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王都襲来!異世界の狂戦士の話③

「だ、団長が! 団長があああっ!」


「おのれ! よくもやりやがったな!」


「団長の仇ッ……!!」


 固まったまま動けない兵士、恐れから逃げ腰になる兵士がいる中で、勇敢にも立ち向かおうとする兵士たちがオデュロに向かって斬りかかろうとする。


「ふんッ――」


 しかし彼らも、オデュロがもう片方の手に握っているショーテルによって一瞬で解体バラされてしまった。


 そしていよいよ、動かなかった他の兵士たちにも襲いかかり始める。


「疾風の如き俊足で駆け抜けろ――クイックネス!」


 だがルヴィスは勇気ある兵士たちが与えてくれたほんの少しの時間を無駄にせずに、魔法を詠唱して敏捷性を強化した。


 これならば少しくらいは対応できるかもしれない。


「絶刀のオデュロ! お前の目的はもしかしてレフィリアか?!」


 大声で問いかけたルヴィスの言葉に、オデュロはピクリと反応して攻撃を手を止める。


「――貴様、聖騎士レフィリアが何処にいるか知っているのか?」


「……知っているとしたら?」


 ――食いついてきた。やはり目当てはレフィリアか。


 今は一秒でもいいから時間を稼ぐ。不甲斐ないのは百も承知だが眼前の騎士を相手するには、どうしても彼女の力が必要だ。


「……いや、別にいい。貴様から聞く必要はない」


「何ッ……?!」


 そう言うと、オデュロはルヴィスを攻撃対象として向き直り、ショーテルを振り翳す。


「確かに俺の目的は聖騎士だが、ここでこうして暴れていれば彼女の方からやってきてくれるだろう。だから何処にいようと関係はない」


 拙い。向こうはもうこちらと会話しようという気は一切無い。


 そして次は確実に攻撃が飛んでくる。一撃でもいい、何とかして攻撃を防がなければ――!


「貴様、見れば悪くない剣を持っているな。次はその武器を使わせてもらおうか」


 それだけ言うと、オデュロはルヴィスに向かって真っすぐに斬りかかって来た。


「ちいッ――!」


 ルヴィスは全神経、全感覚を集中し、もはや後先考えない渾身の力を込めて全身全霊の剣を振るう。


 魔法によって自身の敏捷性や反応速度を強化したものの、それでも依然としてオデュロの剣筋どころか予備動作すら全く見えない。


 しかしルヴィスの剣戟は、なんとオデュロの斬撃を正面から受け止めることに成功した――が、勢いを抑えきれず、そのまま一直線に壁まで吹っ飛ばされてしまった。


「がはあぁ……ッ!」


 ソニックブームを伴う超威力の攻撃を受け、ルヴィスは壁面に罅を入れる程激しく背中を打ちつける。


 剣を握っていた両腕の骨はどちらも粉砕骨折し、身体を強打した影響で骨や筋肉だけでなく、内臓にすら甚大なダメージを受けていた。


 完全に戦闘不能な状態。しかしたとえ瀕死であっても、オデュロの攻撃を正面から受けて何とかまだ生き延びていた。


「――ほう、まだ生きているか。その辺の有象無象と違って少しは運も実力もあるようだな」


 そう言いながら、オデュロは刀身が折れて無くなったショーテルの柄を放り捨てる。


 そう。ルヴィスが死ななかった理由の一つとして彼の実力の高さも確かにあるだが、同時に剣をぶつけ合った時にオデュロの剣の刀身がちょうど折れたということも要因にあった。


 つまり、そのどちらが欠けていてもルヴィスは今の攻撃で間違いなく死亡していたのである。


「ほんの少しだが寿命が延びたな」


 オデュロは彼なりの人間に対する称賛を込めた言葉をかけながら、床に転がったルヴィスの剣を拾い上げる。


(ああ……こいつは、ヤバいな……)


 次は確実にトドメを刺される。しかし身体はどう踏ん張ろうとしても指先一つ動かせない。


 それどころか意識すら朦朧としてきている。ルヴィスが諦めかけようとした、その時――


「そこを動くなああああああ!!」


 大きな叫び声と共に、オデュロの後方からレフィリアが剣を振り上げて飛び掛かって来た。


「ッ――?!」


 瀕死のルヴィスを目撃してからの、反射的に行った空間跳躍による一気に距離を詰めた斬撃。


 だがオデュロは即座に反応すると、手に取ったルヴィスの剣で振り向きざまにレフィリアの攻撃を容易く弾き返した。


(嘘っ?! 速いッ……! しかも重い!)


