殺戮騎士と異世界で激突する話②
「えっ、アンバムさん?!」
「ほう……勇者。この世界の勇者は確かカリストロスが討ったというが――そうか、新しいのが生えてきたのか」
「人を庭の雑草みたいな扱いすんじゃねえよ。茹でたロブスターみてえな鎧しやがって」
「いいだろう、ならばこの身に一撃あててみろ。楽しめそうだと思ったならば、お前のことも認知してやる」
「へっ、そいつはどうも!」
言い放つと同時にアンバムは弓を出現させると、即座に光の矢をオデュロ目掛けて射出した。
今回は弓に光刃を発生させた、全く手加減のない全力の攻撃である。
発射された光の矢は避ける素振りも見せないオデュロに真っ直ぐ直撃し、着弾と同時に凄まじい大爆発を引き起こした。
「おらっ、どうよ! ご自慢の鎧もこれで台無しだなオイ!」
自信満々にアンバムが叫び、立ち昇る土煙の中からオデュロの状態を確認する。
しかし――
「ふん、人間が放ったにしては悪くない火力だ。俺でなければ他の連中には効いていたかもしれん」
「なッ……?!」
オデュロは全くの無傷であった。
決戦の前に念入りに磨き上げたのであろう、そのきれいで光沢のある派手な赤い鎧には傷どころか少しの焦げ付きすらついていない。
「ちょっ、あの爆弾矢をまともに食らってノーダメージとか有り?! あの鎧、どんだけ硬いの!」
驚愕するジェドの声が後ろから聞こえてくるが、アンバムはむしろ上等とばかりに口元を歪ませた。
「――ハッ、流石は敵の大ボス様だ。このくらいでくたばってもらっちゃ、つまらねえ。そんじゃあ俺様も本気の本気を見せるとしようかねえ!」
アンバムは弓を双剣の状態に分離させると、それを武器として使うのではなく、身に着けている鎧の背中にまるで翼のようにして装着した。
「おい、ジェド。槍貸せ」
「って、アンバムあれやるつもり?! まあ、いいけどさあ……やるなら確実に決めちゃってよ!」
そう言うとジェドは手に持っていた槍をアンバムの方に投げ、アンバムはそれをカッコつけながらキャッチすると不敵な笑みを浮かべる。
「ご立派な鎧を持ってんのはテメエだけだと思うなよ。この海老野郎!」
闘技場全体に響き渡るような声でそう叫ぶと、アンバムの身体が眩く光り輝く。
そして数秒後、アンバムは白金に輝く鎧に加えて荘厳な兜を被り、重厚な盾を装備し、そして金属で出来た騎馬のようなものに跨っていた。
その姿はさながら小宇宙を感じる聖衣を纏った闘士のようである。もしくは鎧の魔剣を身に纏った不死騎団長といったところか。
(ちょっ、アンバムさんがなんかゴテゴテに重武装した……?! しかも馬とかどこから出てきたの?!)
「刮目して見よ! これこそ世界を救う勇者の最強形態、名付けてスーパーアンバム様だッ!!」
(そして名前がすごくダサい……!!)
「……一つ確認なのですが、貴方がたが手に入れた伝説の武具は弓、槍、鎧の三つだった筈では?」
騙していたんですか、と言わんばかりにサフィアに問われ、ジェドは慌てて弁明する。
「黙っててゴメン! 本当は剣以外の武具は全部回収していたんだ! ここぞという場面が来ない限り、残り三つは使わずに持ってることも口外しないって前々からアンバムと決めてたんだよ……」
「別にレフィリアちゃんやサフィアちゃんを信用してなかった訳でも出し抜こうとしてた訳でもねえんだ。だが隠していたことも事実っちゃあ事実……悪かったな」
珍しく謝罪の言葉を口にするアンバムに、レフィリアはやれやれとため息をつきつつも少しだけ微笑んで見せる。
「まあ、要するにカッコつけたかったんですよね」
「へっ、そういうこった。そんでもってレフィリアちゃんには俺様の雄姿を見て更に惚れ込んでもらう」
そんなことを宣いながらアンバムは手にした槍の先端をガチャンと変形させると、開いたその先からビームランスのような光の刃を発生させる。
「んじゃあ行くぜえ、絶刀のオデュロ!」
そして槍の切っ先をオデュロの方に向けて狙いを定めるとともに、跨っている騎馬の全身から燃えるような揺らめく光の奔流を滾らせた。




