勝ち抜け!異世界武闘大会の話①
――ナーロ帝国、武闘大会当日。
黄金帝都ドムサレアの中心地にある巨大円形闘技場では既に大勢の観客が集まって賑わいを見せており、ついに開会式が始まろうとしていた。
「会場にお集まりの皆さま、大変長らくお待たせしました! ただいまより、魔王軍主催の第二回ナーロ帝国武闘大会を開催いたします!」
司会担当の魔族が、魔力で可動するマイクのような拡声器でハイテンションに挨拶を行い、待ち侘びた観客席から感極まった歓声が聞こえてくる。
「それではこれより、前大会優勝者――つまり初代王者でもある大会運営委員長よりお言葉をいただきましょう」
司会の魔族から紹介を受けて、彼の隣にフォーマルな格好と胡散臭いサングラスをかけた、いかにもマッシブでガタイのいい壮年の魔族の男性が現れる。
「皆様、こんにちは。ご紹介に預かりました、本大会の運営委員長です。待ちに待った第二回ナーロ帝国武闘大会が幕を開けました。皆様も知っての通り、本大会では帝国内の予選大会を勝ち抜いた栄誉ある八組の選手たちによる決勝戦が行われます」
大会のシステムとしては既にこれまで帝国内の各地で予選大会が行われており、それに勝ち進み続けた造魔人調教師のみが、今日の本戦に出場できるという仕組みのようだ。
一、二分ほど演説をした後、大会運営委員長は大仰に手を振り上げながら、コロシアムの巨大な入場門を差す。
「それでは皆様お待ちかねの選手入場と行きましょう。今大会で優勝を競い合う、栄えあるデーモントレーナーとデーモンのチームは彼等たちだ!」
大会運営委員長の掛け声とともに、入場門からぞろぞろと造魔人を引き連れた魔族たちが闘技場の中へ入っていく。
その中にはもちろん、レフィリアたち一行の姿もあった。
魔族でもなければ造魔人でもないただの人間で、それどころか男性ばかりの会場に女性が現れたということもあって、レフィリアたちの姿を目にした観客席からは妙なざわめきが聞こえてくる。
「それでは厳しい予選を勝ち抜いて本戦まで進んだ七組及び、今大会特別枠のゲストチームである一組を含めた総勢八チームの紹介をしていきましょう!」
司会の魔族が唾を飛ばすように喜々として叫び、端の方から順に入場した選手チームを紹介していく。
「まずはハーピィのように美しい翼を持ったエルフの三兄弟! 火炎、冷気、雷撃を操る妖艶なる三鳥、“トライアタッカーズ”!」
「獣人化して人食い人間となった獰猛で残虐なコンビ! 倒して食い殺した造魔人は数知れない! 黄金の獅子と白銀の人狼による“マンイーターズ”!」
「怪力無双のドワーフ三人組! それぞれオーク、オーガ、トロールの能力を発現させた今大会屈指のパワーファイター! “マッスルファンタズム”!」
「半獣人の四人チーム! 剣、槍、槌、斧の扱いに秀でた白兵戦特化の狂戦士たち! “ビーストナイツ”!」
「元冒険者の人間二人組! 魔杖と剣を駆使する四本腕の魔法戦士と、槍と弓を器用に扱うケンタウロスの人馬兵! “4&4”!」
「息の合ったコンビネーションが凄まじい異形のトリオ! 全身凶器だらけの武装改造人間、蟹のような鉄壁の装甲が自慢のハーフドワーフ、蜘蛛のように舞い、蠍のように刺す暗殺ハーフエルフ! “死の遊撃隊”!」
「今大会の優勝候補ナンバーワン! 前大会でも二位の実力者にして、たった一人で勝利を収めてきた孤高なるダークエルフと人間のハーフ! “暗黒騎士アベルカイン”!」
「そして最後に、六魔将オデュロ様のご推薦による特別参加のゲストチーム! 今、各地で魔王軍を脅かしている、愚かにも恐ろしき人間の勇士たち。“聖騎士及び勇者様御一行”!」
最後に紹介されたレフィリアたちの存在を受けて、会場は改めて異様な雰囲気に包まれた。
もちろん、彼女らを応援する者など一人もいないし、いる筈がない。
レフィリアたちに魔族から向けられるのは、忌まわしい敵を見る憎悪の目、珍獣や物珍しいものを見るような奇異の目、魔物に惨たらしく凌辱される姿を望まれる嘲弄の目、と碌なものがない。
「ヒュウ、ここは化け物人間の万国展覧ショーか何かか? 見世物小屋の住人になった気分だぜ」
「アンバムさん、挑発的な言動は避けてください。彼らだって好きで魔物になった訳ではないんですよ」
「そりゃ最初はな。だけどレフィリアちゃん、連中の面をよーく見てみろよ」
アンバムに言われた通り、レフィリアはちらりと他の参加者、魔族が連れている造魔人の方を伺ってみると彼らの自分たちを見る目は何とも下賤なものであった。
「女だ! 女がいるぞ……!」
「人間の女なんてここに来てから初めて見た……!」
「女剣士だって? 対戦相手なら好きにしていいんだよな……?」
元々は人間であったろうに、戦いの日々に明け暮れたからなのか、それとも精神が魔物よりになってしまったからなのか。
造魔人と化した彼らの放つ雰囲気と殺気はすでに人のそれではない。
「な? 前にも言ったろ。ここまで残ってきてる連中はとっくに戦うことにも、誰かを殺すことにも慣れきっちまってるよ」
「……それでも、命を奪うのは極力控えてください。なるべく戦闘不能にするだけでお願いします」
「はぁー、めんどくせぇなあ。――じゃあレフィリアちゃんが俺と一日デートしてくれるってんなら、考えてやるよ」
「……分かりました。ですが、夜になったらすぐに帰りますのでそのつもりで」
「マジか……まあ、いいか。なら、なるべく善処するとしますよ」
アンバムはやれやれと肩を竦めると、ひとまずはレフィリアの方針に従うこととする。
二人がそんな会話をしている間も、司会の魔族はマイクパフォーマンスを加えながら説明を進めていく。
「本大会に出場した八組のうち、最後まで勝ち抜いた一組の造魔人調教師には、帝国最上位の上級国民権と優勝賞金100万マドカ、そして――この帝国の支配者であるオデュロ様との栄誉ある特別試合の参加権が与えられます!」
司会の演説によって会場が沸き立つ中、レフィリアはふと眉を顰める。
(エキシビションマッチ……?! 大会優勝者はオデュロと戦うことになる……!)
「へぇー、六魔将さまが自分からのこのこ出てきてくれるっての? そいつぁ、好都合じゃねえか」
「うっそ、大会に勝ったら今度は六魔将と戦わなきゃなんないの? まあ、元から戦うつもりでここに来たんだけどさぁ」
「六魔将オデュロとの戦闘が控えているなら、大会では体力を温存しなければなりませんね。その余裕があればですが……」
「心配すんなって、サフィアちゃん。この勇者アンバム様がついてるから、こんな魔物モドキどもの武闘大会なんか簡単に優勝できるって」
アンバムの発言が聞こえたからなのか、周りの参加者たちから睨みつけるような視線がレフィリアたちに向かって飛んでくる。
「だから挑発的な言動は避けてくださいって!」
「いいんだよ、レフィリアちゃん。どうせこんな奴ら、楽勝でぶっ倒せるようでなきゃ、六魔将なんて勝てっこないんじゃねえのか?」
「た、確かにそうですが……」
ついに始まったナーロ帝国武闘大会。
レフィリアたちは無事に、この大会を勝ち抜いていくことが出来るのだろうか。




