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自分だけが異世界無双したい話①

 時も場所も大きく変わって、ここはとある秘境の大地。


 この世界の人間たちでさえも、きちんとした場所を知る者の少ない、“巨人族”が暮らしている集落の存在する地域である。


 普段は妖精郷と同じような神秘的地形効果によって、ただ歩みを進めるだけでは辿り着くことのできない静かな場所なのだが、現在ここはある者の手によって戦火に見舞われていた。


 とてつもなく巨大な針葉樹林が聳え立つ森林地帯の更に遥か上空を、十数機のアパッチが我が物顔で飛行していく。


「――こんな所にこそこそ隠れていましたか」


 大木の影に身を潜めていた、身長5メートル程の巨人数体に対して、アパッチ機首下のM230 30mmチェーンガンが金切り声を上げて一斉掃射される。


「ぐがああっ……!」


 巨人たちの身体は瞬く間に細かい穴だらけとなり、逃げ惑いつつもくぐもった声をあげては一人、また一人とバタバタ倒されていく。


 するとそのアパッチの編隊に目掛けて、遠くの方から巨大な岩石や引っこ抜かれた木の幹などが次々と飛んできた。


「ハッ、何と原始的な攻撃だ――!」


 しかしアパッチの編隊はまるで初めから攻撃されるのを予知していたかのような余裕のある動きで華麗に躱し、一機も掠ることすらなく突然の投擲攻撃を完全回避した。


 巨木や岩石が砲丸のように飛んできた方向にいる巨人たちの姿を即座に視認し、アパッチの編隊を指揮する軍服姿の襲撃者レイダー――カリストロスは全機を急速反転させる。


「そのデカい図体でいつまでもゲリラ戦の真似事ができると思わない方がいい」


 カリストロスはアパッチの編隊を巨人の投擲部隊に対して向けると、機体のパイロンに搭載されているM261ロケット弾ポッドを派手に撃ち放った。


 巨人たちは自らが投げつけた物よりも遥かに早い速度で飛んできた物体に反応が出来ず、猛烈な爆炎で身を焼き焦がしながら一網打尽にされる。


 すると今度は10~15メートル程の大きさの巨人たちが十数人、棍棒や石柱などを持って羽虫でも叩き落すが如く、アパッチの編隊に向けて突進を仕掛けてきた。


 おそらくは隠れて気を伺っていても駄目だと判断したのだろう。カリストロスからしてみれば、それこそ愚行の極みであるが。


「捨て身で特攻すればどうにかなるとでも思いましたか? 浅はかですねえ!」


 ところが地響きをたてて走って来る巨人たちの先には既に十数台の10式戦車部隊が回り込んで向かっており、70キロ近い速度で爆走しながら44口径120mm滑空砲の狙いをとっくに定めてしまっている。


「撃てッ――!」


 一発目はAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)による一斉射撃。


 10式戦車自慢の走行しながらも目標を自動追尾し捕捉する正確なスラローム射撃によって、巨人たちによる突撃部隊の前列が悉く撃ち抜かれて、壊滅する。


 そして追随する巨人たちの足が止まった瞬間、今度はすかさず次弾としてHEAT弾(成形炸薬弾)による飽和攻撃が行われた。


「があああああっ?!!」


 砲弾が着弾した際に超高速で噴出する液体金属のメタルジェットによって、後続の巨人たちの群れは纏めて葬り去られていく。


「――ふう。戦車砲の斉射による敵の殲滅は、一か月ぶりの射精に匹敵する快感ですねえ。……ですが」


 カリストロスは虫けらでも見るかのような冷めた視線で、地上で死に絶えていく巨人たちの姿を眺める。


「巨人というだけあって、少しは歯ごたえを期待したのですが、思っていたほど大したことなかったですねえ。身体が硬くなって武器や鎧になったり、岩塊を散弾のように投げる毛むくじゃらでもいるかと期待したのですけど」


 そんなことを余裕綽々な態度で言い捨てながら、カリストロスは自身の乗っているアパッチの扉をこじ開けると、そのまま飛び降りて地上にいる10式戦車の砲塔部分へ優雅に着地する。


 まだ奥の方から湧いてきている生き残りの巨人たちが、落ちてきたカリストロスを捕捉して群がってこようとしていると、彼はおもむろに腰の鞘から短剣を抜き放った。


「あのナントカ機動装置でピュンピュン飛び回りながら巨人を狩るのも、何だか楽しそうですねえ。――まあ、今の私には必要ありませんが!」


 そう言うと、カリストロスは一足で数十メートルもジャンプしてから、周りに広がる木々を縦横無尽に蹴って飛び回り、襲ってくる巨人たちを弄ぶかのように翻弄する。


「ぐがっ?!」


 巨人たちは頭をぶんぶん振ってカリストロスを捉えようとするが、周囲を跳び回り続ける彼を一向に視認することが出来ず、ただただ混乱していくばかりである。


 そしてカリストロスは巨人の一体の背後から首筋にとりつくと、ちょうど延髄の位置を短剣で斬りつけた。


「ぎゃっ……!」


 別にこの巨人たちは、カリストロスこと奈浪 信二の元いた世界で有名だった漫画に出てくるものとは生態から何から違う別物なのだが、彼はわざわざ首の裏側に飛び乗って斬りつけるという戦法に固執して、巨人たちを一体ずつ屠っていく。


