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新登場する異世界の勇者様の話②

 ――ホルン市街西門付近。


 ナーロ帝国側から侵入してきた魔王の軍勢は、首都や重要拠点ですらない一つの街を攻め落とすにしては、明らかに過剰といえる物量の戦力であった。


 その内容はなんと、キングベヒモスが十三体と、それに随伴する歩兵としてのワーウルフ等といった獣人たちが数百人近く。


 ベヒモス自体が魔物でも最上位に位置する魔獣ビーストだが、キングベヒモスはそれの更に上位種であり、たった一体でもアダマンランク冒険者レベルでなければ安心して相手できない程の驚異的な存在であった。


 全高10メートル以上、全長3~40メートル近くもある筋骨隆々とした巨体はまさしく特撮に出てくるような怪獣そのものであり、普通の街ならば一体暴れ回らせるだけで簡単に壊滅させることが可能である。


 しかし、そんなキングベヒモスが侵入口である西門から入って、ほとんど街の中に攻め込むことも出来ないまま、まるで山のように積み重なって、既に息絶えた屍を晒していた。


 その様子を空中高くに飛んでいる魔族の男が一人、悔しそうに歯噛みしながら何もできず眺めている。


「ぬう……まさか、これほどとは……!」


 如何にも魔族のエリートといった風貌の男は、その偉そうな見た目通りこの軍勢の指揮官であるが――これ程の一方的な状況は全く想像していなかった。


 先日、ナーロ帝国側からベルヴェディアの防衛拠点である砦を突破した彼は、側近の部下にキングベヒモス一体とベヒモスの群れ数十体を与えてこの街に送り込んだのだが、結果として部隊は壊滅してしまう。


 その知らせを受けた魔族の指揮官は、勇者を名乗る存在が現れたことを聞いて油断せずに追加戦力を増強し、再度ホルンの街への侵攻作戦を開始した。


 彼の目的は街の破壊と住民たちの虐殺――ではなく、街ごと住民たちを虜囚として捕らえることである。


 あからさまにキングベヒモスの群れを見せつけるように行進させ、魔族の指揮官はホルンの街の住民たちに無条件降伏を迫った。


 もし受け入れなければ、このキングベヒモスの群れが街ごとお前たちを踏み潰し、木っ端のごとく蹂躙すると。


 しかしいまだホルンに滞在していた“勇者”とやらが颯爽と現れ、結果は対立。瞬く間に交戦することと相成ったのだが――


「――悪いなぁー。せっかくこんだけの魔獣を引き連れてきたのに、俺がみんなぶっ殺しちまって」


 空中に浮遊しながら地上を見下ろす魔族の指揮官の視界の先、積みあがったキングベヒモスの死体の上から、自信に満ちた若い男の声が聞こえてくる。


「つーか“勇者”である俺にかかれば、ベヒモスもキングベヒモスも大して変わんねえわ。むしろ図体がデカい分、狙いやすいくらいだぜ」


 傲岸不遜に喋り散らかすその男は、夕日のようなオレンジ色の髪をした、長身の青年であった。年齢は20代後半くらいに見える。


 首から下の全身には、いかにも豪奢で高級そうな、ギラギラとした白金のような鎧を纏っており、両手には二対の双剣を握っていた。


 その双剣もまた白金のように輝いている、三日月型に反り返った片刃の刀身をしているが、そこからは黄昏を思わせる光の刃が長く伸びている。


「くっ……貴様、何者だ?! たかが人間のくせに、これだけのキングベヒモスを一人で仕留めるなど、有り得ていい筈がない……!」


「だぁから“勇者”だっつってんだろ。人の話聞いてんのか? それとも頭悪ぃのか? まー、なんにせよ、どんだけベヒモス連れてこようが俺の相手になんてならねえけどな!」


 頭上の魔族相手に怒鳴り散らす、勇者を名乗る男の周りには既に動いているキングベヒモスはいない。


 事実として、魔族の指揮官が連れてきたキングベヒモス十三体は全てこの男によって倒され、無惨な死体と化してしまっている。


 加えて周囲に展開していた獣人の歩兵たちも片手間ついでに屠られており、半分近くまで数を減らされた歩兵たちは、勇者の男を包囲してこそいるものの眼前の敵の恐ろしさから萎縮し、つい足を止めてしまっていた。


