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自分だけが異世界無双したい話②

「何だい?」


「先ほど貴方は、僕が“自分の実力を再確認しようとしている”とか云々言っていましたよね」


「ああ、それがどうかしたかな?」


 するとカリストロスは、同じ陣営の仲間である彼に対して、静かだが猛獣めいた殺気の籠った笑みを向ける。


「じゃあ、少し私の能力の確認に付き合ってくれませんか? ここにいたデカいだけの案山子では到底役者不足でして」


 カリストロスの提案を聞いて、ゲドウィンはやれやれと肩を竦めた。


「模擬戦ってことかな? ……まあ、いいでしょう。それで貴方の気が済むなら」


 ゲドウィンは落ち着いた佇まいでカリストロスから少し距離を取ると、詠唱することもなく魔法を発動し、自身の四方に大きな魔法陣を出現させた。


 そしてその魔法陣からは一瞬にして、サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノームの四大精霊を出現させる。


「四大元素の精霊ですか。ベタですねえ、錬金術師パラケルスス気取りですか」


「まあまあ、そう言わずに」


 そう言うと、何故かゲドウィンはカリストロスに回復魔法をかけた。


 大して疲弊した訳ではないのだが、カリストロスの身体に活力が漲る。


「……何のつもりですか?」


「さあ、回復してやった! 全力でかかってくるがよい!」


 いかにも大仰な仕草でイキイキと言葉を発するゲドウィンに、カリストロスは数秒ほど固まってしまう。


「……何かのセリフです?」


「あれ、分かんなかったかなー? 僕の中の四大属性ってこの四天王のイメージなんだけど。……まあ、いいや」


 気を取り直すと、ゲドウィンは更に何やら魔法を発動させて、光の輪で四方に並ぶ四大精霊を包み込む。


 すると四大精霊たちは一つの塊に合わさって、大きな光の球体となった。


「ちょっと僕も実戦で使ってみたかった魔法があったんだよねえ。……食うか? ユナイト弁当~♪」


 カリストロスには何やらよく判らない言葉をゲドウィンが口ずさむと、四大精霊が一つになった光の球体が突然弾けて、中から一体の巨大な怪物が姿を現した。


 それは先ほどの四大精霊が合成されたような形状で、それぞれ頭部と胴体がサラマンダー、手足がノーム、背中の翼がシルフ、尾がウンディーネのパーツで構成されていた。


「ッ――! 四大精霊の合成獣キメラッ?!」


「そうそう、君のような物分かりのいい男は好きだよん。――てことで、名前はどうしようかなあ。《マレブランケ》とかにしようか?」


 さっきからどこかふざけた様子で喋るゲドウィンだが、目の前の怪物は異世界の住人からすれば明らかに災害級の脅威となる存在だ。


 ついさっきまでカリストロスが戦っていた巨人はおろか、最強魔獣種のキングベヒモスでさえ凌駕する戦闘力を誇るであろう。


「それじゃあ、始めようか。カリストロス君!」


 ゲドウィンが片手を挙げると、四大精霊の合成獣――マレブランケは咆哮とともに大口を開けて、口から真っ黒な球体を発射した。


「ふっ――!」


 カリストロスは容易く攻撃をかわすが、彼目掛けて放たれた黒い球体はその先にあった10式戦車に着弾すると、その頑丈な複合装甲にきれいな丸い穴を開けて貫通させた。


「何ッ?!」


「今のは四属性の魔力を完全に組み合わせた分解消滅弾ですよ。あたると物理的な耐久力を無視してガオンさせちゃうんで、気をつけてくださいねぇー!」


 そう言って、今度はその分解消滅弾とやらをマレブランケは何発も連続発射してくる。


「――はっ、慇懃な口調のくせに十分こっちを殺るつもりじゃないか!」


「でないと、貴方は満足してくれないだろう!」


「当たり前です。そして偉大な赤い先人は言いました――当たらなければ、どうということは無いと!」


 カリストロスは黒い球体の連続弾を躱して回り込んだ先で指をパチンと鳴らすと、自身の周囲に数十人の猟犬兵を一度に大量召喚する。


 猟犬兵の集団はその手にM16やらAK-47やらステアーAUGやら、様々な自動小銃アサルトライフルを節操なく装備しており、それらをマレブランケに向けてすかさず一斉発射した。


 しかしマレブランケは回避動作をとらないどころか、銃弾の来る方向に対して地面からせり出すように大きな石壁を出現させて、ライフル弾の雨あられを正面から受け止める。


 そして間を置かずに翼を大きく広げると、背後の空間に無数の太く鋭い氷柱を発生させて、それらをミサイルのように撃ち放った。


「ッ……!」


 カリストロス自身は咄嗟に反応して攻撃を回避したが、風の魔力を纏わせて射出速度をあげた氷柱弾への対処が遅れ、残った猟犬兵たちが降り注ぐ広範囲爆撃に晒される。


「ぎっ……!」


「がっ……!」


 数人の猟犬兵たちが鋭利な氷柱に身体を刺し貫かれて、黒い煙のように霧散する中、カリストロスもただやられっぱなしではなく、一気に跳躍して体操選手が後方宙返りをするかの如く、マレブランケの遥か頭上をとる。


