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敵地だけど異世界で宿を取る話①

 レフィリアたちが、今は亡きエルフの男ロンメルの手記を手に入れてから数日後。


 一行はついに、武闘大会の開催地であるナーロ帝国の首都、帝都ドムサレアに辿り着いた。


 街へ入る際に一悶着あるのではないかと覚悟していたのだが、正門で馬車を止められたレフィリアたちが招待状を見せると、魔族の兵士たちは彼女らが人間であるにも関わらず、歓待の姿勢を取ってすんなりと通してくれた。


「皆様が聖騎士レフィリア様とそのお連れの方々ですね。招待状、確かに拝見致しました」


「我が主、オデュロ様からお話は伺っております。どうぞ、ここをお通り下さい」


 あまりにも礼儀正しい魔族の兵士たちの対応に、レフィリアたちはどうにも面食らってしまう。自分たちはこの国へ戦いに来た、敵だというのに。


「皆様、この街で過ごす際はこの“メダル”を首からおかけください。これをかけている者は国賓として扱われますので、たとえ人間であったとしても襲われるようなことはなくなります」


 レフィリア一行は正門の魔族から、チェーンで繋がれた直径6センチほどの大きさの、何やら刻印が刻まれた黄金のメダルを受け取る。


 そして魔族の案内人たちが用意した来客用の豪奢な馬車に乗り換えると、まずはこの街に滞在するための宿泊施設へと向かうことになった。


 因みに魔族の馬車はただの馬ではなく、バイコーンと呼ばれる魔物が引いているものであった。


「――すごい活気ですね」


 レフィリアたちが移動している間に馬車の窓から外を覗くと、帝都内には大勢の魔族が行き交い、生活している様子が見て取れた。


 レフィリアはこれまでガルガゾンヌやサンブルクなどの魔族が支配している街を実際に見ては来たが、ここまで喧騒に包まれた都市を見るのは初めてである。


 その街が元気に溢れた様子はエーデルランドの王都と同じかそれ以上に感じる程だ。明らかに街中の人口密度が異なる。


 買い物をしている者、店で食事をしている者、散歩をしている者、荷物を運んでいる者、仕事をしている者……その生活している姿は人間とほとんど変わらない。


 ……ただしかし、よく観察すれば魔族たちの傍には必ずペットか何かのように人間やエルフ、ドワーフ、獣人などがお供するように付き従っていた。


 いや、この場合は家畜や奴隷と言った方が正しいのだろうか。


 実際に荷運びや掃除、建物の建築や修繕といった仕事や雑用を行っているのは魔族ではなく、人間のように見える。


 しばらくして公園のような場所の近くを通りかかると、人間でいうところの十歳ほどの見た目にみえる魔族の子供たちが、広場で人間同士を戦わせて遊んでいる様子が目に入った。


「やれー! そこでファイアショットの魔法だ!」


「おい! フォトンシールドで炎を防げ!」


 周りでワーワー騒いでいる魔族はどれも子供だが、戦わされている人間はどちらも成人した大人である。


 両者ともそれなりに武装していて魔法の杖やメイス、短剣などを持っており、互いに魔法をぶつけあってはしのぎを削っているようだ。


 レフィリアは馬車を運転している案内人の魔族に、子供たちが何をしているのかを訪ねてみる。


「あの……あそこにいる子たちは何をしているのですか?」


「え? ああ、造魔人闘技デーモンバトルの訓練というか、ごっこ遊びですよ。……もしかして造魔人闘技デーモンバトルについてはご存じありません?」


「……ええ」


 魔族の案内人はうっすらと意味深な笑みを浮かべると、あえて親切な口調を崩さないまま説明を始めた。


「では僭越ながらご説明致します。このナーロ帝国では魔族化させた人間、即ちデーモンを戦わせる競技がどこでも日常的に行われています。この競技の勝敗及び勝率が、そのままこの国での社会的なステータスに直結するのですよ」


「はあ……」


「この街では戦闘力第一主義であり、生まれの良さや頭の良さよりも実力の高さの方が最重要視されます。つまり力と実績さえあれば、誰だってのし上がっていくことが出来るのです」