 結局急所であることには変わりない部位に、小さな短剣で斬られたとは思えない程の深い切創を受けて、カリストロスを包囲しようとした巨人たちは纏めて返り討ちにされてしまった。


 最後の一体を始末して地上に降り立ったカリストロスは、短剣を勢いよく振って刀身に付着した巨人の血を払うと、地鳴りが遠ざかっていくある方向をじっと見つめる。


 その方角はちょうど巨人たちの住処がある場所で、どうやらどうあっても勝てないと悟り、戦意を失った彼らはここから必死に逃げ延びようとしているみたいだった。


「残りは追い回すだけ面倒ですねえ。この森ごと焼き払ってしまいますか」


 カリストロスがいつものように指を鳴らすと、上空を旋回していたアパッチの編隊が、捕捉完了していた残りの巨人たちの群れへ向けて、ヘルファイアミサイルを惜しみなく全弾一斉発射した。


 降り注ぐミサイルの集中豪雨を受けた巨人たちは、絶叫をあげながら成すすべもなくミンチより酷い肉片へと変わっていき、故郷の森ごと無慈悲な地獄の業火に焼かれていく。


 アパッチを操縦している猟犬兵を通して成果を感じ取ったカリストロスは、やや満足そうな笑みを浮かべたあと、ふと己の左手をじっと見つめた。


 それは既にレフィリアから受けた傷が完全に治された箇所であったが、あの肉体的にも精神的にも大きな痛みを負った瞬間を思い出して、軍服の男は顔を顰める。


「私がこの世界で最強なのは確かな筈だ。しかしあの女がいるせいで“俺”は余計な苦痛や心労を感じる羽目になっている。あの女さえいなければ……!」


 あのいけ好かない善人気取りの女騎士さえいなければ、自分は絵に書いたような悠々自適の異世界蹂躙ライフを送られた筈なのに。


 こんなものは、俺の望んだ異世界転移生活なんかじゃない。


 そんな恨み節を一人呟いていると、突然背後から気配を感じ取ってカリストロスは振り向く。


 すると、彼の後ろにはいつの間にか貴族姿の骸骨男であるゲドウィンがこちらへ歩いてきていた。


「カリストロス君! 勝手にこの場所の巨人たちを殲滅しちゃダメだよ! ここは実験材料用に巨人種を“わざと”生かしている保護区に指定していたのは君も知っていた筈だよね?!」


 髑髏面なので表情こそ判らないものの、いかにも慌てた口調でゲドウィンはカリストロスに詰め寄って来る。


 思えばカリストロスは彼のことも正直気に入らない。


 なるべく相手と口論に発展しないよう気をつかった喋り方も、何かと博識ぶって周囲を纏めようとしたり、傷を治したり施設を作ったりと仲間の世話を焼こうとしてくるところも。


 カリストロスが望むのはもっと殺伐とした個人主義の関係で、仲間同士のつまらない仲良しごっこなど唾棄すべきものである。


「――ええ、勿論知っていましたよ。ですが図体だけ大きい癖にこんな簡単に滅ぼされる木偶の棒なんて、いてもいなくても一緒でしょう」


「はあ、だとしても使い道は色々あっただろうに。勿体ないなあ、この辺りに巨人の生命反応はもうほとんど残っていない。本当に隅から隅まで殲滅しちゃったんだねえ……」


 残念そうに頭を抱えているゲドウィンはカリストロスを怒鳴りつけようとしたりはしなかったものの、数秒の沈黙を置いて静かに彼へ言葉をかける。


「カリストロス君、君は聖騎士レフィリアとの戦いで少し自信を失ってきてるんじゃないのかな? だからこうして不安定になってきているというか、自分の今の実力を再確認しようとする行動を取るんだ」


「……何だって?」


 怒るのでも文句を言うでもなく、むしろ心配するような彼の発言に、カリストロスは思わずイラっとした。


 精神分析でもしようとしているのか知らないが、一体何様のつもりなのだろうか。


「カリストロス君。貴方はただ能力をぶっ放すだけじゃなくて、一度自分のG.S.A.をよく吟味してみた方がいいかもしれない。貴方の能力はこの異世界に対して、間違いなく一番の驚異となり得る。その本質が理解できればきっと――」


「知ったような口を偉そうに利かないでくれますかね? 貴方に私の何が解るというのです」


 カリストロスからの明確な殺気を感じ取って、ゲドウィンはこれ以上は追及しないように引き下がる。


「……すまない。忠告のつもりだったんだけど、差し出がましかったようだね」


「全くです。私の能力はこの異世界で無敵にして最強。分析も吟味も必要なく、ただ無慈悲で一方的な暴力のように振り回すだけでいい。異世界転移もののチートとは、そういうものでしょう?」


 カリストロスの何とも毒されきった持論に、ゲドウィンは内心大きなため息をつく。


 彼にこれ以上、何を言っても無駄かもとゲドウィンは帰ろうとすると――


「ああ、ちょっと待ってもらってもいいですか?」


 カリストロスに呼び止められ、ゲドウィンは転移魔法を中断した。

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