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待ち受ける異世界の襲撃者の話④

「――ッ?! 一体、何が起きた!」


 レフィリアが着地した地点からは火炎とともに黒煙と土砂が舞い上がり、その様子を戦車の上からカリストロスが注意深く確認している。


 すると立ち昇る煙から突き抜けるようにして一直線にレフィリアが飛び出し、大きく光剣を振り下ろして10式戦車の主砲を切断した。


「――おっと」


 カリストロスは余裕のある動きで戦車の砲塔から飛び降りると、大きく後ろに飛び退いてレフィリアから距離をとる。


(なるほど、今の様子なら地雷もまた防御能力の対象に入るようだな。……ならばプランBだ)


 断ち切られた主砲がゴトンと重い音を立てて地面に落ち、それと同時に着地したレフィリアに対して、カリストロスは何かを手にチラつかせた状態で彼女へ声をかけた。


「聖騎士レフィリア、あまり好き勝手に動き回らない方がいいですよ。――これを見なさい」


 レフィリアがカリストロスの方を向くと、彼の手には何かリモコンのようなものが握られている。


 そしてカリストロスがリモコンのスイッチを押すと、数ある人質達が詰め込まれた檻のうちの一つが大爆発を起こした。


「な、何を……ッ?!」


 檻の中にいた住人たちのほとんどが即死し、辛うじて死ななかったものたちは破片による裂傷に加えて全身を火だるまにされたことで、死ねた方が幸せだったと言わんばかりの極めて悲痛な絶叫をあげてのたうち回っている。


 他の檻に入れられた者たちもその光景を目にしてしまったことでパニックになり、早く出してくれと鉄格子を激しくゆすって泣き叫び始めた。


「あの檻には爆弾が仕掛けられています。――というか、この場所自体が全て遠隔操作式の地雷原となっています。もちろん、貴方のお仲間が今いる場所の足元にだって沢山埋まってますよ」


 いまだ自身が優位だと信じて疑わないカリストロスの表情に、レフィリアは信じられないと怒りの籠った目で彼を睨みつける。


「貴方はどこまでも残酷で惨いことを思いつくのですね。とても私と同じ世界から来たとは思えません……!」


「だぁから、ここは異世界なんですって。――それに元はと言えば貴方が悪いんですよ、聖騎士レフィリア。貴方が私をコケにしなければ、そんな厄介な能力を持っていなければ、こんな作戦を決行する必要もなかったのですから」


 あまりに理不尽で一方的な逆恨みだが、レフィリアは下手に動けなくなってしまった。


 ダメージを負った今のレフィリアでは十全に動けるとは言い難く、カリストロスへ飛び掛かろうとものならその間に大勢の人間を殺されてしまう。


 何より先ほどロズェリエに対して空間跳躍からの攻撃を使用してしまったのが、致命的に痛かった。


 あれが今使えれば、彼の手に持っているリモコンごと腕を真っ先に斬り落としてやれるものを。


「……私にどうしてほしいというのです」


「その場から動かないでください。少しでもそこから離れれば、あそこにいる哀れな住民どもか貴方の仲間を爆殺します」


 そう言うと、カリストロスは指を鳴らして猟犬兵をぞろぞろとレフィリアのいる所に向かわせ、逃げられないよう包囲した。


「その女に身の程を思い知らせなさい」


 カリストロスが大仰に腕を前に突き出して告げると、猟犬兵の一人がレフィリアの背後からウォーハンマーを大きく振りかぶって彼女を殴打した。


「うぐっ……?!」


 殴りつけられたレフィリアは痛々しい声をあげて地面に倒れる。


 底からは只々凄惨なリンチが行われた。


 ハンマーで殴られ、ハチェットで斬りつけられ、銃剣バイヨネットで刺される。


 背中を踏まれ、腹部を蹴られ、顔面を殴られる。


 レフィリアは何とか急所だけの直撃は避けるようにガードしていたが、それでも堪えて耐え忍ぶ以上のことは出来ず、一行に反撃へ転じることが出来ない。


 その光景は傍からすると、少女一人が大勢の大男たちに囲まれて弄られているという見るに堪えない状況であった。


「兄さん! あれでは……!」


「分かっている! 助けに行くぞ!」


「駄目です二人とも! 今、レフィリアさんに近づいてはいけません!」


 いてもたってもいられず防壁から飛び出してレフィリアを助け出そうとする兄妹に、今度は賢者妹が大声で制止した。


「何を言っている! あれではいくらレフィリアでも――」


 そう怒鳴りかけて賢者妹の方を振り向いたルヴィスは、そこであることに気づき目を見開いた。


「――ッ?! まさか、君は……!」


「“まだ”ここから動いてはいけません。動いてしまっては全てが台無しになります」


 レフィリアはしばらく弄られ続けたあと、猟犬兵に背後から身動きをとれないよう押さえつけられ、別の猟犬兵から右肩にコンバットナイフを突き立てられる。


「あ゛あ゛あああッ!!」


 よりによって一番負傷の激しい部位である右腕にナイフを突き刺してはグリグリと抉って傷口を広げ、苦痛を与えていく。


 そんなレフィリアの痛みに歪んだ表情を目にして、カリストロスは口元をつい綻ばせると、より機嫌よく饒舌に語り始めた。


「いい気味ですねえ。――第一、私の《イマジナリ・ガンスミス》が効かない者がいること自体、おかしいのです。王道の中世ファンタジーに我々の世界の現代兵器を持ち出せば、無双できて然るべきなのが当たり前なのです」


(イマジナリ……何? それが、この男の……G.S.A.……?)


「貴方の存在は言わば、この異世界ゲームにおける不可解なバグです。バグは速やかに取り除かれ、修正されなければならない。魔法も銃器も効かないなんてふざけた貴方バグが消えることによって、始めてこの異世界は私の能力が最強である正常な形を取り戻すのです」


 そう言い終えてカリストロスが手を振ると、肩にナイフが深く刺さったままのレフィリアを猟犬兵が地面にうつ伏せに寝せて足で背中を押さえつける。


 そしてもう一人がレフィリアの首の位置にハチェットの刃をあてがった。


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