殺戮騎士と異世界で激突する話④
「何ッ……?!」
「今だ! レフィリアちゃん!」
今度はアンバムが作ってくれた隙を利用して、レフィリアは即座にオデュロの背後へ回り込む。
そしてがら空きとなった彼の背中に、賺さず光剣の切っ先を突き出した。
「ディバインブレイド・オーバーロードッ!」
確実に仕留めるならば大技の必殺奥義の方がいいのかもしれないが、おそらくそんな暇をくれる程悠長な相手ではない。
ここは迅速かつ堅実な手段でオデュロへと決定的なダメージを与える。
そのつもりで放った光剣の刺突であったのだが――
「嘘ッ、刺さらない……?!」
レフィリアがどれだけ腕に力を込めても、光剣の刃はオデュロの鎧を貫きはしなかった。
一応、切っ先が接触している部分は赤熱化しているようには見えるのだが、それでもオデュロにダメージを与えているような手ごたえは全く感じない。
その様子にレフィリアが困惑していると、オデュロは拘束された長剣ごと強引に腕を振り回して、逆にアンバムを引っ張りぶん回した。
「うおわあッ?!」
鞭状にした槍の拘束を振り解かれ、アンバムはまた闘技場の端の方まで吹っ飛ばされる。
「アンバムさ――くうッ!」
飛んで行ったアンバムを確認する間もなく、自分に向かって瞬時に振り抜かれた長剣の一撃を、レフィリアは辛うじて光剣の刀身で受け止めてガードする。
だがその威力はやはり凄まじく、衝撃を殺しきれずに吹っ飛ばされたレフィリアは十数メートルも地面を滑りつつ、何とか踏ん張りをいれて体勢を立て直した。
(危なかった……でも、どうしよう。全然歯が立たない……!)
せっかくのチャンスであったが、攻撃は見事に失敗。
しかしここまで直接的な攻撃が全く通用しない相手も今までいなかった。
たとえ六魔将といえどカリストロスもゲドウィンもエリジェーヌも、これまで戦ってきた相手は剣があたったらきちんと外傷を与えられたのである。
ところが今回はそうもいかない。しかも実際に刃をあてて感覚的に判ったことだが、ただ物質の強度として硬いとか頑丈とかそういったものでもない。
それより遥かに力が行き届いていないような感じ、いうなればまるで荷重が完全に遮断されているような手ごたえである。
もしかして、これは――
「俺に刃が通らないことが不思議で溜まらないか?」
「……ッ?!」
レフィリアの考えを見透かしたかのように、オデュロが上機嫌な口調で声をかける。
「……ええ。その尋常ではない頑強さ、それがもしや貴方の“G.S.A.”なのではないですか?」
「くくっ、ああその考えは正しい。お前の攻撃が通じなかったのは何を隠そう、俺が保有する能力特性によるものだ」
オデュロはついに語れる時が来たか、といったような何とも嬉しそうな声色で話を続ける。
「手札を自ら晒すのは愚かかもしれんがな。それでも俺は他の仲間に倣って、きちんと説明させてもらおう。俺の鎧、それ自体が俺の手にしたG.S.A.――その名も《インビンシブル・アーマー》だ」
「インビンシブル・アーマー……ッ?!」
「そう、しかもこの鎧は聖騎士レフィリア、お前の能力と性質が似ている。お前は魔法や飛び道具と言った直接攻撃以外の害的干渉を弾くと聞くが、俺の場合はありとあらゆる物理攻撃を無力化するのだ」
「はい……ッ?!!!」
《インビンシブル・アーマー》
オデュロが保有するG.S.A.
彼を構成している全身甲冑そのものであり、殴打、刺突、斬撃といった直接攻撃から飛び道具まで種別を問わず、あらゆる物理攻撃を無力化する。
ある一定の決まった外部干渉に関して無敵という点ではレフィリアの持つ能力と似通っているが、彼女の防御特性が“遮断して逸らす”のに対してオデュロの場合は“荷重や衝撃そのものを吸収してダメージ値をゼロにする”という機能の違いがある。
また吸収して応力と化したダメージは同時に彼の鎧内部に存在するとされる、別次元に繋がった亜空間へ放出されるため事実上、許容限界のようなものは無く、継続的に物理攻撃を与え続けても彼が傷を負うようなことは永遠にない。
ただの物理現象ならば恒星規模の超高熱源の影響すら受け付けないので、核爆発はおろか星の爆発に巻き込まれたり、隕石レベルの大質量攻撃を受けても理屈の上では平気である。
因みに物理的な外力への吸収機構はオートで害的干渉のみに限られているので、彼自身が他の物に物理干渉できなくなるというようなことはない。
「あの……私が言うのも何ですが、ちょっとそれズル過ぎません?」
「ハハッ、全くだ。お前に言われてしまえばカリストロスやゲドウィンの立場がないではないか」
オデュロからの鎧に関する説明をともに聴いていたサフィアとジェドは、レフィリア同様に困惑して冷や汗を浮かべる。
「拙いですね……オデュロの言うことが真実ならば、白兵戦主体のレフィリアさんでは圧倒的に不利……!」
「でも耐性があるのは物理攻撃だけってことは、逆に魔法は効くんでしょ?! だったらもう僕たちでどうにかするしかないよ!」
「そうですね。どの程度通じるかは判りませんが、前衛に敵を引き付けてもらって私たちでダメージを稼ぐしかありません」
「ああもう、槍があれば高位魔法を手早くバンバン撃てるんだけど、今はアンバムが持ってるからなあ……仕方ない、今はやれることを全力でやる!」
意を決したサフィアとジェドは共に全身の魔力を迸らせて、魔法詠唱を行う。
「吹き荒ぶ赤竜の紅き吐息――プロミネンス!」
「仇名す罪過に光の神罰を。裁きの雷霆――ライトニングボルト!」
サフィアは燃え盛る火炎流を、ジェドは夥しい電撃の雨をオデュロに向かって撃ち放った。
その魔法による同時攻撃はどちらもオデュロに直撃し、勢いよく黒煙と砂埃を立ち昇らせる。
ところがオデュロは回避も防御もせずに、ただ突っ立って高火力魔法を浴びたにも関わらず、特にダメージを受けた様子もなく平然と佇んでいた。




