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勇者一行と異世界道中紀行の話①

 レフィリアたちがホルンの街を出発してから数日後。


 ベルヴェディアの国境付近にある防衛拠点の砦跡を超えて、一行はついにナーロ帝国の領土へと足を踏み入れた。


 ナーロ帝国の大地は、テラロッサと呼ばれる石灰岩の風化で出来た赤土のような土壌が分布する、やや乾燥した気候の荒野が広がっている。


 そして帝国内に侵入したレフィリア達を乗せた馬車は、程なくして洗礼とばかりに突然の襲撃を受けていた。


「前方から魔物の集団がこちらに向かって突撃してきます!」


「サフィアさん、馬車お願いします! 私たちで迎撃に出ますので!」


「何なの、あの魔物! 見たことないけど、すっごい気持ち悪い! あと数多すぎ!」


 レフィリアたちの馬車に迫ってきている魔物は百体以上の軍勢であったが、どれも2メートルを超えた人型の怪物であった。


 それも明らかな異形で、肌は赤黒かったり青白かったりと気色が悪く、筋肉が盛り上がっているだけでなく骨格が変形していたり、血管や内臓、はては腫瘍のようなものが身体中に浮き出たりしている。


 剝き出しの乱杭歯で白目を剥いており、いかにも理性などないというような顔つき。身体からは棘が生えていたり、腕が肥大化して大きく鋭い爪が伸びていたりする。


 例えるならば、まるで某生物災害をテーマにした有名ゲーム作品に登場する、暴君の名を冠したクリーチャーといったところだ。


 そんな悍ましい化け物どもがレフィリアたちを包囲しようと、数百メートル先から全力疾走して大量に群がってきているのである。


「ほら、勇者様! こういう時こそ、出番なんじゃないの?!」


「おう、俺様の雄姿をしっかりその目に焼き付けろよ!」


 ジェドに促されたアンバムが馬車から飛び降りると、まるで変身ヒーローのように鎧を瞬間装着し、何もない空間から両手に双剣を出現させた。


 そして双剣の柄の部分を向かい合わせに連結させると、まるで弓のような形状に変形させる。


「これこそがこの武器の真の使い方だ!」


 弓の上下に夕日色の光刃が発生するとともに、光の弦と光の矢がアンバムの手元に出現する。


 アンバムはその弓を目にも止まらぬ速度で連続して引くと、まるでマシンガンのように光の矢を魔物の軍勢向けて射出した。


「ぐがっ?!」


 光の矢は外れることなく全て見事に直撃。


 しかも着弾した時点で閃光を伴い、まるで榴弾のように轟音を伴って爆発した。


 矢があたった対象だけでなく、周囲の魔物も巻き込んで、爆裂した矢の光熱と衝撃波が敵の集団にダメージを与えていく。


「ちょっ、何いまの?! もしかして爆弾の矢……?!」


「ハハッ、そうさレフィリアちゃん! この弓で撃つ矢は派手に爆裂するんだぜえ!」


 ハイテンションにそう言い放ちながら、アンバムは弓矢を連射して、接近してくる敵軍をドカドカと爆殺していく。


 威力があるのは頼もしいが、それにしても爆発音がかなりうるさい。花火大会どころではない、耳をつんざく凄まじい騒音だ。


 アンバムが一方的に迫りくる敵を釣瓶打ちにしていると、今度は翼の生えた個体の群れが迂回しつつ回り込んでレフィリアたちのところへ近づいてきていた。


「おいジェド、空にいる奴らはお前がやれ」


「はいはい、そんじゃいっちょやりますか!」


 ジェドが元気にアンバムの隣へ躍り出ると、クルクルと身長より長い魔杖――のような槍を回して、手に握ると同時に魔法を詠唱する。


「吹き荒れろ、トルネイドディザスター!」


 声高らかに呪文が唱えられた直後、空中を集団で飛んでいた怪物たちの真下から、突然巨大な竜巻がうねりを上げて発生する。


「ぎひっ……?!」


 瞬間的にではあるが、風速100メートルを超える突風の渦動が、飛行する怪物たちを塵芥のように吹き散らしていった。


 これは竜巻の強さを示す指標(藤田スケール)でいうところのF4に相当し、自動車が何十メートルも宙を舞うほどの凄まじい規模である。


「かーらーのー、もう一発! 裁きの雷霆、ライトニングボルトォーーーッ!」


 更にジェドは槍を大きく掲げると、追撃とばかりに大量の雷を発生させて、木っ端のように飛ばされていく怪物たちを纏めて撃ち抜き、焼却していった。


 端から見ても明らかなオーバーキルの猛攻により、軽く百体以上はいた筈の怪物たちが、地上にいたものも含めて一気に片づけられる。


「驚きました……専門の大魔導師を遥かに凌駕する規模の極大魔法を連続、かつ一工程シングルアクションの詠唱で発動させるなんて……」


「す、すごいです。もしかしてこれなら、あのゲドウィンとだって正面から魔法勝負できるんじゃないですか……?」


 ジェドが連続で撃ち放った魔法の威力にサフィアとレフィリアが唖然としていると、アンバムが面白くなさそうに隣のジェドへ食ってかかった。


「おいジェド! お前、派手にやり過ぎだ! 俺様より目立つような真似すんじゃねえよ!」


「えー、アンバムだって好き放題ドカンドカン撃ちまくってたんだから、僕にも気持ちよく魔法ぶっぱさせてよ! だいたいこの魔法、強力過ぎてこんなだだっ広くて何もない場所でしか使う機会ないんだよ!」


「うるせえ! お前にばかり注目が集まったら、俺様の勇者としての面目が立たないだろうが!」


 目の前の景色から敵がいなくなって、またもやいつもの口喧嘩を始めるアンバムとジェド。


 その様子をまるで漫才コンビのようだと苦笑いしながらレフィリアが眺めていると、急に大きな地鳴りが聞こえてきたとともに、大地ごと足元が揺れ出した。


「うおっ?!」


「ちょっ、今度は何?!」


「敵の姿は見えませんが……!」


 サフィアの言う通り、周囲を見回せども接近してくる敵影はない。


 しかし何か巨大な存在がこちらに向かってきているような感覚が確実にある。


「もしかして、地中あしもと……?!」


 レフィリアが地面に視線を落とした瞬間、一行の数十メートル先の大地が轟音とともに弾けたかと思うと、地中から大きな影が姿を現した。

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