勝ち抜け!異世界武闘大会の話②
――ナーロ帝国武闘大会、第一回戦。
レフィリアたちはランダムに組まれた対戦表のうち、一回戦最後の対戦カードで“マンイーターズ”と呼ばれる二人組と戦うことになった。
造魔人のチーム、“マンイーターズ”は黄金に輝く獅子の頭をした男と白銀に光る狼の頭をした男のコンビ。
どちらも最初から獣人という種族なのではなく、魔物の因子の影響によって人間の身体が変化したらしい。
頭部は獣だが、屈強な肉体にはきちんと人間のように衣服や鎧を纏っている。
しかし武器は携帯しておらず、おそらく猛獣の鋭い爪や牙で襲いかかって来るつもりなのだろうと推測できた。
「一発目で噂の人間チームとあたるとは、俺たちはなんてラッキーなんだ。生の人間の女の肉なんて、もう二度とありつけないかもしれねえ」
「見ろよ、聖騎士とやらのあの胸と太もも。めっちゃ美味そうだ、今すぐにかぶりつきてえ」
「向こうの青髪の女も良いなぁ。ああいったスレンダーで引き締まった体つきもそれはそれで好みだ」
「解る、すっげえ解る」
マンイーターの二人は下卑た視線を隠そうともせずに、舐めまわすように二人の身体をじろじろと視姦してまわる。
ふんふんと鼻息を荒くたて、口からは思わず涎を垂らしてしまっていた。
「だが相棒、すぐに食い殺すのはナシだ。まずは死体を堪能してから……だろう?」
「おっと、そうだな。せっかくの生きた女の肉、二重の意味で楽しまなきゃ損ってもんだぜ」
あまりもの下品な目つきと下賤な物言いに、こいつらには手加減しなくてもいいんじゃないかと、レフィリアですら思ってきてしまう。
するとアンバムが挑発的な口調でマンイーターの二人に話しかけた。
「おうおう、好き放題言ってくれるじゃねえか、獣畜生さんよう! 悪いが、この二人は俺様が先にいただく予定だ、テメエらの分なんかねえよーボケ!」
「なっ……! だ、誰が貴方のものになったんですか?!」
「あー、先にこの男を殺らなきゃダメですかねえ……」
アンバムの発言にレフィリアとサフィアが面食らっている中、獣頭の二人がいけ好かない男の挑発に牙を剥く。
「何だテメエ! 貴様なんか、食うにも値しねえ! 臓物引き抜いて脳漿ぶちまけた後、その死体に小便かけてやらあ!」
「やれるもんなら、やってみろよ! つーか、テメエら臭えんだよ! ちゃんと糞した後、尻拭いてんのか? 人間だった頃の習慣忘れて動物みたいにプリプリその辺に垂れてんじゃねえだろうな!」
「んだとゴルァ!」
アンバムは両手に双剣を出現させると、レフィリアたちの前に躍り出る。
しかし握った双剣の刀身には、夕日色に輝く光刃が今回は出ていない状態である。
「テメエら雑魚なんか、俺様一人で十分だ。オラ、かかって来いよ」
「いい度胸だ! その余裕かました面を焼いた挽肉にしてやる!」
黄金獅子の男は鬣を逆立てると、全身から沸き立つように火炎を発生させる。
加えて牙と爪を超高温に赤熱化させると、物凄い速度でアンバムへ接近し、首筋目掛けて腕を振り下ろした。
「おっせえよ」
しかしアンバムが持っていた片方の剣の斬り払いで手首ごと容易く切断され、黄金獅子の男は突然の痛みから仰け反ってしまう。
「なああッ……?!」
その直後、いつの間にか真横に飛んできたアンバムが剣の柄で黄金獅子の男の頬を思いきり殴りつけると、そのまま牙と顎の骨を粉砕してしまった。
「がほっ……!」
「もう人間食べられないねえ!」
殴られたまま吹っ飛ばされて地面に転がった黄金獅子の男を嘲笑うアンバムの側面から、白銀狼の男が叫ぶ。
「テメエ、よくもやりやがったな! これでもくらえ!」
白銀狼の男は口を大きく開けて極低温のブレスをアンバム目掛けて放出する。
本来なら人間を全身の血液ごと瞬時に凍結させるほどの威力の冷気。
しかしその直撃を受けてなお、アンバムは平然とした表情で白銀狼の男の方を向いた。
「なっ?! 俺のブレスが効いてねえだと!」
「テメエ、口くっせえんだよ! ちゃんと歯ぁ磨いてんのか?!」
アンバムは即座に白銀狼の男の懐まで潜り込むと、敵の顎下に強烈なハイキックをぶちかました。
「ごふうっ……!」
白銀狼の男は相棒同様、牙と顎の骨を粉々にされた挙句、思いきり舌を噛んでしまった。
口から多量の血を流して怯んでいるところを、今度はアンバムの回し蹴りを受けて大きく吹っ飛ばされる。
「ぐがっ!」
「おーおー、意気込んでた割には大したことねえじゃねえか。……俺様はテメエらにトドメを刺して構わねえんだが、聖騎士さまの慈悲だ。ここで降参するんなら、これ以上痛めつけたりはしねえが?」
アンバムの言葉を受けて、地面に転がった獣頭の二人は痛みに悶えながらも、身体を起こしてアンバムを睨みつける。
「ふひゃへふは! はえは、ほうはふはは!(ふざけるな! 誰が降参なんか!)」
「ほほへいほへ、はへほひぉへふは!(この程度で負けを認めるか!)」
「――そうかよ。バッカだなあぁ、オエメら」
アンバムは眼前に立つ二人に対して、手に持った双剣をブーメランのように投げる。
「ははは!(馬鹿が!)」
「ほはほほ、ははふは!(そんなもの、あたるか!)」
獣頭の二人は飛んできた双剣を躱すと、そのまま徒手空拳となったアンバムに向かって真っ向から突っ込んできた。
「ひへ!(死ね!)」
アンバムの急所に向かって二体同時に鋭い爪が振り回される。
一度に二カ所からならば防げまいと、二人が思った瞬間――
「だからおっせえって!」
アンバムの繰り出した拳によって、二人の攻撃は爪ごと指と手の骨を破壊されて手首がひしゃげてしまった。
「ふおおっ……?!」
獣頭の二人が迎撃された事実と痛みに怯んでいると、背後から回転して戻って来た双剣の刃に背中を貫かれる。
「ふぐうううッ……!」
「これ以上は加減できねえわ。ジェド、あとはどうにかしてくれ」
「しょうがないなぁ。――仕置きの鎖鞭、インパルスチェーン!」
ジェドが呪文を唱えると、獣頭の二人の後方から細長い鎖が伸びて、背中に刺さっている剣の柄に巻き付く。
すると鎖から剣を通して高圧電流が流れ、二人の身体を痺れさせた。
「ひはあああああ!!!!!」
感電によるショック症状からか獣頭の二体は身体を痙攣させつつも失神してしまい、立ち上がることはなくなる。
これ以上の戦闘継続は不可能と判断され、審判が判定を下し大声で叫んだ。
「マンイーターズ、両者とも沈黙! この勝負、聖騎士及び勇者御一行チームの勝利!」
「こ、これって本当に手加減してるんですか……?」
「殺さねえように攻撃してるんだから、もちろん手加減だぜ。その結果、連中が死ぬかどうかは別問題だけどな」
「ま、まあとりあえず魔法で止血くらいはしとくよ。相手側がどう思うかは知らないけどさ……」




