っている。

 

「そんな我が王国の誇る騎士団副団長様が『良く動けていた、筋は悪くない』って褒めたのよ?」

「……よく覚えてるね」

「それくらい衝撃だったの」

 

 そう、滅多にないのだ。あのジョエルが初見の戦闘で人を褒めるなんてことは。

 

「ヒューゴーは未だにジョエル兄様には会いたがらないくらいなのよ?」

「…………」

「ね。今すぐには難しいと思うけれど、少しずつでも自信を持って欲しいわ」

「……うん。分かった。レオナさん、ありがとう」

「いいえ。こちらこそ。私、人見知りだから、声を掛けてもらえて本当に嬉しかったの。こちらこそありがとう」

「ひと……みしり?」

「ええ」

「すごく堂々としてるのに?」

「内心いつもブルブルしているわ。皆の前では薔薇魔女を演じているのよ?」

「くは!」


 


 ――あ、また笑った! 良かった。可愛い!



 

「さ、スッキリしたわね。課題を考えましょう!」

「うん。これからもよろしくね、レオナさん」

 

 テオのそういうところが、本当にすごいとレオナは尊敬している。ゼルが気を許すわけだ、と納得なのである。

 

「こちらこそ。よろしくね、テオ」

 ぎゅ、と握手をして、微笑み合った。


 

 講義の終わりに、

「レオナさんってなんかものすごーく年上に感じることが結構あるよ。公爵令嬢って大変なんだね」

 と言われたレオナは。



 

 ――ぐう、事実。

 複雑!



 思わず白目になった――



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お読み頂きありがとうございました。

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2023/1/13改稿

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