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殺戮騎士と異世界で激突する話⑦

 アンバムの必殺奥義を受けたオデュロのスリットからは一瞬の閃光とともにうっすらと煙が噴き出て、鎧の内部からくぐもった爆発音だか破裂音だかよく判らないものが反響して聞こえてくる。


 先ほどの攻撃、理屈としてはレフィリアの光剣による過重負荷オーバーロードと同じく、敵の体内にエネルギーを流し込んで内側から爆裂させるというものだ。


 鎧こそ傷一つつかなかったものの、アンバムが槍を打ち込んだことによってオデュロの動きは確かに停止した。


「へっ、いくら鎧が硬かろうと中身はそうもいかねえだろうよ。今頃、兜の中は脳みそと頭蓋骨でシェイクされてんだろうな!」


 アンバムはついに仕留めたと勝利を確信し、不敵に口元をにやりと歪ませる。


 ところが――


「――ああ、すまない。そういえば言っていなかったな」


 沈黙したと思っていたオデュロは、自身の目元に刺さっている槍を片手で握ったかと思うと、それをゆっくりと引き抜いた。


「なっ……?!!」


「俺には生身の肉体など無いのだ」


 そう言うと、オデュロは握った槍ごと目の前にいるアンバムを振り飛ばす。


 そして――


「がはあっ……!!!」


 彼が反応する間もなく、一瞬にして長剣を真っ直ぐ突き出し、アンバムの心臓の位置を的確に貫いた。


「アンバムさんッ?!」


「アンバム!!」


 周りから悲痛な呼び声が聞こえてくる中、オデュロはずるりとアンバムの胸から長剣を引き抜き、刀身についた鮮血を払う。


 アンバムは驚愕の表情で自身の胸に空いた穴を見つめると、力なく地面にどさりと倒れてしまった。


「ご……があっ……!!」


「ふむ、お前には何だかんだで色々と驚かされた。お前は俺がこの異世界で戦った“人間”の中では間違いなく、最強の戦士であったな。――まさしく勇者の称号に相応しいと、この俺が保障しよう」


 彼なりの称賛のつもりか、足元に倒れ伏したアンバムにオデュロは淡々と言葉を投げかけるが、その間にも彼の胸に空いた穴からは血が流れ続け、地面を赤く濡らしていく。


 そして彼が強張った表情のまま、ピクリとも動かなくなってしまった様子を目の当たりにして、レフィリア達はアンバムが死亡したという事実を認識することになってしまうのであった。


「アンバム……さん……」


 目の前で仲間が殺されたことにより、流石のレフィリアも感情が波打ってしまう。


 別に彼の事を特別好いていたという訳ではなかったが、たとえ少しの間でも共に旅をした人間の命を奪われては、言いようがないほど辛い感情が込み上げ、それと同時にものすごく頭にきた。


「アンバム…どうして早まった真似なんかしたんだよ……!」


 ジェドは相棒が突然死亡してしまった事実に、思わず涙を目元に浮かべる。


 それもそうだ。彼はアンバムと喧嘩ばかりしてはいたが付き合いがとても長く、ずっと共に戦い旅をしてきたのだ。


 そんなジェドの心情を理解しつつも、隣にいたサフィアはあえて気丈に声をかける。


「気持ちは解りますが、まだ戦いは終わっていません。どうか落ち着いてください」


「分かってる……分かってるよ……!」


 ジェドはぶっきらぼうに目元の涙を拭うと、魔杖を握り締めてオデュロの方を睨みつける。


「よくも……やってくれましたね!」


 今までにない程の殺気を込めたレフィリアからの視線を受けて、オデュロはより機嫌をよくしたとばかりに彼女を見る。


「いいぞ、その怒りを力に変えるといい。お前の実力はまだこんなものではないだろう」


 オデュロの挑発ともとれる余裕そうな態度に苛立ちを覚えるが、今は尚更冷静になるべきだとレフィリアは自身を戒めた。


 ――現状をとにかく整理する。


 アンバムの攻撃は通じず、オデュロは生身の肉体が無いと述べた。


 そして彼はひとまず尋ねたことは敵でありながらも、ある程度は答えてくれる人物である。


 ならば戦う前に、謎である部分ははっきりさせておかねばならない。


「……貴方は先ほど、生身の肉体など無いと言っていました。もしやその鎧の中は――」


「ああ、そちらの想像通り伽藍洞がらんどうだ。この中に肉のある身体など入ってはいない。……そうだな、ほら。有名な錬金術師のマンガがあっただろう。あれに出て来る弟の方みたいなもんだ」


 確かにレフィリアもその漫画はよく知っているが、今はそんなことはどうでもいい。


 にしても鎧の中身がないのなら、いよいよ彼への対抗策が思い当たらなくなってきた。


(いや、ちょっと待って……!)


 レフィリアはふと何かが頭の中に引っかかり、アンバムがオデュロに肉薄していた時のことを思い出す。


 そういえばオデュロがアンバムを迎撃するため、ちょうどレフィリアの方へ背中を向けた時に、一瞬ではあるが確かに、ほんの僅かではあるが鎧に傷がついていたのが見えたのだ。


そこはレフィリアがオデュロの背に光剣の刃を押し付けた場所であった。


(オデュロは物理攻撃は効かないと述べ、私も手ごたえがないと思い込んでいた。でも実際には傷が入っている……ということは――ッ!)


 レフィリアの光剣による攻撃は、物理攻撃以外の特性が働いているということになる。


 つまりオデュロのG.S.A.によってダメージこそ大きく削減されてはいるが、決して“ゼロ”にはなっていないということである。


 もし、それならば――


必殺奥義ディバインソードスラッシャー……アレならば、もしかしたら通じるかもしれない……!)