「――おい、雑魚の掃除は任せるわ。俺がやってもいいが、倒し甲斐が無さ過ぎてめんどくせえ」


「はいはい、しょーがないなあ。もう」


 するとキングベヒモスの死体の影から、飄々としたもう一人誰かの人影がひょっこり姿を現した。


 それは萌える新緑のような色の長い髪を編んだ、少年とも少女とも判断のしにくい中性的な顔つきをした華奢な体躯の人物であった。


 その人物は、勇者の男が持つ武器と同じような白金に輝く長杖を掲げると、魔法を詠唱しだす。


「射貫け、マジックアロー!」


 明るく弾んだ声による、ほとんど名前を唱えただけの魔法行使。


 すると緑髪の人物の周りに何百もの、星のように瞬く小さな光の球が無数に出現したかと思うと、それらは一斉に発射されて獣人の歩兵たちを纏めて釣瓶打ちにした。


「があああっ!」


 光の魔弾は逃げる歩兵や物陰に潜んでいた歩兵も自動索敵、自動追尾して正確に射貫いていき、生き残っていた魔王軍の兵士たちを一気に殲滅していく。


 そしてほんの数秒で、魔族の指揮官以外の全ての魔物や兵士たちが一体も残さず倒されてしまった。


 その状況に慌てた魔族の指揮官は、苦し紛れな笑みを浮かべながら勇者の男に声をかえる。


「……み、見事だ。これ程の実力ならば、俺が出向いてきただけの価値があるというもの」


「ああん?」


「俺はお前を魔王軍の客将として、招待スカウトしたいと思っている。こんな街の住人を何千人連れて行くよりずっと良い。その凄まじき力、魔王軍のために活かしてくれるというならば、人間とはいえ破格の好待遇を約束するぞ?」


「寝言は寝て言え。ボケ」


 勇者を名乗る男は、間髪入れず右手に握っていた片刃の剣をブーメランのように魔族の指揮官へ投げつけた。


「ぬおっ……?!」


 魔族の指揮官は自分の周囲に魔力による防御障壁を張っていたのだが、それすら紙のように引き裂いて、投げられた剣の刃は彼を胴体から両断する。


「人に物を頼むのに上から目線で話してんじゃねえよ。つーか野郎の頼みなんざ、土下座されても聞くか。せめてボインのサキュバスねーちゃんなら考えてやらんこともねえがな」


 回転しながら戻って来た片刃の剣を、勇者を名乗る男は難なくキャッチし、それと同時に真っ二つにされた魔族の死体が地面に落ちて転がる。


 敵が全ていなくなったことを確認した男は、剣の刀身から伸びていた光刃を消し去ると、かったるそうに首をボキボキ捻って鳴らしだした。


「しっかし、まーたやっちまったなぁ、俺。一人で一度にキングベヒモス十三体も討伐なんて、前代未聞の偉業だろ、コレ。先代勇者超えたな」


「だとしても、もーちょっと謙虚な態度取った方がより勇者らしいと思うけどねえー」


「ああん? そんなの、ただの嫌味だろ。じゃあアレか、俺様また何かやっちまいましたってか?」


「いや、そうじゃなくてさ」


 そんな風に戦闘後、呑気に喋っている二人の様子をレフィリアとサフィアは、ある程度離れた物陰からじっと眺めていた。


 ――というか、二人が着いた時点でキングベヒモスの群れは全て倒されていた上、他にも街の住民たちが逃げもせずに結構大勢、建物の影からギャラリーとして観戦していたので今更参戦するよりは、彼らに万が一流れ弾が飛んできたりしないよう傍で見張ってた方が良いだろうと判断したからでもある。


 まあ、それすらも結果的に必要なかったのであるが。


「はあぁー、あんなに大きな魔物の群れを街にそれほど被害も広げずに全部やっつけるなんて……確かに勇者を名乗るだけはありますね」


「ええ、しかもアレはキングベヒモスという極めて強力かつ狂暴な魔獣です。私も兄さんと一緒なら数体は屠れる自信はありますが、一度にあれだけの数となると……」


 レフィリアとサフィアが観察しながら小声で話をしていると、安全になったと判断した街の住人たちがぞろぞろと建物の影から出てきては、魔物を全滅させた二人のもとへと集まっていく。


「ありがとうございます、勇者様!」


「一度ならず二度までもこの街を救っていただけるとは!」


「勇者様、かっこいいわあ! キャー!」


 老若男女問わず、大勢の住民たちが二人を取り囲んで彼らに感謝と称賛の言葉を次々と投げかける。


「これだけの化け物を退治して、さぞお疲れのことでしょう。今日も是非、我々に貴方方をもてなさせていただきたい!」


「もうお昼時ですから、まずはお食事などどうでしょうか!」


 住民たちの喜びに満ちた態度を受けて、勇者を名乗る男は満更でもない様子でポリポリと頬を掻く。


「あー、別にそれほど疲れちゃあいねえが、まあ腹は減ったな」


「じゃあ今日もご馳走になる? ここの料理って美味しかったしさあ。特にチーズを使った料理!」


 相棒と思われる緑髪の人物に問われ、勇者を名乗る男は考え込むように腕を組む。


「昼飯はいいんだが、もうこの街に三日も滞在してっからなあ。いい加減予定通りに出発した方がいいんじゃねえの?」


「でも今からご飯食べて街を出ても、中途半端な時間にならない? それならもう一泊して朝から余裕もって出ても良いと思うけど」


「宿の方も引き続き、無料で泊まっていただいて構いませんよ。是非、今日も我が町でゆっくり過ごしていってくださいな」


「ん-、どうすっかなあー」


そんなことを話しながら、二人はひとまず住民たちに案内されてどこかへ昼食を取りに向かうようである。


人混みに囲まれながら街中へ移動する彼らを眺めながら、レフィリアとサフィアは更に二人の様子を分析し始めた。


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