 衝撃と振動でじんと腕が痺れたレフィリアは着地と同時に体勢を立て直すと、またオデュロと斬り結べるよう光剣を構えなおす。


「おお、やっと来てくれたか。お前に会いたかったんだよ、聖騎士レフィリア!」


 オデュロはようやく目当ての人物に会えたとばかりに、明らかに嬉しそうな口調で彼女を出迎える。


「――貴方が六魔将の一人、絶刀のオデュロですか」


「如何にも! ああ、如何にも! 俺のことを知ってくれているのは嬉しいな! 俺は前々から、お前と直接会うのをずっと心待ちにしていたのだ!」


「……それはどうも」


 低めの男性の声で喋る眼前の鎧騎士は自分のことをずっと待ちわびていたようだが、大量殺戮者なんかにそんなことを言われても全然嬉しくはない。


「それで、私に何の用ですか。――って、殺しに来た以外にはないんでしょうけど」


「いやいや、それがそうでもない。今日ここに来た目的はお前に会いに来ただけであって、戦いまでするつもりはないのだ」


「何ですって……?」


 予想外の回答にレフィリアは思わず眉を顰める。


「今日の俺は、あくまでコレを渡しに来ただけなんだ」


 そう言うとオデュロはどこからか手紙の封筒のようなものを取り出し、それをレフィリアに向かって手裏剣のように投げる。


レフィリアがそれを手に取ると、何かの招待状のように見受けられた。


「……何ですか、これ?」


「見ての通り、招待状だ。俺が管理者として支配する地、《ナーロ帝国》で開かれる武闘大会へのな」


「……こんなものを渡す為だけに、貴方は直接ここまで乗り込んできて、あまつさえ人を大勢殺したというのですか?」


 冗談にしてもあまりにふざけ過ぎている。


 レフィリアは静かな殺気の籠った目つきでオデュロを睨みつけるが、オデュロはむしろ嬉しそうにその視線を受け止めた。


「ああ、そうだ。ただせっかく敵地へ乗り込むのに届け物をするだけでは、流石につまらないからな。一つゲームにも興じていたのだ」


「ゲーム……ですって……?」


「ああ。お前へ招待状を届けるのとは別に、制限時間内に何人人間を狩れるのかというマンハントだ。しかも自前の武器や素手による攻撃は用いず、全て現地調達した武器でのみ殺すという“縛り”も設けてな。……まあ、それでも目標人数はすぐにクリアしてしまったが、難易度設定が甘すぎたか」


「…………」


 一人で勝手にベラベラと語る鎧騎士に、レフィリアは呆れたり憤るを通り越して全くの無表情になる。


 こいつはここで仕留めなければならない。こいつをここから逃がしてはならない。


 目の前の騎士は招待状だけ渡してそのまま帰ろうとしているようだが、こんなふざけた危険人物を野放しになんかしていられない。


 そもそもそんなに私と戦いたいのならば、回りくどいことはせずに今ここで戦えばいい――!!


「お、頭に来たか? もしかして面倒だからもういっそのこと、ここで倒してしまおうとか考えていないか?」


「……そこまで解っているのなら話は早いです。ええ、全くその通りですよ」


 レフィリアは腰を低く落としてすぐにでも飛びかかれるよう、光剣を構える。


 まずはオデュロの注意を自分側こちらに引いて彼をこの場から引き離し、その間に後方にいるサフィアたちに負傷したルヴィスを救助たすけてもらわなければ。


「んんー、それも悪くはないがオススメはしない。何てったって――」


 オデュロは片手を上げて人差し指を立てると、次に中指を立ててVの字を作る。


「この場には六魔将が“二人”もいるからな」

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