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終末の竜と異世界の大怪鳥の話③

 地上まで超高速で牽引されてきたカリストロスは、地面から2メートルくらいまで降りた時点で剣を振り払われ、そのまま吹っ飛ばされて大地をごろごろと転がった。


「ごはっ……! げほっ、げほっ……!」


 埃と土塗れになったカリストロスが咽ながら膝をついて立ち上がろうとすると、同じくらい煤塗れになったメルティカがものすごく酷い目つきで凝視しながら彼の元へと歩いて近寄って来る。


 カリストロスは迫って来るメルティカを咄嗟に睨み返しつつ、そんな彼女の姿をよく観察した。


 メルティカは確かに煤などで汚れてはいるものの、ミサイルの直撃を受けたにも関わらず、大きな外傷を負ったオメガドラゴンと違ってそんなに大した怪我は見受けられない。


 衣装の方も鎧に細かい傷が入ったり、ドレスの端が多少破けたりなどはしているものの、別に肌が極端に露出するほど破壊されているという訳でもない。


 ――こんな事は有り得ない。ミサイルをまともに食らったのならば、肉片すら残さず消し飛んでいなければおかしい。


 そうでなくても、全身大火傷や鎧が全て吹き飛んでいるなどといった瀕死の状態になって然るべきなのだ。


 だが、そうなっていないということは攻撃を回避したということになる。でもあの時、ミサイルは確実に着弾させた筈だ。その手ごたえはきちんと感じ取れていた。


 でも彼女が五体満足で動いている以上、逆説的に攻撃を避けることが出来たということになる。


「――不可解です。サイドワインダーの直撃を受けて、何故その程度の損傷で済んでいるんですか」


「それはこっちの台詞です。“あの程度の威力”でどうやって私のエンドラちゃんにダメージを与えられたんですか」


 メルティカからの返答を聞いて、カリストロスは更に訳が判らなくなってしまう。


 メルティカの言葉を真に受けるならば、彼女は確かにミサイルの直撃を受けている。だがダメージは明らかに少ない。つまり、それから導き出される答えは――


(いいや、それこそ有り得ない……ッ!)


 メルティカ自身は剣を握ってこそいるものの、カリストロスが反撃してこない限りは特に追撃をするつもりはなかった。


 しかしカリストロスにとってはそれこそが逆に情けをかけられているようで癪に感じ、咄嗟に銃身の長い回転式拳銃を右手に出現させると、流れるような動作でメルティカに向かって銃口を向ける。


 その銃は、この異世界に来て最初に人の姿をした魔王を一度仕留めたマグナム銃、スーパーブラックホークであり、超人化した彼らから見ても素早いクイックドロウで銃弾を発砲する。


 メルティカは反応できなかったのか、それとも避けようとしなかったのか。何にしても、放たれた弾丸は彼女の眉間の位置へと吸い込まれるようにクリーンヒットした。


 魔王をすぐさま第二形態へと変身させる程追い込ませ、転移者たちの元いた世界でも熊や象すら撃ち殺せる、驚異の44マグナム弾。


 拳銃弾といえど、そもそも威力があり過ぎて対人武器ですらない物騒な代物。


 それに魔法や神秘の護りを貫くカリストロスの力も合わさって、必殺の凶弾となっているそれを急所に受けたのだ。


 いくら同じ異世界転移者であったとしても、致命傷をくらわない筈がない。


 しかし――


「な、何故だ……ッ?!」


 メルティカは死ぬどころか、血の一滴すら流していなかった。


 それどころか、痣の一つも出来ていない。よくて皮膚の表面が目立たない程薄く傷ついたくらいか。


「……一応、同じ陣営に属する仲間の、しかもヒトの顔に向けてよくそんなもの撃てますね。エアガンを人に撃ってはいけないと小さい頃、大人に教わりませんでしたか?」


「え、エアガンだとぉ……ッ!」


 自分の信頼している武器を玩具エアガン呼ばわりされて、カリストロスは頭に血を登らせる。


「いえ、エアガンどころではないですね。貴方のそれはせいぜい、割り箸で作った輪ゴム銃くらいのダメージしかありません」


「ッ……!!!!」


 カリストロスは残った5発の弾丸を全て連射してメルティカに叩き込むが、彼女はもう食らってあげるつもりはないと、剣を持っていない方の手で全弾を容易く掴み取ってしまった。


「ですが、今のではっきりしました。――貴方の攻撃は、“私には”効きません」


 手のひらからパラパラと掴み取った弾丸を地面に落とすと、メルティカは残酷な事実をカリストロスへと告げる。


「ば、馬鹿な! そんな筈が……!」


「ここまでされたんですから本当なら殺してしまいたいところですけど、そうしてロズェリエ様に怒られたり泣かれたりしたくはないですからね。……そのカッコつけたロン毛を短く断髪するくらいに留めておきます」


 そう言って、メルティカは武器の蛇腹剣をじゃらりと連なった刃に分解させる。


「頭皮が剥げて捲れたりしてしまったら、ごめんなさい」


「くっ……!」


 拙い、先ほどは不意を打てたから銃弾を当てられたようなものだが今度は違う。


 完全に臨戦態勢と化した白兵戦特化ちからまかせ前衛職のうきん相手に、今から銃を展開してぶっ放すにはやや距離が近すぎる。


 そもそも今さっき、彼女に銃や火器による攻撃は効果が薄いと判明してしまったばかりだというのに。


 かといって軍用短剣で斬りかかるのも下策。彼女の武器はリーチが長く、接近する前に確実に攻撃をくらう。


 一体、どうすればこの状況を乗り切れるというのか。


 カリストロスが戦慄しながら思考を巡らせていた、その時――


「はいはーい! 二人とも、そこまで!」


 対峙するメルティカとカリストロスのちょうど真ん中の位置に、空間転移で現れたゲドウィンが割って入って来た。

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