王都襲来!異世界の狂戦士の話②
――エーデルランド王城。
レフィリアたちがお茶会をしていた頃、ルヴィスはちょうど王城で元帥や王国の騎士団長らと、個人的にこれまでやこれからの事についての話し合いをしていた。
しかし王都内に敵が侵入したという緊急報告を受け、彼は騎士団長と共に急いで迎撃に向かおうと城内を移動する。
そして城のエントランスホールまで辿り着いたところで、騎士団長は集まっていた兵士のうち一人に声をかけた。
「団長! それにルヴィス様も!」
「魔王軍の刺客に王都正門を突破されたと聞いたが、現状はどうなっている?」
「ハッ、それが敵はたった一人なのですが猛攻凄まじく、もう既に城門も突破されてすぐ目の前の広場で戦闘が行われています!」
「何だとっ?! 我々が正門を突破されたという報告を受けてからまだ十分と経っていないぞ! それもたった一人とは一体何者だ……?!」
三十代半ば頃の短めな黒髪に漆黒の甲冑を纏った騎士団長が、目を見開いて驚愕する。
「はい、血のように赤い鎧の騎士ということで、おそらくは――」
「絶刀のオデュロか」
兵士の言葉を遮り、ルヴィスが思い立った名を口にする。
「この短時間に単独で王城まで攻め込んでくるなんて真似は、魔王か六魔将くらいしか出来ない。それにそんな判りやすい特徴があるヤツといったら、もう一人しかいない」
ルヴィスの話を聞いて、騎士団長は厳しい顔つきになる。
「ううむ、しかし突然正面から強襲してくるとはなんと恐ろしい敵だ。――おい、レフィリア様のところへ連絡は行っているのか?」
「ハッ、勿論聖騎士様のところへも別の兵士が既に向かっています」
「ならば良い。では我々もその襲撃者への迎撃に出る。――諸君、我が国と王に仇なす不届き物をこれ以上、王城の中に近づけさせるな!」
騎士団長の力強い言葉に、エントランスホールに集っていた兵士たちが士気を上げて一斉に返事を返す。
その様子に騎士団長は頼もしそうに頷き、ルヴィスと共に外へ出ようと玄関口へ向かおうとした瞬間――。
玄関を閉じていた大扉がバラバラに破壊され、外から吹っ飛ばされた数十人の兵士の死体がばらまかれるようにエントランスの床に散らばった。
「――ッ?!!」
突破された玄関口からは、がしゃんと鎧を鳴らして、真っ赤な甲冑の騎士が一人、悠々と城内へ入って来る。
その全身は返り血を大量に浴びたことで、テラテラと濡れて赤い鎧をもっと鮮やかに彩っており、見るからに不気味で悍ましい。
そして両手にはそれぞれ違った武器を握っており、片方には棘が生えた鉄球が鎖に繋がれたモーニングスター、もう片方には鎌のような刀身の剣であるショーテルを持っていた。
「――貴様が噂に聞く絶刀のオデュロか」
鎧と同じく黒塗りの両手剣を手に取りながら、騎士団長は臆せずにオデュロへ声をかける。
「如何にも。――という意味のない受け答えを何度繰り返したか」
オデュロが今立っている位置、彼の背後の玄関口からは、先ほどまで戦場になっていたであろう外の広場の様子が少しだけ覗いて見える。
そこはちょっと見えただけでも一目で判るくらい、大勢の兵士の死体と地面を濡らす鮮血が広がる死屍累々の景色となっていた。
その光景を目にし、騎士団長は手にした剣の柄に力を込めながら、静かな殺意の視線を目前の騎士へと向ける。
「ここから先には一歩も通さん。貴様はここで食い止める」
「――そうか。少しは骨のある相手だと俺も嬉しいのだが」
途端、騎士団長の頭にモーニングスターの鉄球がめり込むと、潰れたトマトのように頭蓋と脳漿を弾けさせて周囲に撒き散らした。
「――ッ?!!!」
その場にいたオデュロ以外の全員が、何が起きたのか認識できずに驚愕し、固まってしまった。
結果としては単純にオデュロが持っていたモーニングスターを投擲しただけなのだが、あまりにその動作と速度が速すぎて反応すら出来なかったのだ。
騎士団長の隣にいたルヴィスが最もその事実を理解し、無意識に息を呑んだ。
(真正面からの攻撃に反応できなかった……! アレをもし俺に向けて投げられていたら、俺も確実に殺られていた……!)
改めて六魔将の、異世界から来た使徒の恐ろしさを実感する。
目の前の化け物を迎え撃つどころか、レフィリアが来るまで留めることすら自分には出来るのだろうか――。




