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殺戮騎士と異世界で激突する話⑧

 レフィリアがオデュロを引き付けている間、ジェドは戦っている二人が自分たちの近くから離れたのを見計らって、アンバムの遺体の回収を試みた。


「手繰り寄せる魔導の引力――トラクターフォース!」


 ジェドが魔法を発動したことでアンバムの身体がふわっと浮かび上がり、そのまま滑るようにジェドの元へと引っ張られてくる。


 ついでにアンバムの周りに散らばっていた、武器や盾の残骸なども一緒に牽引してきた。それが今、役に立つことはないのだが。


「アンバムのヤツ、本当に死んじゃったんだね……」


 彼の胸に空いた傷と呼吸が無いことを確認しつつ、ジェドはアンバムの目を優しく閉じさせる。


「……ねえ、僕が言うのも何だけど、このまま戦っても大丈夫なのかな?」


「どういうことです?」


「いや、怖気づいたとかじゃなくて、これ以上戦闘を継続してもいいのかって話。相手に攻撃が効かないまま戦っても体力ばかり消耗するし、余力が残ってるうちに撤退も視野に入れた方がいいんじゃない?」


「……貴方の言いたいことは解ります。完全に勝ち目がないのならば、私もその選択を選んでいたでしょう。ですが――」


 サフィアはオデュロと斬り結んでいるレフィリアを数秒ほど見据えたあと、またジェドの方を向く。


「これはあくまで私の推測ですが、レフィリアさんにはまだ勝算がある上でオデュロと戦っているのだと思います」


「……というと?」


「彼女の戦い方も表情も、打つ手がなくて闇雲に防戦している、といった感じではなく、何かの好機チャンスを伺っているように感じます。そして、あそこに転がっているオデュロの兜を見てください」


 サフィアの差した方向に落ちているオデュロの兜を見て、ジェドは目を見開く。


「あっ、傷がついている……!」


「レフィリアさんの光の剣は、あの鎧へもダメージを与えられています。そしてオデュロに致命傷を負わせられそうな攻撃といえば――」


「そうか! あのサメの巨大怪物ギガントモンスターを仕留めた時の剣!!」


 ジェドの答えに頷き、サフィアはレフィリアの方を向く。


「ええ。ですが今の状態でオデュロにその技を直撃させるのは厳しいでしょう。――私たちでサポートしてあげる必要があります」


「どうしたらいい?」


 ジェドの闘志を取り戻した表情に、サフィアは応える。


「ジェドは離れた相手の動きを止めるような魔法は使えますか?」


「……やっと僕のこと、呼び捨てで呼んでくれたね。うん、色々と使えるよ」


「オーケーです。ならば私が貴方を手伝いますので、今からその準備を」


 そう言うとサフィアはジェドに対して、支援魔法を詠唱しだした。


「唱える響きに言の葉の力を――エンハンスキャスト!」


 ――エンハンスキャスト。


 一時的にではあるが、他者の魔法詠唱を短縮し、魔法発動までにおける時間ラグを高速化するための呪文である。


 それに加えてサフィアはジェドに手の平を突き出し、更なる魔法詠唱を行った。


「我が力を譲渡し、魔導を統べる助けとせん――マナプロダクト!」


 サフィアが次に使用した魔法は、他者に魔力のパイプラインを繋げて魔力提供を行い、魔法出力のバックアップを行うというものである。


「これで一、二発は即座に威力の増した魔法が放てる筈です。あとは貴方がここぞというタイミングを見計らって、拘束魔法を使用してください」


「おおーっ、サフィアの魔力が流れ込んでくる……。ようし、任せて。オデュロがちょっとでも隙を見せたらスゴイ魔法ぶっ放すから!」







 サフィアとジェドが魔法発動の準備をしている間も、頭が無い状態のオデュロは変わらぬ勢いでレフィリアを攻め立てていた。


 レフィリアは無理に斬り結ばずに、強引に押し込まれるのを避けるため、斬撃を弾きながらも後方へ飛び退くように回避を続ける。


(そろそろ強化魔法の効果が切れそう……。でも急いて無暗に飛び込む訳には……!)


 やたらと距離を取りたがるレフィリアに辟易したのか、オデュロは一旦追撃を止めて彼女へ言葉を投げかける。


「ピョンピョン飛び回ってまるで飛蝗バッタのようだな。別に俺にも離れた相手を攻撃する手段がない訳ではないぞ?」


 そう言ってオデュロは長剣を真っ直ぐ頭上高くに掲げると、刀身を真っ赤に染め上げた途端、それを兜割りのように勢いよく地面へと振り下ろした。


「烈震走破――ッ!」


 赤く燃える闘気を纏った刀身が大地に触れた途端、レフィリア目掛けて一直線に闘技場の地面が砕けて、土砂を巻き上げながら紅蓮の衝撃波が突き進んでいった。


「ッ――!!」


 闘気による衝撃波も飛び道具である以上、レフィリアには効かないのであろうが、その鬼気迫る迫力からつい回避行動を取ってしまう。


 レフィリアが避けた先の衝撃波は、地面に深い亀裂を刻みながら闘技場の端まで届き、壁面にまで鋭い斬り跡を残した。


 だがオデュロの攻撃行動はまだ終わっておらず、またもや長剣の刀身に赤い炎のような闘気を纏わせると、身体を捻りながら両手で柄を握り、大きく振り抜く構えを取った。


「烈風乱舞――ッ!」


 そして技名を叫ぶと同時に長剣を横へ大仰に降り抜き、暴風を伴った赤い真空刃を刀身から解き放つ。


「くう……ッ!!」


 今度の大技をレフィリアは避けきることが出来ず、防御の姿勢こそ反射的にとったものの、嵐のような鎌鼬をまともに浴びる形になって食らってしまった。


 といっても、レフィリア自身はダメージを受けず、あくまで彼女の後方にある闘技場端の壁面に数十メートル範囲に及ぶ無数の鋭利な切創が生まれただけに留まった。


 しかし今の攻撃を受けたことで、レフィリアは言いようのない戦慄を覚える。


(ちょっ、今のはヤバい……! たまたま方向が違ったから良かったけど、あれじゃサフィアさん達にまで攻撃が届いてしまう……!)


 レフィリアが肝を冷やしたのも束の間、オデュロからの攻撃はまだまだ止まず、今度は空高く跳躍すると、そこから縦に回転してレフィリアの方へと突っ込んできた。


「烈天旋輪――ッ!」


 長剣を垂直に持った状態で車輪のように高速回転してきたオデュロの大斬撃を、レフィリアはすれすれのところで緊急回避する。


 赤い斬光を纏い、グラインダーか回転鋸を彷彿とさせる驚異の突進攻撃は、刃の触れた地面を激しく爆ぜさせた。


(ああもう、この人! どんだけ元気に動き回れるのよ……!)


 レフィリアは出来る限り距離を放そうと試みつつ、念のためサフィアたちに攻撃の余波が飛んで行っていないか、一瞥して確認する。


 そこで彼女はサフィアと目が合い、二人が何かこちらに対して魔法の準備をしているということを把握した。

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