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殺戮騎士と異世界で激突する話⑥

「き、9万……ッ?!」


 ふと何気なく聞いてみた問いではあったが、レフィリアの予想を遥かに超えた具体的かつ途方もない数値に、あまりの驚愕から言葉を失ってしまう。


 彼ら六魔将がこの異世界に現れてから半年を超えると以前聞いたが、雑に計算しても約9万人を殺害したとなれば、一日に500人以上は殺さなければいけないことになる。


 それはあまりに出鱈目過ぎではないだろうか。


「ふふ、たかが剣一本でその数は明らかに嘘っぽいと思っただろう。だが事実だ」


 レフィリアの考えを読み取ってか、オデュロは自慢の玩具でも見せつけるかのように長剣の刀身を左右に振ってみせる。


「一度の戦いで一万人もの討伐隊を鏖殺したこともあった。一国の人間全員を俺一人で殺戮して回ったこともあった。夜中ふと目が覚めて、散歩やコンビニに行くような感覚で村や町を滅ぼしたこともよくある。……何にせよ、一人一人に殺意まごころを込めて丁寧に誠心誠意屠っていったつもりだ」


 ぬけぬけとよく言ったものだ。彼の場合、死んだ部下の名を一人一人覚えているエレガントな閣下どころか、むしろ今まで食べたものの数など覚えていないと宣う吸血鬼みたいなタイプだろう。


「この“シャルフリヒター”は前にも言った通り、食らった魂の質量に比例してより鋭く、より硬く、そしてより重くなる。そんな武器を与えられれば……自分の子供のように可愛がってあげたくなるだろう?」




 《シャルフリヒター》


 オデュロの専用武器である、大太刀に似た形状をした規格外の長剣。鏖殺魔剣、殺戮妖刀とも。


 この刀剣の特性として、ある一定以上の知性を有する生物(人かどうかは問わず)をこの剣で殺害した場合、その魂を吸収して成長し続ける機能がある。


 成長具合は剣が吸収した魂の総質量に比例し、増加するごとに剣の切れ味、強度、重量が際限なく増えていく。


 ただし持ち主であるオデュロのみはその影響を受けないため、剣の重量がいくら増しても彼にとっては、元の剣の重さと同じように扱うことが出来るのである。


 因みに現段階でこの剣の重量は既に2トンを超えている。




「……つまり貴方はこの世界に来て、ただひたすらに人を殺めまくってきたんですね。驚くどころか、もはやドン引きです」


「誉め言葉と受け取っておこう。それに聖騎士レフィリア、俺の見立てではお前一人を殺めるだけで、軽く見積もっても一万人分以上の質量の魂を手に入れることが出来る。そうなれば一気に合計10万人分越えを達成という訳だ」


 喜々として語るオデュロを、レフィリアは実に汚らわしく嫌な物を見るような目で見据える。


「10万人達成すれば某動画サイトよろしく、シャンマリーが“銀の盾”をくれると言っていた。お前を仕留めることで記念品も貰えるというのであれば、これ程喜ばしいこともない」


「他の異世界転移者の方々は誰も彼も人間を止めているとは思っていましたが、貴方は特に筋金入りですね。話を聞くのも疲れます」


「そうか? ならばお喋りはこのくらいにして、死合いの続きをしようか。どの道、その首は貰うがいい感じに俺を楽しませてくれ」


 そう言ってオデュロは再び長剣を握りなおすと、レフィリアへ斬りかかるための構えをとった。


 つい話の流れでオデュロを挑発してしまったが、レフィリアには今のところ彼に対する有効な策が思い浮かんでこない。


 かと言ってやたらめったら斬り結んでいても体力を消耗するだけである。


 果たしてどうしたらいいものか――。


「――おい、テメエ。誰かのこと忘れてんじゃねえだろうな?!」


 途端、オデュロの背後から、復帰したアンバムが背中から光の翼を放出しながら急接近し、槍を突き出して飛びかかって来た。


「ああ、そういえば勇者とやらもいたな。自分から近づいてくるなら仕方ない。いい加減、首でも刎ねておくか」


 オデュロはまるで耳元を飛び回る鬱陶しい虫でも払うかのように、後ろから迫るアンバムへ長剣を振るう。


 その剣閃はアンバムの槍がオデュロへ届くより前に、肉薄しようとする彼の首筋を的確に斬り飛ばした――ように見えた。


 しかし首を刎ねた筈のアンバムの姿は幻のようにかき消え、代わりにすぱっと両断された白金の兜が地面に落ちて転がったのである。


「ぬっ――?!」


 気が付くとアンバムはいつの間にかオデュロが向いた方の反対側に回り込んでおり、加えて完全に懐へ潜り込んだと言っていいほど急接近していた。


「はっ、その兜はどんな攻撃も一度だけ身代わりになって防いでくれるんだよ!」


 アンバムが身に着けていた古代の遺産である伝説の兜は、装備者が致命的な攻撃を受けた場合、一度だけ自動的に存在の身代わりとなって“攻撃を受けなかった”ことにする機能がある。


 今回、それが発動したことによってアンバムは無傷のまま、オデュロの傍まで近づくことが出来たのである。


「で、それがどうかしたか?」


 だが、それだけではまだ足らない。


 アンバムが至近距離から攻撃を仕掛けるよりも更に早く、オデュロは瞬時に振り向きながら同時に長剣を振り抜いてアンバムに斬りかかる。


 ところが今度こそアンバムを真っ二つにしていた筈の斬撃は、彼の装備していた盾によって防がれることとなった。


「何ッ……?!」


 いや、防いだというにはいささか語弊がある。


 伝説の武具である白金の盾を以てしても、オデュロの斬撃には強度的に耐えきれなかった。


 しかし伝説の盾は両断されるのではなく、自ら弾け飛ぶように砕けてその衝撃によりオデュロの攻撃を押し返す形で無効化したのである。


「油断したな! この鎧野郎!」


 オデュロの動きがコンマ一秒でも止まった隙をつき、アンバムは全身全霊をかけて彼の頭部目掛けて槍を突き出した。


 槍の光刃はオデュロの兜にあるスリットの細い隙間へ見事に入り込み、その中へ深く突き刺さる。


「くたばれ! フォビドゥンノヴァ――ッ!!!」


 渾身の力を込めてアンバムが叫ぶと、槍に内包された魔力を全部纏めて切っ先からオデュロの頭部へ一気に流し込み、その中に激しい閃光と爆発を生じさせた。


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