「完全な弱肉強食の実力社会……それ自体は俺様も否定はしねえが」


 アンバムは頬杖をつきながら、何ともだるそうな口調で感想を述べる。


「自分じゃなくて、他人を戦わせて強さを競うってのがどうもねえ」


「別に本人が手を汚さなくとも、強い何かを育てて用意できるというのも、強さの形の一つですよ。何も直接殴り合うだけが戦いではないのです」


「へえ、そういうもんかい」


「人間の皆様には馴染みがありませんかね? そんなことは無いと思いますが」


 魔族の案内人は、まるでレフィリアたちの反応を楽しむかのように涼し気な顔で受け答えしながら、馬車を引いていく。


(確かにこの街の様子とエルフの人が書いた手記の内容は一致している……てことは、街にいた人たちはみんな、他所から連れてこられて魔物化させられてるってこと……?)


 レフィリアが考えを纏めていると、いつの間にか一行を乗せた馬車は、この帝都で一番の宿へと到着した。


 見た目からすぐに判るほどの、いかにも裕福な金持ちしか泊まれないといったような豪華な装飾の建物である。


「武闘大会は三日後です。それまでどうかごゆるりとお過ごし下さい。何かご要望がありましたら、そのメダルを公職の者に見せて頼めば対応していただけますよ」


 魔族の者達が宿へ荷物も運んでくれようとしたのだが、レフィリアたちは自分らで運ぶと断りを入れた。


 ここは魔王軍の胃袋の中といえる完全な敵地。客人扱いされているとはいえ、絶対に油断は出来ない。


「はー、これだけの大都市。魔族だらけじゃなけりゃあ、いくらでも遊んで回るんだがなあ」


「アンバム、絶対にここの食べ物とか口にしちゃ駄目だよ。知らないうちに魔物になっちゃうかもしれないしからね!」


「んなこと、言われなくてもわーってるよ!」


「ひとまず水や食料もまだ数日分は余裕があります。この街で私たちの手持ちの飲食物以外は口にしないでください」


 サフィアから冷静に注意され、全員がしっかりと頷く。


 レフィリアは大丈夫かもしれないが、他の三人がもし魔物の因子を知らないうちに取り込んでしまった場合、治す手段なんて見当もつかない。


 その点については、細心の注意を払わねばならないだろう。


「しっかし、せっかく街に来たのに旅の間と同じ飯食わねえといけねえのは辛いなあ」


「でも魔族のことだし、人肉を使った料理とか出してくるかもしれないよ?」


「うげ、それは勘弁だな……」


「確か人間が人間を食べると、クール―病とかいう病気にかかる可能性がある筈です。一旦かかると致死率100%で絶対に助からないとか」


 レフィリアが急に思い出した知識を語ると、サフィアが感心したように彼女を見る。


「レフィリアさん、詳しいですね。流石は現役で学院に在籍していただけあります」


「あ、いえ。別にこれと私が受けてる学科は関係なくて、ただテレビで観――本で読んだだけの知識でですね……」


「レフィリアちゃん、まさかとは思うが人間食ったことある訳じゃねえよな?」


「え?! ヒト食べたことあんの! カニなんとか?!」


 マジかよ、といった顔をするアンバムとジェドにレフィリアが突っ込む。


「ある訳ないじゃないですか!」


「ははは、冗談だって。何なら、俺様の鍛え抜かれた魅惑の身体ボディを味わってみないか? 今から寝室でお互いに食べ合いっこするのもいいぜ?」


「私が解体して魔物の餌にでもしてあげましょうか?」


「サフィアさん、落ち着いて! 武器仕舞って!」


「あー、ごめんごめん! ちょっとアンバム、こっち来て反省しようねー」


 双剣に手をかけるサフィアをレフィリアが止め、ジェドがアンバムの耳を引っ張って二人を引き離す。


「いっててて! 何しやがる!」


「と、とりあえず大会まで問題を起こさないよう、この街では静かに過ごしましょう」


「そうですね。……まあ、少しくらいは目立たないように敵情視察してもいいとは思いますが」


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