 レフィリアの中に一筋の希望が見えてくる。


 だけどそれは言うほど簡単にはいかない、あまりに困難な手段でもあった。


 確かにレフィリアの必殺奥義ならばオデュロにも有効打になるかもしれないが、それにはまずその技をオデュロに当てなければならない。


 オデュロの敏捷性を考えると当てずっぽうに撃っても避けられる可能性は大きい上に、もし外せば魔力はすっからかんになるので完全に後が無くなってしまう。


 判断は慎重に行わなければならないが――。


「さて、余計な横やりが入ってしまったが戦いを再開しよう。お前はこの勇者のように、簡単に死んでくれるなよ?」


 そう言ってオデュロは再び長剣を構ると、レフィリアへ殺気を投げかける。


(ひとまずはオデュロを一旦、この位置から引き離す。それから反撃の機会を探ろう……!)


 レフィリアは剣を握り締めつつ深呼吸し、意識を研ぎ澄ませる。まずは初撃の回避に全力で集中。


 今いる位置では倒れ伏したアンバムの遺体はおろか、自身の背後にいるサフィアやジェドも巻き込みかねない。


「ぜあッ――!」


 掛け声と共に距離を一瞬で詰めてからの、横一文字の薙ぎ払い。


 レフィリアはそれを何とか掻い潜ると、オデュロを誘うようにしながら後方へ飛び跳ね、間合いをとった。


「逃がすかッ!」


 オデュロは急速に方向転換してレフィリアを追撃すると、彼女へ向けて刈り取るかのような斬撃を振るう。


「くっ……!」


 数発は避けてみせたがすぐに追いつかれ、レフィリアは立ち止まると襲い来るオデュロと剣を連続で打ち付け合い、斬り結んだ。


 一秒間の間だけでも十数回は剣をぶつけ合い、閃光のように火花が散る。


 サフィアたちからの強化バフを受けた状態でなおようやく拮抗状態――いや、それでもやや押されている。


 しかも支援魔法は永続ではなく、時間経過でいずれ切れてしまう。もたもたはしていられない。


「ぜいあああああッ!!」


 耳をつんざくような雄叫びと共に、オデュロはまるでゴルフのスイングの如く下から長剣を振り上げ、レフィリアをそのまま空中へ弾き飛ばした。


「ひゃっ……?!」


 突然空高く打ち上げられたレフィリアは空中で体勢を立て直そうとするが、なんと彼女の更に上空にはいつの間にかオデュロが跳躍し、回り込んでいた。


(嘘ッ――?!!)


 オデュロはレフィリアの真上から叩き落すかのように長剣を振り下ろし、レフィリアはそれを咄嗟に光剣の刀身で受け止める。


 斬られこそしなかったものの地上目掛けて真っ直ぐ打ち落とされ、地面を転がったレフィリアは悪寒を感じて、すぐさまそこから飛び起きた。


 その瞬間、地上に降りてきたオデュロがまたもや長剣を振り回し、それをすんでのところでガードしたレフィリアは、攻撃を防いだ反動で闘技場の壁まで吹っ飛ばされる。


「ぐあっ……!!」


 壁面へ激しく背中を打ち付けたレフィリアは体勢を崩し、呻き声を上げる。


 だが休んでいる暇なんてある筈もなく、オデュロは立て続けに彼女の方へ一足で飛びかかって来た。


「こ……のおッ――!!」


 オデュロの薙ぎ払いを屈むようにしてよけつつ、レフィリアは前転するように緊急回避。


 レフィリアへ放たれた剣閃は石で出来た壁面に真一文字の鋭い切れ込みを入れる。


 壁を斬ったことでやや長剣の動きが遅くなった隙をつき、レフィリアは反撃とばかりに、光剣を10メートルほど伸ばした状態ですれ違いざまにオデュロの頭部を斬りつける。


 すると、オデュロの兜が空高く弾き飛ばされ、弧を描いてサフィアたちがいる位置の近くまで転がって行ってしまった。


(頭が――兜が取れたっ……?!)


 頭のないオデュロを観察すると、確かに彼には肉体のようなものは見受けられない。


 よく見ればちょうど首の部分からは何か黒いもやのようなものが沸き立っており、イメージ通りの首無し騎士といった感じである。


「ちっ、勇者とやらの攻撃で留め具が緩んでいたか……まあいい」


 頭が無くなったところでオデュロの動きは全く阻害されておらず、本当にただ甲冑としての兜が外れてしまっただけというようである。


 ――因みにアンバムがオデュロに食らわせた必殺奥義フォビドゥンノヴァは本来、巨大怪物ギガントモンスターすら一撃で粉微塵に爆裂させるだけの威力がある。


 それだけの規模の爆発を内部で受けてなお、オデュロの兜の留め具を緩ませただけであるということは、彼の鎧がそれだけ頑丈であることの証明でもある。


「ッ――!」


 兜が外れたことでオデュロが一瞬の戸惑いを見せている間に、レフィリアは一旦離れて間合いを開ける。


 そして彼女は更に一つの光明を見出していた。


(さっき跳ね飛ばした兜……ちょっとだけど斬り傷がついていた。それに兜を跳ね飛ばせたこと自体が、私の剣が通じている証拠……!)


 オデュロのG.S.A.は完全にはレフィリアの光剣を無力化は出来ない。二度の確信を得られたなら、より必殺奥義ディバインソードスラッシャーで仕留められるという勝算が持てたというもの。


(あとはその必殺技をあてられる隙を作れるかだけど……)

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