勝ち抜け!異世界武闘大会の話③
――しばらくして、ナーロ帝国武闘大会、第二回戦。
一回戦を突破したレフィリアたちの次の対戦相手は、今大会参加者の中でも特に異形の三人組、“死の遊撃隊”であった。
メンバーのうち、元人間だった男は全身からサボテンやウニを思わせるような鉄の棘がびっしりと生えており、指先からは50センチ以上もある、刀のような鋭い鉤爪が伸びている。
二人目の巨漢のハーフドワーフは、甲冑のように身体中を甲殻類のような黒い装甲で覆っており、片腕は蟹を彷彿とさせる巨大な鋏になっている。
三人目はハーフエルフで、下半身が蜘蛛のような節足動物に似た形状になっており、また後ろには蠍を思わせるような長い尾をくねらせていた。
「ククク……俺の愛に満ちた抱擁で、あの身に着けている鎧ごと女共の柔肌を串刺しにしてやるぜ……最高の悲鳴をすぐ傍で聞かせてくれ……」
「オイラはあの引き締まった胴体をこの鋏でちょん切ってやるんだな。どんな臓物をしてるか、すっごく楽しみなんだな」
「僕は身体中の穴という穴にこの針を突き刺して、毒液を注入しながら念入りにほじくりまわしてやるヨォ。ああ、絶望した表情を想像するだけで毒針がいきり立つ!」
またもや聞くに堪えない下賤な言い回しで挑発してくる対戦者たちに、レフィリアは呆れて物も言えなくなる。
「…………」
「レフィリアさん。私も彼らは既に救いようのない“ただの魔物”としか認識できないのですが」
「だろう、サフィアちゃん。こいつらなんか、手心加えないでさっさとぶっ殺しちまった方がいいって。女性に対してなんつー下品で失礼な物言いだ」
「いや、アンバムは人の事言えないでしょ」
「それには、すごく同意します」
「酷いぜ、サフィアちゃん。あとジェドは黙れ」
「……気持ちは解りますが、出来る限り加減する方向でお願いします」
レフィリアの言葉を受けて、サフィアは小さなため息をつきながらも頷いて了承する。
「分かりました、私はレフィリアさんの方針で戦います。――ですが」
サフィアは双剣を構えると、注意深く敵の様子を観察する。
「仕入れた情報によれば、彼らはそれぞれパワー、ディフェンス、スピードに特化しており、その長所を生かしたコンビネーション攻撃が得意だそうです。そういった手合いは厄介ですので、油断だけはしないように」
「ハッ、だったら纏めて攻撃しちまえばチームワークもクソもねえわな! ジェド、やっちまえよ!」
アンバムに促され、ジェドがはいはいと言った感じで槍を構える。
「囲んで一掃、スパークネット!」
ジェドが呪文を詠唱すると、死の遊撃隊の三人を包み込むように網状の電流が発生して彼らを包囲した。
「あばばばばばば!!!!!!」
全身棘だらけの男は思いきり電流の網に絡まり、じゅうじゅうと肉が焼けるような音と煙を立てながら、どさりと地面に倒れる。
身体中が金属の武器だらけだったからなのか、特に強く感電してしまったのだろう。そのまま起き上がることはなく、完全にダウンしてしまった。
しかし――
「おいバカ、加減し過ぎだ! 虫野郎には避けられたし、蟹野郎はまだくたばってねえぞ!」
アンバムが怒鳴った通り、敏捷性と反応速度に特化した蠍のような男は電撃の網を瞬時に搔い潜ることで躱しきっており、全くダメージを受けていなかった。
蟹のような装甲の男も電流の直撃こそ受けはしたものの、防御力に秀でた強靭なタフネスから攻撃に耐えきっており、身体から煙を立ち昇らせながらも十分に戦闘可能な状態である。
「あっちゃあ、ゴメン! ちょっと魔力を弱めに調整し過ぎた!」
「はっ、舐めた真似してくれちゃってェ! 今からその可愛いおしりを使い物に出来なくしてあげちゃうヨォ!」
蠍のような男が闘技場内を俊敏に駆けまわりながら一気に跳躍してジェドへと迫り、装甲の男も大鋏を振り上げて正面から突撃してくる。
「させません!」
装甲の男に対してはサフィアが前面に躍り出ると、双剣の片方に冷気を、もう片方に炎熱の魔力を纏わせる。
「クリスタル・ブレイカー!」
そして回転斬りの要領で冷気の斬撃から炎熱の刃を連続で叩きつけ、装甲の男の頑丈な大鋏を粉々に破壊した。
「んだなッ?!」
「続けていきます!」
敵が自慢の得物を砕かれて怯んでいる隙に、サフィアは双剣の刀身に更なる魔力を充填させて光の刃を作り出す。
「双牙鋏顎刃!」
そこから装甲の男の胴体へクロスチョップのように交差させた双剣の斬撃を叩きつけ、鎧に切れ目を入れながらも衝撃波を伴って、後方へ大きく吹っ飛ばした。
「虫野郎の相手はこの俺様だ!」
ジェドへ飛び掛かる蠍のような男の進路にアンバムが立ち塞がると、賺さず双剣の刀身に風の魔力を纏わせて、サフィアの剣技と同様に剣の刃を交差させる構えを取った。
「多重鎌鼬ッ――!」
その状態から双剣を勢いよく振り抜くと同時に、幾つもの真空の刃を発生させて向かってくる蠍の男に対して撃ち放つ。
「ぎぎゃっ?!」
蠍のような男は反応して避けきることが出来ず、目に見えない剃刀のような旋風に身体中をズタズタにされ、自慢の毒針が生えた尻尾も見事に切断されてしまった。
機動性や運動能力は高いが耐久に関しては大したことのなかった蠍の男は、アンバムの剣技を一度受けただけで戦闘不能に陥ってしまう。
攻撃の要であった二体がやられて自身も武器を失ったことで装甲の男は戦意を喪失し、降参の姿勢を取ったことで二回戦もレフィリアたちの勝利ということになった。
「死の遊撃隊チーム、戦闘継続不能! 勝者、聖騎士及び勇者御一行チーム!」
「……今更ですけど、私だけ全然戦ってませんよね。なんだか申し訳なくなってきました」
「いいんだよ、レフィリアちゃんは。大ボス戦に備えてゆっくり構えてなって。まっ、何ならその敵の総大将も俺様がぶっ倒してやるけどな!」
ガハハハと豪快かつ自信過剰に大笑いするアンバムに、レフィリアは思わず苦笑いする。
さあ、次はついに武闘大会の決勝戦だ――!