 そして上空からサマーソルトの要領で、6インチのコルトパイソン357マグナムを握った両手を真下のマレブランケの頭部に突き出すと同時に、自身の周囲にもCA870 タクティカルやSGR‐12といったショットガンを無数に空中展開させた。


「えっ、嘘?!」


 ゲドウィンが反応して対処するよりも早く、弾丸の集中豪雨がマレブランケの全身を容赦なく撃ち抜き、文字通り蜂の巣にしてしまう。


「がああッ……!」


 本来ならばただの物理的損傷ではダメージを負うことすらない精霊種であったが、カリストロスの銃雨を受けたマレブランケはどういう訳か銃創を再生することも出来ず、普通の生き物と同じように息絶えて倒れると、そのまま霧散するかのように消滅してしまった。


「おお、流石はカリストロス君! まるで映画のようにアクロバティックなガンアクションと神速のクイックドロウだったねえ! いやあ、これは僕の負けだ!」


 ゲドウィンが素直に褒め称えて彼へ拍手を送ると、地面に着地したカリストロスは呆れたような表情でゲドウィンの方を向いた。


「――まだ戦いは終わっていませんよ」


 カリストロスはいつの間にか拳銃ではなく、携帯対戦車兵器であるパンツァーファウスト3を背負っており、しかもその砲身を既にゲドウィンへ向けている。


「え?」


 そして、その弾頭を一切の容赦なく無防備なゲドウィンに向けて発射した。


 ロケットブースターに点火された成形炸薬弾が、少し距離を取った場所にいるゲドウィンに対して正面から直撃する。


「ぶべらッ……?!!!」


 本来ならば戦車などを破壊するための用途で使われる威力の榴弾を受けて、ゲドウィンは成す術もなく凄まじい爆風に巻き込まれる。


「なーに、使い魔を倒された程度で終わった気になっているんですか。これだから魔法使いって連中は」


 立ち昇る土煙と黒煙を眺めながら、カリストロスは余裕そうに腕を組んでそう吐き捨てる。


 いくら不死身の如き再生能力を持つ糞骨魔導士ゲドウィンでも、頭からつま先まで木っ端みじんに吹き飛ばされれば一溜りもないだろう。


 むしろ、このまま死んでくれたとしても一向に構わない。そっちの方が全然良い。


 そもそも魔法なんかでこのカリストロスの鉄火をどうにか出来ると思うこと自体が烏滸がましいのだ。


「――うーん、酷いなあ。何もここまでする必要はないんじゃない?」


 すると、薄れかかってきている土煙の中から、わりと元気そうな聞き覚えのある声が聴こえてきた。


「何ッ……?!」


「目覚ましバズーカにしても、ここまでビックリドッキリはしないと思うよ」


 土煙がほとんど消えて無くなり、パンツァーファウスト3の弾頭が炸裂した場所には、ゲドウィンが尻もちをついた状態で座っていた。


 貴族風の衣装は多少千切れたり焦げたりしてボロボロになっているものの、彼自身は汚れているくらいでほとんど損傷は受けていないように見える。


(どういうことだ? 対戦車榴弾の直撃を受けて無事だと……? 確かにヒットした筈だが……)


「でも模擬戦にしては、ちょっと張り切り過ぎじゃないかな? 僕じゃなかったら間違いなく死んでたよ。まあ、僕ってアンデッドだからもう死んでるようなもんか」


 いや、死霊アンデッドだろうが、物理攻撃を無効化する不定形の魔物だろうが関係ない。


 カリストロスの銃火は、神秘的な加護や魔法による防御などを完全無視して、あらゆる存在を等しく殺し尽くす筈なのだ。


 あの糞女聖騎士レフィリアを例外として、それ以外は全てこの異世界で何度も間違いなく証明されてきた。


 しかし眼前にいる髑髏の魔導師は、見る限り損傷軽微にしか映らないのは明らかにおかしい。


「とりあえず、今回の模擬戦は僕の負けということで終了にしていいかな? これ以上、続けると本当に殺し合わなければならないからね」


 ゲドウィンは地面に落ちた帽子の埃を払うと、それを被りながらすくっと立ち上がる。


「え、ええ……では、私の勝ちということで」


 ――そうだ。おそらくはお得意の転移魔法で回避したか、やられた後に替えの新しい身体を持ってきたかだ。


 いや、転移する隙など与えなかったから、きっと後者だ。


わざわざスペアの身体をすぐに取り換えて、まるで攻撃を受けても無事だったように見せかけるとは、いけ好かない魔導士らしくなんと小癪で姑息なのだろう。


 しかしそうでもしなければ、同じ六魔将として最強であるこの自分に対等な態度で接することなんて出来なくなるのだから、まあ仕方ないか。


「それじゃあ、僕は魔王城に帰るよ。今回のような勝手な行動は、今後しないようにね」


 そう言うと、ゲドウィンは転移魔法であっという間に目の前からいなくなってしまった。


 結果として、カリストロスは模擬戦だとしてもゲドウィンに勝利した。


 しかし何なのだろうか、この心に残るもやもやとした気持ちは。


 カリストロスは巨人たちのいなくなった森の中で一人、何もない虚空を忌々し気に睨みつける。


「――私の“鐡火”はあらゆる神秘オカルトを凌駕する。私の能力がこの異世界で最強の筈なんだ……!」


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